2023/2/4 カシオペイアSQ 「死と乙女」「ハイドンセット第2番」2023年02月04日 19:28



かなっくクラシック音楽部 フロイデコンサート

日時:2023年2月4日(土) 14:00開演
会場:かなっくホール
出演:カシオペイア・クァルテット
     ヴァイオリン/渡辺 美穂
     ヴァイオリン/ビルマン 聡平
     ヴィオラ/村松 龍
     チェロ/弘田 徹
演目:シューベルト/弦楽四重奏曲 第14番ニ短調
         「死と乙女」D.810
   モーツァルト/弦楽四重奏曲のためのアダージョと
         フーガ ハ短調 K.546
   モーツァルト/弦楽四重奏曲 第15番ニ短調 K.421


 先月に続いて東神奈川駅へ。プログラムの3曲はいずれも短調で書かれた弦楽四重奏曲、真冬に似つかわしい作品ということか。
 演奏するカシオペイアSQは、かなっくホール専属の弦楽四重奏団。Vn1の渡辺さんは元大阪フィルのコンマス、Vn2の聡平さんとVcの弘田さんは新日フィルのメンバー、Vaの村松さんはN響団員である。

 1曲目は、シューベルトの「弦楽四重奏曲 第14番」ニ短調、「死と乙女」の標題で有名。シューベルト27歳、不治の病を発病した頃、困窮した生活のなかで作曲されたという。
 第1楽章、冒頭の主題は運命動機のよう。主題が徹底的に彫琢される様子もベートーヴェンに学んだ構築性を感じる。そのなかにシューベルトの歌が顔を出し、シューベルトらしい目まぐるしい転調を繰り返す。第2楽章は変奏曲、主題は歌曲「死と乙女」のピアノ前奏からの引用、5つの変奏とコーダで構成される。悲しみをたたえた主題が静かに始まる、弘田さんのチェロのピチカートのうえを渡辺さんのヴァイオリンが繊細に歌う。聡平さんと村松さんの内声部が3連符で応える。主役がチェロに移って豊かな調べを奏で、全員で悲しみに抗うような力強いリズムを刻む。変奏を重ねるごとに痛切の度合が増して行く。もうこれはシューベルトしか書けない音楽。3楽章はスケルツオ、過激な舞曲、トリオではカシオペイアSQが柔らかく美しく歌う。しかし、優しさは一瞬、ふたたび激しい舞曲が戻ってくる。4楽章はプレスト、オクターブのユニゾンで始まる。執拗なリズムが疾走する。後半、コラールのように光が差し込み、高揚したあとテンポを速め力強く終わった。

 休憩後、モーツァルトの「アダージョとフーガ」。
 ゆったりとした速度で、悲劇性と静けさとが交叉するアダージョが不安な音色をおびる。続く規則的なフーガの動きは、救い主が現れたように感じる。無駄な音がひとつもない。楽器間の音の受け渡し、楽器の重ね合わせに無理がない。不思議な曲である。

 3曲目は、モーツァルトの「弦楽四重奏曲 第15番」、「ハイドンセット」と呼ばれる6曲のうちの2番目。「死と乙女」との組み合わせは意図をもっての選曲だろう、同じニ短調、そして、同じ27歳、シューベルトは2楽章に、モーツァルトは最終楽章に変奏曲をおいた。
 この曲の演奏前に、カシオペイアSQを牽引する弘田さんから話があった。彼によれば、「短調ばかりの曲を企画したが、最後は長調で終えたかったからK.421を選んだ」と、あっけない一言。
 第1楽章、ひっそりとした第1主題が歌われ、長調の第2主題が出てくるが不安気なまま、メランコリックでほの暗い諦念を感じる。第2楽章、長調が支配するものの中間部は短調となり、慟哭するような激しい表情をみせる。第3楽章、メヌエットでありながら沈み込むよう。トリオはピチカートの伴奏にのってヴァイオリンが飛翔する。重い雰囲気のこの曲に一瞬の安らぎが訪れる。第4楽章、シチリアーナ風に始まる4つの変奏曲。次々と装飾が施され盛り上がって行く。後半,ちょっと気分が変わって飛び跳ねるような曲想となり、最後は、ほんの少しだけ明るさを見せるように、弘田さんが言う長調の主和音に転調して全曲が閉じられた。

 カシオペイアSQのアンコール曲は、念押しのように、短調に対する長調。16歳のモーツァルト「ディヴェルティメント ニ長調 K.136」の第1楽章を選んでくれた。