アンドレア・ボチェッリ2023年02月26日 19:24



『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』
原題:The Music of Silence
製作:2017年 イタリア
監督:マイケル・ラドフォード
脚本:マイケル・ラドフォード、アンナ・パビニャーノ
音楽:ガブリエル・ロベルト
出演:トビー・セバスチャン、アントニオ・バンデラス、
   ナディール・カゼッリ


 数年前に製作された映画、たまたまPrime Videoでみつけた。
 盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリが、自らの半生を綴った自伝的小説を映画化したもの。自伝とはいっても、主人公の名前は“アンドレア”でなく“アモス”、他の登場人物も仮名である。
 アンドレア・ボチェッリは「小説を三人称で書いたのは、その方が自分という人間について語りやすいと思ったから。自分のことを“アモス”という別の名で呼ぶことで、第三者として見ることができる。彼のことを描きながら、同時にじっくりと観察することができる」と語っていた。自伝的小説のタイトルが『沈黙の音楽』(高田和文訳、早川書房、2001年)。『The Music of Silence』がそのまま映画の原題となっている。

 イタリアのトスカーナ地方の小さな村。アモス(トビー・セバスチャン)は、幼い頃から弱視に悩まされていた。12歳の時、サッカーボールが目に当たって持病が悪化し失明してしまう。
 不自由な暮らしを見かねた叔父が、歌が好きで上手なアモスを声楽のコンテストに出場させる。アモスの歌声は高く評価され見事優勝。しかし、変声期をきっかけに歌手の道をあきらめ弁護士を目指すことになる。
 でも、とうぜん音楽をやめることなどできやしない。大学での法学の勉強の合間に生演奏のアルバイトを続けていた。ある日、『椿姫』の「乾杯の歌」を披露したところ大歓声を浴び、これをきっかけとし将来の伴侶となるエレナ(ナディール・カゼッリ)と出会う。
 また、その歌声に感心したピアノ調律師の紹介によって、数々のオペラ歌手を育てたスペイン人の歌唱指導者マエストロ(アントニオ・バンデラス)の指導を受けることに。アモスの人生が大きく動き出す。
 監督はアカデミー賞にノミネートされた『イル・ポスティーノ』のマイケル・ラドフォード。トスカーナの素敵な景色を背景に、盲目のハンディキャップを大げさに描くことなく淡々と物語を進めて行く。音楽映画でありながら画面から醸し出される静けさは本当に見事だ。

 劇中歌は、先の「乾杯の歌」をはじめ、『トスカ』の「星は光りぬ」、『アンドレア・シェニエ』の「ある日、青空を眺めて」など。アモスの歌唱シーンは全てボチェッリ本人が吹き替えをしたという。
 エンドロールでは、アルバムの総売上5000万枚を記録したアンドレア・ボチェッリが、ローマ法王、エリザベス女王、アメリカ大統領と同席したときの画像が映し出され、『トゥーランドット』の、あの「誰も寝てはならぬ」が流れる。この奇跡のテノールとなった瞬間は真に感動的。