2023/11/26 音大フェスティバル 昭和音大と武蔵野音大2023年11月26日 20:47



第14回音楽大学オーケストラ・フェスティバル
   昭和音大・武蔵野音大

日時:2023年11月26日(日) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:昭和音楽大学(指揮/現田茂夫)
   武蔵野音楽大学(指揮/飯森範親)
演目:チャイコフスキー/交響曲第5番 ホ短調 作品64
   R.シュトラウス/アルプス交響曲 作品64


 恒例の音大フェスティバル。毎年、東京芸術劇場とミューザ川崎で2日間ずつ開催される。今年はプログラムや交通の便を考えてミューザの2公演のみを聴くことに。

 その1日目、まずは昭和音大のチャイコフスキー「交響曲第5番」。
 冒頭、弦楽器を伴ったクラリネットの滑らかでほの暗い音を聴いて、これは名演になりそう、との予感が的中した。第2楽章のホルンのソロも奥行きがあってなかなか立派な出来栄え、美しいお嬢さんが吹いていた。総じて木管は美音、金管は遠くまで届くような抜けのいい音。トランペットのお嬢さんもすごく上手。
 現田さんは手慣れたもの、テンポ設定も管と弦のバランスもいうことない。昭和音大は川崎市が地元で、ミューザにも度々出演している。ミューザの響きを味方にしたキレのある美しい演奏だった。終了後、盛大なブラボーが飛び交っていた。

 後半は、武蔵野音大のR.シュトラウス「アルプス交響曲」。
 オケのメンバーは前半の5割増くらい。途中、正面奥のオルガンの左右にバンダが20人近く出入りしたから百数十名の大編成である。飯森さんは今年PPTとセンチュリー響合同で「アルプス交響曲」を演奏していて、この音大フェスティバルにおいても取り上げたのかも知れない。しかし、音楽を専門とする学生たちとはいえ、この作品は少しばかり荷が重かった。
 R.シュトラウスの標題音楽は、奏者それぞれに高度な技術が要求されるし、大人数となるとオケの精度も高めなければならない。弱音を美しく正確に決めないと強音が生きてこない。音量ばかりが強調され虚仮おどしの作品になってしまう。大きな傷もなく熱演ではあったけど、音楽としては不満の残る結果となってしまった。

 来週、12月3日はミューザ2日目の桐朋学園と洗足学園である。桐朋を振る予定の尾高忠明が、先週の名フィルのコンサートを腰痛のため降板している。詳細は不明だが今のところ指揮者変更のアナウンスはない。尾高さんの快復を祈りたい。

2023/8/8 秋山和慶×センチュリー響 ドヴォルザーク「交響曲第8番」2023年08月09日 13:03



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023
 日本センチュリー交響楽団

日時:2023年8月8日(火) 19:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:秋山 和慶
共演:ヴァイオリン/HIMARI
演目:シューベルト/交響曲第5番 変ロ長調D.485
   ブルッフ/ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調Op.26
   ドヴォルザーク/交響曲第8番 ト長調Op.88


 日本センチュリー交響楽団の前身は大阪センチュリー交響楽団。Wikiによると大阪府出資の吹奏楽団(大阪府音楽団)が1989年に交響楽団に改組されて設立された。その後、2011年橋下知事の時代に補助金がカットされ民営化、現在の名称に変更された。
 指揮者陣は首席が飯森範親、首席客演が久石譲、ミュージックアドバイザーが秋山和慶。楽団員は約50名、弦10型2管程度の編成が基本だろう。今回は3曲とも12型で演奏された。コンマスは都響の山本友重がゲストで座った。

 はじめてセンチュリー響を聴いたが見事な音楽集団。個々の演奏技術が高く、驚異的な合奏能力を誇る。首都圏オケでもなかなか太刀打ちできないほどの水準。低音から高音、弱音から強音まで、パートそれぞれが緻密でバランスがいい。
 弦はとくにチェロが雄弁、コントラバスと共に底力のある低音をつくり出していた。ヴァイオリンも一体感のある美しさ。木管は歌心に満ち、気づくと必要な場面できっちりと鳴っている。金管は伸びやかで瑕瑾なく安定している。オケの音は柔らかく包み込まれるようで、手触りの良い織物のような風合いだ。
 オーケストラは各パートの主張と全体の均衡とのせめぎ合いだと思うが、それが理想的な形で実現している。もちろん秋山さんの手腕は大きいといえ、オケ自体がつくりあげてきた歴史の成果だろう。

 センチュリー響は、10年前に“潰れてもかまわぬ”と言わんばかりの横暴で、補助金がストップされ、民間の寄付に頼りながら苦難の道を歩んできた。日本のオケは大なり小なり同じような状況下にある。酷い話だがこれが現実。
 大阪では当時、文楽に対しても厳しい姿勢がマスコミ沙汰になっていた。先日は国立科学博物館のクラウドファンディングが話題だった。これも目標額の達成を喜ぶより、国は恥ずべき事だとは思わないのか。
 科学や文化活動は一度壊れてしまえばそれを取り戻すに何十年、何百年とかかる。破壊することは誰にでもできる、守るべきものを守るのが大事で難しい。国や自治体は困難を避けることしか考えていないように思える。

 さて、1曲目はシューベルト19歳の時の「交響曲第5番」。秋山さんらしくしっかりした構成感、ゆったりとしているが鈍重なところは微塵もない。クラリネットを欠いたフルート、オーボエ、ファゴットたちの陰影が素晴らしい。丁寧に彫琢したシューベルトからモーツァルトが垣間見える。モーツアルトへのオマージュと再確認した
 2曲目はHIMARI(吉村妃鞠)をソリストにしてブルッフの「ヴァイオリン協奏曲第1番」。HIMARIは12歳、昨年アメリカのカーティス音楽院に最年少で合格している。秋山さんは現在82歳だから祖父と孫というよりは曾祖父と曾孫といったほうがいい。
 秋山さんの劇的で強固なサポートをバックに、HIMARIの技巧と音が際立つ、すでに立派なソリスト。2楽章の濃厚な歌いまわしなど情感もたっぷり。この先どこまで成長するのか末恐ろしい。アンコールはナタン・ミルシテインの「パガニーニアーナ」、超絶技巧満載の曲を軽々と弾きこなした。
 休憩後、ドヴォルザーク「交響曲第8番」。秋山さんは年齢を重ねてますます若々しく俊敏に。第1楽章はキレキレのテンポ設定、中間のふたつの楽章は旋律をたっぷり歌わせ、小技も駆使する。しかし、決して過度にならない練達の技。終楽章の加減速とクライマックスの築き方はまさに名人芸。終演後はブラボーの嵐。

今年のサマーフェスティバルへの参加は3公演だけだったけど気持ちよく終了。なお。ミューザの夏祭りそのものは11日に最終日を迎える。

2023/8/1 ヴァイグレ×読響 ベートーヴェン「交響曲第8番」と「リング」2023年08月02日 12:57



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023
 読売日本交響楽団

日時:2023年8月1日(火) 19:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:セバスティアン・ヴァイグレ
演目:ベートーヴェン/交響曲第8番 ヘ長調Op. 93
   ワーグナー/楽劇「ニーベルングの指環」
        (デ・フリーヘル編曲)


 コンマスは日下紗矢子、アシストは林悠介。日下さんは髪を短く束ねイメチェン。東響から移籍したオーボエの荒木奏美も久しぶりにミューザで拝見した。客席は少し空席が目立っていた。サントリーホールのダウスゴー×PMF公演と被った所為かもしれない。たしかにこの2公演のどちらかを選択するのは悩ましい。

 ベートーヴェンは弦12型、重量級の読響にしては軽やかに。先だっての小泉×神奈川フィルの「8番」に比べると、軽快で滑稽味もあり、お茶目な印象だった。ヴァイグレは終始笑顔で楽しそうに指揮をしていた。身動きも大きく表情も変化に富んでいた。就任公演のブルックナー「第9番」の手探り状態からコロナ禍の同「第6番」などを経て、読響との信頼関係は確固としたものになっているのだろう。
 「8番」はベートーヴェンの交響曲のなかでは余り演奏されない作品のひとつ。ヴァイグレはプレトークで、読響が「8番」を取り上げるのは珍しいと語っていた。まさしく演奏頻度も低いが、小粋に面白く聴かせるのもなかなか難しい曲ではある。

 後半は、デ・フリーヘル編曲の楽劇「ニーベルングの指環」。
 「オーケストラル・アドヴェンチャー」と題され声楽を含まない。1991年にオランダ放送フィルの打楽器奏者ヘンク・デ・フリーヘルが「リング」全15時間を約1時間強のオーケストラ曲にまとめたもの。1992年にエド・デ・ワールトによって初演された。
 序夜から順を追って第3日までの重要な音楽やライトモティーフが以下のように並べられている。

序夜 「ラインの黄金」
 1. 前奏曲
 2. ラインの黄金
 3. ニーベルハイム
 4. ヴァルハラ
第1日 「ワルキューレ」
 5. ワルキューレたち
 6. 魔の炎
第2日 「ジークフリート」
 7. 森のささやき
 8. ジークフリートの英雄的行為
 9. ブリュンヒルデの目覚め
第3日 「神々の黄昏」
 10. ジークフリートとブリュンヒルデ
 11. ジークフリートのラインへの旅
 12. ジークフリートの死
 13. 葬送行進曲
 14. ブリュンヒルデの自己犠牲

 オランダ放送フィルのデ・フリーヘル編曲「リング」は、マルクス・シュテンツの指揮で聴くことが出来る。

 https://www.youtube.com/watch?v=1PBhlPeTJ_g

 読響は弦16型に増強し、松坂隼をトップにしたホルン9(うち4はワグナーチューバ持ち替え)、ハープ4、テンパニ2、打楽器さまざま、といった編成。松坂さんは前半のベートーヴェンでもトップを務めていたから獅子奮迅の働き、でも、ちょっと酷使しすぎ。
 「ラインの黄金」とくに<前奏曲>は、ホルンが最弱音から分散和音を繰返し、つぎつぎと管楽器が加わって、原始霧のなかから世界が立ち上がってくる。緊張感をはらみ演奏の難易度が高い。この出だしがやや不安定だったのが残念。しかし、<ニーベルハイム>の金床の音で持ち直し、「ワルキューレ」では立派な音楽となっていた。そして、「ジークフリート」を経て「神々の黄昏」の後半、<葬送行進曲>から<ブリュンヒルデの自己犠牲>にかけては熱量も極まり、壮大な音響に包まれた。全体にもう少し精度が高ければ申し分なかった。

 先月の25日から本場バイロイトでも音楽祭がはじまっている。今年はチケットが売れ残って話題となっている。もっともチケットが有ろうが無かろうがバイロイトなどには行けるはずない。
 ヴァイグレの指揮によるワーグナーによって―――祝祭劇場の深いピットの底から鳴り響くオケの音は、解像度の高いミューザとは随分違うとしても―――バイロイトの気分だけでも味わった夏の夜だった。

2023/7/30 鈴木秀美×山響 ベートーヴェン「ヴァイオリン協奏曲」と「グレイト」2023年07月30日 20:46



フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2023
 山形交響楽団

日時:2023年7月30日(日) 15:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:鈴木 秀美
共演:ヴァイオリン/石上 真由子
演目:ベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲 ニ長調Op.61
   シューベルト/交響曲第8番 ハ長調D.944
         「グレイト」


 FSMが開幕して1週間になる。ようやく初参戦とあいなった。
 山響は、今までも「さくらんぼコンサート」と称して東京公演を重ねているが、聴く機会がなかった。飯森範親が監督のとき大きく評判となり、現在の阪哲朗の時代になってもその勢いは続いているようだ。
 今日は首席客演指揮者の鈴木秀美に率いられ、石上真由子がソロを弾いた。弦8型2管編成の小型オケとしては申し分ないプログラムだ。

 石上真由子は医科大出身という珍しい経歴の持ち主。ナチュラル・ホルンやトランペットを用いるこのオケに合わせたのか、ヴィブラート控え目、pp多めの音づくり。
 弱音主体のベートーヴェンで思い出すのは、同じ真由子でも神尾真由子の演奏。そのときの驚きに比べるとインパクトは弱い。石上真由子の歌いまわしにはギクシャクした部分があり、音は乾いていてちょっと潤いが不足気味。

 休憩後の「グレイト」。
 オケの音色は地味でくすんだ響き。楽器は、とくに管楽器は時代を下るにしたがい機能性を追求し、操作が容易く美しい音を目標に改良が加えられてきた。現代の聴衆は当然その音を知っている。山響はあえてナチュラル楽器を使用して旧時代の響きを求めているのだから、ベールが一枚かかったような音色がこのオケの核心であり魅力なのだろう。
 鈴木秀美のテンポは中庸、とりたてて尖ったところがあるわけではない。その意味では肩透かしをくらったものの、楽章を追うごとに音楽は熱を帯び、気がつくとシューベルトの世界が広がっていた。
 もともと「グレイト」は好きな交響曲のひとつ。いつでも楽しんで聴くことができるけど、とりわけ今日の最終楽章の高揚感はなかなか充実していた。先人のベートーヴェンの音楽と、後年のブルックナーの音楽が「グレイト」なかで融合されているような気分となって、幸福感に満ちたものだった。

 この暑い中、満席とはいえないまでも、お客さんは良く入っていた。今年のFSMは盛況のようである。

郷さくら美術館2023年07月27日 13:11



 東急東横線の中目黒駅、地下鉄日比谷線の起点でもあるこの駅の近くに「郷さくら美術館」という小さなミュージアムがある。
 福島県郡山市にある同名の美術館の東京館である。現代日本画というのか、昭和以降に生誕した日本画家の作品を中心にコレクションしている。

 いまここで「水 -巡る- 現代日本画展」を開催中。水の流れに着目し、雨・滝・湖・川・海など、巡る水をテーマにした作品が集められている。
 いっとき酷暑を和らげるにちょうどいいか、と訪れてみた。

 そんなに広くはない1~3階のスペースに、100号をこえる迫力ある作品が並び、屏風絵もあって壮観である。1階と3階が「巡る水展」、2階は同時開催の「桜百景展」となっていた。
 平松礼二、千住博といった有名どころから若手作家まで、各階において大型作品を間近に観賞することができる。

 日本画特有の色彩が淡く、構図も静謐で落ち着いた雰囲気の作品が多いが、2人の女流画家、野地美樹子の『Uneri』と平子真理の『寂光の滝』は、ダイナミックな水の動きが一段と鮮やかで、涼を感じさせてくれる。

https://www.satosakura.jp/

 会期は8月27日まで。7月29日と8月19日の土曜日には、14時からギャラリー・トークが予定されている。
 また、この展覧会との関連で8月1日から4日限定で、会館時間を延長し「サマーナイトミュージアム」というイベントを開催する。展覧会のオリジナルラベル付きミネラルウォーターのプレゼントもあるという。

 因みに、8月1日は水資源の有限性、水の貴重さ、水資源開発の重要性について、国民の関心を高め理解を深めるための「水の日」であり、8月1日から7日の期間は「水の週間」に制定されている。