僕のワンダフル・ライフ2021年10月08日 07:00



『僕のワンダフル・ライフ』
原題:A Dog's Purpose
製作:2017年 アメリカ
監督:ラッセ・ハルストレム
脚本:W・ブルース・キャメロンほか
出演:デニス・クエイド、ペギー・リプトン、K・J・アパ

   
 いかにも家族向け映画の題名のようで、まさにその通り。小さな子供から大人、老人までそれぞれ楽しむことができる。けれど、涙を見せるのが恥ずかしいのであれば、一人で密かに鑑賞するほうがいい。
 それほどの犬好きではなく、犬を飼ったこともない人間でも大泣きしてしまうのだから、犬好きで犬と暮らしている人であれば号泣すること必至。たとえば、ふだん空威張りの家長がいるとして、その長たる者が映画なんぞでクシャクシャの顔を家族に見せるのはみっともないと思うのなら、やはり、絶対一人で観るべきだ。

 原作はW・ブルース・キャメロンの『野良犬トビーの愛すべき転生』という小説(翻訳本が新潮社文庫にある)。全米でベストセラーになったらしい。キャメロンは脚本にも参加している。
 犬が何回も生れ変わりをしたのち、元の飼い主のところへ戻る話なのだが…

 犬のベイリーは、子供時代のイーサン(ブライス・ガイザー)に命を救われ、固い絆で結ばれる。その後のイーサン(K・J・アパ)の人生は、なかなか過酷なものがあって、ベイリーとの別れも来る。 
 何十年後、転生を繰り返し姿形を変えたベイリーは、半分世捨て人のようなイーサン(デニス・クエイド)を見つける。イーサンはもちろんベイリーとは分からない。しかし、ベイリーはイーサンの昔の恋人ハンナ(ペギー・リプトン)を引き寄せるきっかけとなり、イーサンとハンナは結ばれる。
 大詰め、ベイリーはイーサンに、自分がベイリーだと知ってもらいたいと、ボール遊びをねだる。ベイリーはイーサンの子供時代に覚えたボール遊びの特技を披露する。それを驚きをもって呆然と眺めるイーサン。“ベイリーだった”と知った真の再会の瞬間、イーサンとベイリーが幸せを取り戻す結末は、それはそれは感動的なものとなる。

 監督はスウェーデン出身の名匠ラッセ・ハルストレム。
 『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』でアカデミー賞にノミネートされ、忠犬ハチ公をリメイクした『HACHI 約束の犬』で話題となるなど、“犬もの映画”でも有名だが、この人のナンバーワンといえば何といっても『サイダーハウス・ルール』だろう。ラッセ・ハルストレムを最初に知ったのもこの映画で、あまりに感心したので『ギルバート・グレイプ』や『やかまし村の子どもたち』など過去の映画を、レンタルビデオ屋であさったものだ。
 『サイダーハウス・ルール』は、2000年アカデミー賞の複数部門で候補になったものの、作品賞、監督賞は『アメリカン・ビューティー』にさらわれ、わずかに脚色賞(ジョン・アービング)と助演男優賞(マイケル・ケイン)のみにとどまった。このとき初めてアカデミー賞への不信感を抱いたのだが、いま考えてみれば実におめでたい話だ。そうそうシャーリーズ・セロンに出会って惚れたのはこの映画だった。後年、初代スパイダーマンで名が売れたトビー・マグワイアの抑えた演技にも唸った。レイチェル・ポートマンの音楽にも泣いた。『サイダーハウス・ルール』は、これまでに観たなかで、間違いなくベストテンの上位に座る。

 なお、『僕のワンダフル・ライフ』の続編として『僕のワンダフル・ジャーニー』が2019年に公開された。主演は引き続きデニス・クエイド。ラッセ・ハルストレムは製作総指揮にまわり、ゲイル・マンキューソが監督を務めている。