2024/3/31 カンブルラン×音大FO マーラー「アダージョ」とラヴェル「ダフニスとクロエ」2024年03月31日 21:16



第13回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ

日時:2024年3月31日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:シルヴァン・カンブルラン
演目:マーラー:交響曲第10番より「アダージョ」
   ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」


 年度末のこの時期、首都圏の音楽大学の選抜メンバーで編成された「フェスティバル・オーケストラ」の演奏会が行われる。未来のスター・プレイヤーたちが熱演を聴かせてくれる。今回はシルヴァン・カンブルランの指揮でマーラーとラヴェル。
 カンブルランは4,5年前まで読響の常任指揮者であったから何回か聴いた。もちろんラヴェルやメシアンなどフランスものが面白かったけど、スメタナやヤナーチェク、ドヴォルザークなど東欧の作曲家についても新しい発見があった。
 マーラーは「交響曲第6番」が鮮烈な演奏だった。多様なモチーフで構成された複雑な作品について、内声部のすみずみにまで光をあて、オーケストラを良く鳴らしていた。

 今日の演奏会は、そのマーラーの「交響曲第10番」アダージョから始まった。
 カンブルランは、70歳半ばだと思うけど、身体はギクシャクしたところがなく柔らかい。タクトを持たず全身を使ってリードする。音楽も滑らかで細部にまで神経が行き届き明快かつ繊細だ。
 アダージョは中間部において皮肉な表情を見せるが、全体のトーンは悲痛極まりない。ヴィオラの序奏で開始され(ここのヴィオラ・セクションは見事だった)、主題のヴァイオリンと管楽器が入ってくるところで震撼した。その後、音楽は不安を抱え安定しないまま進む。最後、管楽器の最強音で頂点を築く。トランペットの苦痛にみちた叫び、木管楽器たちの懊悩など、学生たちはマーラーの告別の歌を見事に演奏した。

 休憩後、70人程度の合唱と8人の打楽器奏者が加わって「ダフニスとクロエ」全曲。
 神秘的な序奏から始まるラヴェルの管弦楽法に魅了される。オケの弱音が美しいこと。「夜想曲」「間奏曲」を経て「戦いの踊り」に入ると、カンブルランの運動能力、リズムのキレのよさに陶然とする。
 第3場の「夜明け」「無言劇」「全員の踊り」は、第2組曲でお馴染み。精妙でありながら、勢いがあり音量も十分。昨年に引き続きオケの性能がいい。合唱は熱気をおび、各楽器のソロが冴え渡る。カンブルランの、これ以外考えられない速度感に納得。
 圧巻の演奏で会場は興奮気味、聴衆の大きな拍手が長く続いた。

3月の旧作映画ベスト32024年03月30日 08:09



『ゴースト/ニューヨークの幻』 1990年
 映画として実によくできたストーリー、ありえない話なのだけど笑いながら泣きながら引き込まれていく。ファンタジー、サスペンス、ラブコメディなどの要素がてんこ盛り。主な登場人物は主人公の銀行員サム(パトリック・スウェイジ)、恋人の美術家モリー(デミ・ムーア)、サムの同僚のカール(トニー・ゴールドウィン)、インチキ霊媒師のオダ・メイ(ウーピー・ゴールドバーグ)。惜しいことにパトリック・スウェイジは若くして亡くなってしまった。デミ・ムーアはショートヘアが最高に似合って可愛いこと。ウーピー・ゴールドバーグは文句なしのはまり役で、アカデミー賞の助演女優賞を獲得した。バックに流れる「アンチェインド・メロディ」が切なく悲しい。

『ホリデイ』 2006年
 ロサンゼルスのアマンダ(キャメロン・ディアス)は離婚が決まり、ロンドン郊外に住むアイリス(ケイト・ウィンスレット)は失恋した。愛を失った2人はネットで意気投合し、気分一新のためお互いの家を交換して休暇を過ごすことに。そして、違う環境において気になる男性が現れる……監督は後に『マイ・インターン』を撮るナンシー・マイヤーズ。キャメロン・ディアスと相手を務めるジュード・ロウのシーンが多めで、その後の展開も予想通り、というかお決まりの出来すぎた筋書き。だけど、これが楽しめる。ラストは思いっきりハーピーエンドで元気をもらえる。ロマンチックコメディならではの運命の出会いと結末はこうでなくちゃ。洒落た会話に頷きながら両女優の表情を眺めるだけでも楽しい。

『女王陛下のお気に入り』 2019年
 『哀れなるものたち』のヨルゴス・ランティモス監督の作品。エマ・ストーンも出演している。18世紀イングランドの王室が舞台で、物語の背景は史実を踏まえたもの。女王アン(オリビア・コールマン)を補弼する権力者レディ・サラ(レイチェル・ワイズ)と、サラの従妹にあたるアビゲイル(エマ・ストーン)との女性同士の愛憎劇、女王アンの寵愛をめぐっての馬鹿し合い。ブラックユーモアたっぷり、苦笑いの連続。宮廷はまさに豪華絢爛、広角を多用した映像も斬新。音楽(挿入曲)が凝っていてヴィヴァルディ、ヘンデル、バッハなどのバロック音楽が絶えず流れ、途中シューマンの「ピアノ五重奏曲」や現代音楽なども加わる。そしてエンディングではシューベルトの「ピアノソナタ21番」の第2楽章が聴こえてくる。映画とクラシック音楽の親和性を改めて感じる一本。

フェスタサマーミューザKAWASAKI 20242024年03月26日 19:16



 今年の「サマーミューザ」のプログラムが発表になった。期間は7月21日から8月12日までの19公演、会場はミューザ(17公演)とテアトロ・ジーリオ・ショウワ(2公演)において開催される。

https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/

 地方からは兵庫芸術文化センター管弦楽団と浜松国際管楽器アカデミー&フェスティヴァルワールドドリーム・ウインドオーケストラが参加し、いつものように県内の2つの音大、洗足学園と昭和音大も出演する。

 興味を惹くのは、井上道義×新日フィルによるマーラー「夜の歌」、園田隆一郎×神奈川フィルの團伊玖磨とプッチーニ、原田慶太楼×東響の伊福部昭あたりだろうか。ざっとみて聴きたい公演が10ほどあるけど、ここから半分くらいまで絞り込んでいきたい。チケットの発売は4月の中旬から始まる。

日米親善よこすかスプリングフェスタ 20242024年03月23日 20:11



 たえず雨が降り、とても3月下旬とは思えない寒い中、抽選に当たったので、米軍基地において開催された「よこすかスプリングフェスタ」へ行ってきた。老若男女、小さな子供たちもたくさん繰り出し、ものすごい人出だった。
 基地内に入るまで関門が3カ所あり、最初が当選メールのチェック。次いで身分証明書の確認、免許証だけでは駄目で本籍記載書が必要。以前のように免許証に本籍記入があれば、こんな面倒はなしで済むのに。最後は手荷物と金属探知機による検査があった。
 艦船見学のため11時半ころ列に並び、立ち食いのピザを抱えながら延々3時間、15時過ぎにようやく指揮統制艦「ブルーリッジ」に着いて艦内を見学した。そのあと、お目当ての空母「ロナルド・レーガン」に向かったのだけど、見学時間はすでに終了とのこと、残念。疲労困憊、クタクタになって帰ってきた。

2024/3/20 ファミリー・クラシック ピアノ四重奏版「エロイカ」2024年03月20日 20:38



ヴィアマーレ・ファミリー・クラシックVol.23
 ピアノ四重奏で聴くベートーヴェンの「英雄」

日時:2024年3月20日(水祝) 14:00開演
会場:はまぎんホール ヴィアマーレ
出演:ヴァイオリン/戸原 直、直江 智沙子
   ヴィオラ/大島 亮
   チェロ/上森 祥平
   ピアノ/嘉屋 翔太
演目:ピアノソナタ第23番ヘ短調Op.57
     「熱情」より第1楽章
   ヴァイオリンソナタ第5番ヘ長調Op.24
     「春」より第1楽章
   弦楽四重奏曲第13番変ロ長調Op.130
     「カヴァティーナ」より第5楽章
   交響曲第3番変ホ長調Op.55「英雄」
     (リース編曲ピアノ四重奏版)

 久しぶりに演奏会をハシゴした。モーツァルト・マチネからファミリー・クラシックへ。両公演とも昼開催で、会場も比較的近い。JRの川崎から桜木町まで約20分、桜木町の駅前で昼食をして、余裕でヴィアマーレへ。ヴィアマーレは横浜銀行本店にある客席数約500人のホールで、以前利用したことがある。音響もなかなか優れている。

 演奏会の全体は二部構成で、第一部は神奈川フィルの企画担当である鎌形昌平さんのレクチャー付きコンサート。鎌形さんは若いけど達者なお喋り。ベートーヴェンの生涯と作品をさらりと語り、その間に演奏を挟み込む。
 最初は「熱情」の第1楽章から。ピアノソロはゲストの嘉屋翔太、弱冠23歳、フランツ・リスト国際ピアノコンクールで最高位を獲得している。重心の低い力強いピアノ。次いで、これもゲストの戸原直が登場し、嘉屋とともに「春」の第1楽章を。戸原は今年1月に読響のコンマスに就任した。しなやかで甘い響きが「春」にお似合い。最後に、神奈川フィルの首席たち(Vn.直江、Va.大島、Vc.上森)が戸原とともに弦楽四重奏を組んで「カヴァティーナ」(「第13番」の第5楽章)、臨時編成とは思えないほど息の合った演奏。ピアノソナタ、ヴァイオリンソナタ、弦楽四重奏曲の良いとこ取りの前半だった。

 第二部が神奈川フィルの3人と嘉屋翔太によるピアノ四重奏版の「エロイカ」。
 室内楽版に編曲したのはフェルディナント・リース。リースは、ベートーヴェンの弟子であり友人でもあったピアニスト。シンフォニーの演奏機会が少なかったコンサート・ビジネスの黎明期には、サロン・コンサート用に多くの管弦楽作品が編曲された。楽譜出版社の売上にも貢献したのだろう。室内楽版は作曲者自らが編曲する例もあるが、「エロイカ」の場合はベートーヴェンの弟子のリースとフンメルがそれぞれのヴァージョンで編曲しているという。
 室内楽版はやはりピアノが骨格をつくっていく。ゲストの若い嘉屋翔太が驚異的な働きをみせた。重厚な響き、余裕のあるダイナミクス、スムーズな緩急、的確なパウゼ、弦楽器奏者との呼吸や手際よさにとても感心した。
 各楽章ともそれぞれ興味深く聴いたが、圧巻は最終楽章、ベートーヴェンの途方もない着想と技法が詰まった変奏曲たちの場面は、奏者がたった4人であることを忘れるほどの迫力。とくにコーダに向けての第9変奏と第10変奏は、まさに肌が粟立つような演奏だった。