2021/6/22 モーツァルト フルート四重奏曲 ― 2021年06月22日 17:42
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン
プレシャス1pm Vol.3 フルート入り室内楽の最高傑作
日時:2021年6月22日(火)13:00
会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
出演:フルート/工藤重典
ヴァイオリン/辻彩奈
ヴィオラ/田原綾子
チェロ/横坂源
曲目:モーツァルト/フルート四重奏曲
第4番 イ長調 K.298
第3番 ハ長調 K.Anh.171(285b)
第2番 ト長調 K.285a
第1番 ニ長調 K.285
気ままにモーツァルトのフルート四重奏曲をCDで流しておくのが好きだけど、実演では唯一4,5年前ミラカ・ペトリのリコーダーで聴いただけ。本来はフルートの先祖フラウト・トラヴェルソのために書かれた。モダン・フルートで聴くのは初めてということになる。
サントリーホールの主催公演、このチェンバーミュージック・ガーデンの企画はもう10年になるという。
フルートの工藤さんの音は、まろやかで柔らかい、年代物のお酒の味わい。弦楽器の3人はいずれも新進のソリストたち。年齢や経験からいっても工藤さんがリードし、その熟成されたフルートの音色を支える若者たちの姿は、はつらつとして微笑ましい。演奏は4番からはじまり、逆の番号順に1番で終えた。
モーツァルトのフルート四重奏曲は、成立年や作曲の経緯、真作かどうか、などについて議論が絶えない。
21歳のモーツァルト、母親が一緒したパリ旅行の途中、マンハイムで東インド会社に勤める裕福な医師ドジャンから注文があったことは、モーツァルトの手紙によって分かっている。手紙では協奏曲が2曲に四重奏曲が3曲といっている。
しかし、本当のところ何曲が完成されたのか定かではない。協奏曲は2曲で間違いないが(うち1曲はオーボエ協奏曲の編曲)、四重奏曲がよくわからない。
ケッヘルは自筆譜が残る1番をK.285とし、あとの2曲は紛失したとして、ケッヘル番号を割り当てなかった。その後、アインシュタイン(ケッヘル第3版)がサン・フォア説を採用して2番をK.285a、3番をK.285bとしたものの、新全集では2曲とも真偽不明としているようだ。
とくに3番は、後年のウイーン時代の用紙に1楽章のスケッチが発見されていることから、成立年そのものも時代を下る可能性が高い。さらに、2楽章の変奏曲はグラン・パルティータの6楽章と基本同じであり、モーツァルト本人ではなく、誰か別人がグラン・パルティータの変奏曲を編曲したという説が有力だ。もちろん異説もある。
でも、その一番怪しい3番が好き。モーツァルトの変奏曲は、表情が次々と移り変わりどれも素晴らしいけど、この変奏曲はディヴェルティメント第17番(K.334)の変奏曲と並んでのお気に入り。
ちなみに、愛聴しているフルート四重奏曲のCDは、イギリスのナッシュ・アンサンブルのもの、清潔で爽やかな演奏である。
2021/6/27 飯守×東響 ブルックナー「交響曲7番」 ― 2021年06月27日 19:43
東京交響楽団 川崎定期演奏会 第80回
日時:2021年6月27日(日)14:00
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:飯守 泰次郎
共演:ハープ/吉野 直子
演目:ライネッケ/ハープ協奏曲 ホ短調 op.182
ブルックナー/交響曲第7番 ホ長調(ノーヴァク版・1954年版)
フランスの指揮者がブルックナーをどう演奏するのか注目していた。もっともド・ビリーは、長くウィーン放送交響楽団の監督を務め、ドイツものを含めてレパートリーは広い。10年ほど前N響を振ったときも、ドビュッシー「牧神」、ファウストとのプロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲1番」、シューベルト「グレイト」という具合。その後は聴く機会がなく、久しぶりの再会予定だったが、このご時勢やはり来日中止。
代役は、なんと飯守泰次郎。プログラムは変更なし。飯守のブルックナーは、この先1回1回が貴重。朝比奈の晩年と同じだろう。来月も読響でマイスターに代わって「4番」を振る。
さて、今日の「7番」は一言でいえば“静”のブルックナー。音量が不足するとか、強弱の幅が狭いとかではない。逆にこれほどの音量、強弱の振幅がありながら、動くことのないブルックナー。
効果を狙ったり、表現をどうこうしようとしたり、そんな雑念には一切関係なし。静寂を極める音楽の中から巨大なものが立ち上がってくる。特に1楽章と最終楽章のコーダは頭の中が空白になるほど。たしかに宇宙の鳴動を感じた。
飯守のブルックナーは、シティフィルと組むと武骨で古武士のごとく、一歩一歩踏みしめて行くような音楽として聴こえてくるが、今回の相手は東響である。
以前、シティと東響とで飯守のシベリウス「2番」を聴き比べる機会があり、東響との相性は今ひとつと思ったが、今日の東響は、弦の強靭な響、木管の透明感が一段と冴えわたり、素晴らしいアンサンブルで応えた。
フルートの相澤さん、オーボエの荒木さん、クラリネットの吉野さん、バスーンの福井さん、いずれも名人芸。ブルックナーで要のホルンは、ハミルが復活したのが大きい。1番をハミル、3番を大野さん、ワグナーチューバのトップを上間さん、と鉄壁の布陣。コンマスの水谷さんは、合奏のかなりをリードしていた。何せ、飯守の指揮は分かりにくい。もちろん、音楽の設計、楽器間のバランス、テンポ、ディナーミク、アゴーギクなどは飯守あってこそだから、指揮者にオケが有機的に反応したといっていい。重厚でありながら洗練されたブルックナーとなった。
プログラム前半のライネッケは1824年生まれ、ブルックナーと同い年。長寿で20世紀のはじめまで生きた。1000曲以上を作曲したようだが、今では演奏家のレパートリーからほとんど消えている。
「ハープ協奏曲」の出だしは、ごく普通のロマン派風の進行。1楽章のカデンッアは聴きごたえがあり、カデンッアの終盤に絡むオーボエに意表をつかれる。2楽章は冒頭ホルンとの掛け合いをはじめ、管が沈黙するなかのヴィオラとのやりとりなど全編が美しい。はじめて聴く曲だが、来日できなかったメストレに代わった吉野さんのハープと、東響の緻密な演奏で楽しませてもらった。
なお、今回の演奏会は、ニコニコ動画でライブ配信され、ブルックナーの「交響曲7番」のみ28日よりタイムシフト視聴できる。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv332263124
タイムシフト視聴 飯守×東響(ブルックナー) ― 2021年06月30日 14:18
タイムシフト視聴をしてみた。一度は画面を観ながら、もう一度は音声だけで。27日ミューザ川崎の飯守×東響、ブルックナー「交響曲7番」である。
録音されたブルックナーとしても一級と思う。もちろんライブだから演奏が完全無欠というわけではない。たとえば第2楽章終盤のクライマックス、シンバルが鳴ったあと、管弦楽は崩壊寸前で危うく踏みとどまっている。ここは音楽が徐々に盛り上がって来て、聴いているほうもかなり熱くなっているから、会場に居ると一瞬ヤバイと思いつつも、かえって興奮が煽られるようなところがあった。そういった生の空気もよく拾っている。
もちろん、楽曲全体の印象は会場で聴いたときと変わらない。深い息遣いを繰り返しながら、しじまから何度となく屹然としたものが立ち上がってくる。録音であっても肌が粟立つ。
これは是非CDかDVDにして製品化を望みたい。記録としても後世まで残しておくべきものと思う。ブルックナー音楽の歴史的名演といえる。
いつまでタイムシフト視聴が可能か分からないが、もう一度、ニコニコ動画のサイトを案内しておく。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv332263124
飯守翁と東響の皆さんに、改めて感謝。