郷さくら美術館2023年07月27日 13:11



 東急東横線の中目黒駅、地下鉄日比谷線の起点でもあるこの駅の近くに「郷さくら美術館」という小さなミュージアムがある。
 福島県郡山市にある同名の美術館の東京館である。現代日本画というのか、昭和以降に生誕した日本画家の作品を中心にコレクションしている。

 いまここで「水 -巡る- 現代日本画展」を開催中。水の流れに着目し、雨・滝・湖・川・海など、巡る水をテーマにした作品が集められている。
 いっとき酷暑を和らげるにちょうどいいか、と訪れてみた。

 そんなに広くはない1~3階のスペースに、100号をこえる迫力ある作品が並び、屏風絵もあって壮観である。1階と3階が「巡る水展」、2階は同時開催の「桜百景展」となっていた。
 平松礼二、千住博といった有名どころから若手作家まで、各階において大型作品を間近に観賞することができる。

 日本画特有の色彩が淡く、構図も静謐で落ち着いた雰囲気の作品が多いが、2人の女流画家、野地美樹子の『Uneri』と平子真理の『寂光の滝』は、ダイナミックな水の動きが一段と鮮やかで、涼を感じさせてくれる。

https://www.satosakura.jp/

 会期は8月27日まで。7月29日と8月19日の土曜日には、14時からギャラリー・トークが予定されている。
 また、この展覧会との関連で8月1日から4日限定で、会館時間を延長し「サマーナイトミュージアム」というイベントを開催する。展覧会のオリジナルラベル付きミネラルウォーターのプレゼントもあるという。

 因みに、8月1日は水資源の有限性、水の貴重さ、水資源開発の重要性について、国民の関心を高め理解を深めるための「水の日」であり、8月1日から7日の期間は「水の週間」に制定されている。

フェスタサマーミューザの残席2023年07月19日 12:33



 今週末、22日の土曜日にフェスタサマーミューザ(FSM)が開幕する。首都圏オケのほとんどが集い、地方からも2つのオケが参加、ほかにも県内の音大やジャズバンドが加わり、8月11日まで3週間にわたって開催される。

 このFSM、ミューザ川崎のHPにチケットの残席情報が掲載されている。「完売」「僅少」「あり」等の表示である。今年は各オケとも監督や常任が指揮するという熱の入りようだが、それぞれの前評判は如何に…

 プロオケの状況をみると、17日現在で席の「完売」はN響、新日フィル、神奈川フィル、東響(フィナーレ)の4つ、「僅少」は東響(オープニング)、「あり」はシティフィル、都響、山形響、読響、東フィル、日本センチュリー響、日フィルとなっている。

 N響はさすがのブランド力、さらにピアノのマルティン・ガルシア・ガルシアが出演するのが強味。新日フィルは超有名曲の「運命」「田園」二本立てを広上淳一(当初予定の井上道義は降板)が振る。神奈川フィルは辻井伸行が登場するとあって当然完売。最終日の東響は清塚信也の魅力だろう。オープニングの東響もノット監督が珍しくチャイコフスキーを披露するので売り切れ目前。

 それにひきかえ、シティフィル、都響、読響、日フィルは監督や常任が指揮するというのに、チケットに余裕がある。監督や常任だからといって必ずしも客を呼べるわけでない。東フィルは若手指揮者とベテランソリストを組み合わせたが席は残っている。山形響や日本センチュリー響といった地方オケの盛り上がりも今ひとつ。お祭りだからプログラムがありきたりなのは仕方ない。人気ソリストの有無が集客の決め手となっているようだ。

 20近い夏祭り公演中、当の本人は残席が余裕の2つの地方オケと読響を聴くつもり。

Be Phil Orchestra2023年07月13日 21:26



 ベルリン・フィルが4年ぶりに来日する。指揮はもちろんキリル・ペトレンコ。チケットは高価ながら完売するだろう。今は海外オケに執着などないから、チケットの争奪戦には参加しないけど。

 本公演以外に、ベルリン・フィルは来日に合わせてちょっと面白い企画を展開する。
 何かというと、日本のアマチュア奏者を集めBe Phil Orchestraなるものを結成し、演奏会を行う。
 本拠地ベルリンでも2018年、サイモン・ラトルの指揮でアマチュア演奏家によるBe Philharmonieを組織して演奏会を開催したことがあった。それを日本で再現するということらしい。

 11月26日の夜がBe Phil Orchestraのコンサート本番で、会場はサントリーホール。
 演目はプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」の抜粋をペトレンコが指揮し、ブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」をRaphael Haegerが指揮する。Haegerはベルリン・フィルの打楽器奏者。ソリストは樫本大進とLudwig Quandtが務める。
 リハーサルは22日から25日。参加費は無料で、出演料は支給されない。交通費や滞在費は自分持ちとなる。ホテルが必要であれば招聘元のフジテレビが格安料金で斡旋してくれる。

 とうぜん参加するためのオーディションがある。年齢は18歳以上、音楽を職業としていない日本在住のアマチュア、プロコフィエフやブラームスを演奏できる能力、などが最低条件。
 ベルリン・フィルのサイトに登録し、オーディション用の映像をアップロードする。映像は最近1年以内のもので演奏する曲は問わない。室内楽でもよい。映像は最大6分以内、1台のカメラで撮影し編集してはいけない。映像に自己紹介を入れてもよい。経歴文書は別途作成する。
 応募の締め切りは8月16日。選考はベルリン・フィルのメンバーが行う。

https://www.berliner-philharmoniker.de/en/education/on-the-road/bephil-orchestra/

 キリル・ペトレンコの指揮による演奏、ベルリン・フィルのメンバーとの交流、音楽愛好家としての思い出づくりなどなど、アマチュア奏者にとっては夢のような話だ。
 わが国はとてもアマオケ活動が盛んである。2018年のBe Philharmonieのときには、わざわざ日本からベルリンへ駆けつけた剛の者がいたという。それが今回、東京において同様の企画が実現する。応募者が殺到するだろう。
 Be Phil Orchestraの席をめぐって激しい争いとなりそうだ。

チャイコフスキー国際コンクール2023年07月01日 17:56



 ジュネーヴに本部のある「国際音楽コンクール世界連盟」は、「チャイコフスキー国際コンクール」を除名したけど、ロシアでは今年6月、軍事作戦中にありながら1958年の第1回から数えて第17回目(原則4年に1度)となるコンクールを開催し、今日その最終結果が発表された。

 政治と文化を完全に切り離すことなど出来るはずもなく、東西・南北とも音楽をプロパガンダとして利用する。戦時の「チャイコフスキー国際コンクール」である。
 当初は親ロシア国の出場者ばかりと思っていたが、参加は23か国に及んだ。もちろん、応募は地元ロシアからが圧倒的で、チャイナも目立ってはいた。しかし、西側からもアメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、日本、韓国などの出身者がいた。
 そして、勝者はヴァイオリン部門、チェロ部門、男性声楽が韓国人。それ以外のピアノ、木管、金管、女性声楽はロシア人となった。

 西欧では参加の是非さえ議論されていたコンクールだが、価値観はさまざま。欧米のいうことが絶対というわけでもなかろう。同じ事象が全く正反対に解釈されるのは珍しいことではない。正邪は歴史が判断するのだから、その時々の多様性は維持されるほうが真っ当に違いない。

 「チャイコフスキー国際コンクール」は、若手演奏家の登竜門で「ショパン国際」「エリザベート王妃国際」とともに世界三大音楽コンクールのひとつといわれる。
 日本人では過去、ピアノの上原彩子、ヴァイオリンの諏訪内晶子と神尾真由子、声楽の佐藤美枝子が優勝している。前回(2019年)はピアノの藤田真央が第2位、ヴァイオリンの金川真弓が第4位に入っていた。

リバーサルオーケストラ2023年03月16日 17:30



 日テレが放映した『リバーサルオーケストラ』全10話が終わった。
 ここ十数年、まともにテレビを観ていないから、TVドラマは『坂の上の雲』以来かも知れない。いま、ニュースや天気予報はWebで間に合うし、安直なドラマのため決まった時間にテレビの前に座るなど苦行に等しい。PCの動画配信で好きな時間に旧作映画を楽しんだほうがよっぽど自由だ。テレビから遠ざかるのは無理ないだろう。
 で、『リバーサルオーケストラ』もリアルタイム視聴したのではなくTVer経由だった。

 TVerの宣伝文句より粗筋を抜き書きすると、“超地味な市役所職員・谷岡初音(門脇麦)、実は彼女は…元天才ヴァイオリニスト。表舞台から去り、穏やかに暮らしていたはずが、強引すぎる変人マエストロ・常盤朝陽(田中圭)に巻き込まれ、地元のポンコツ交響楽団(児玉交響楽団、略称=玉響)を一流オケに大改造。しかし、2人の前には、数々の障害と強敵が…「崖っぷちだけど、音楽が好き」、夢にしがみつき、懸命に頑張る愛すべきポンコツオケ。夢を追う生き方は、難しいけれど、面白い! スカッとして胸がアツくなる、一発逆転の音楽エンターテインメイント”となる。

 『リバーサルオーケストラ』は、神奈川フィル事務局の音楽主幹である榊原徹さんが、ことあるごとに宣伝をしていたので、つい観賞する羽目に。
 しょっぱな俳優さんたちを見て愕然、顔と名前が一致しない。平田満と原日出子、石野真子くらいしか分からない。主演の2人でさえ茫漠として、田中圭の顔は見覚えがあるが名前が出てこない。門脇麦の名前は聞き覚えているが顔は知らない。およそ30歳以上の俳優さんに関してはこの程度、坂東龍汰とか恒松祐里とか20代の俳優さんともなれば顔も名前も全く承知しない。これでは浦島太郎のようなものだ。まぁ、そのお陰で逆に新鮮だったのかも知れないけど。
 TVドラマだからとうぜん戯画化されているし、細部がいろいろ気になったのは最初だけ、ドラマの中身が盛沢山で展開もスピーディー。そのうちハラハラドキドキ、笑いあり涙ありの物語に夢中になってしまった。
 ドラマはSNSと連携し、劇中のオケである児玉交響楽団のTwitterアカウントが作られたり、instagramへ画像がupされる。YouTubeやTikTokでショート動画が発信され、架空の音楽雑誌に玉響の記事が掲載されるなど、お遊びも満載だった。 
 
 脚本は清水友佳子。音楽科出身ということもあり、音楽へのリスペクトがいたるところ顔をだす。各話ごとオケのメンバーに焦点をあて、気持ちよい物語を紡いでいく。
 例えば、2話では若きフルート首席の庄司蒼(坂東龍汰)が、経済的困窮のせいで家業を継ぐか音楽を続けるかの板挟みになっている。4話ではヴィオラ首席の桃井みどり(濱田マリ)が家庭とオケとの両立に悩み、大学受験を控えた娘(凛美)との葛藤もある。6話ではチェロ首席の佐々木玲緒(瀧内公美)が、失恋に加え自らの才能に対する疑問からやる気をなくし意気消沈している。8話ではオーボエ首席の穂刈良明(平田満)が認知症である妻(宮崎美子)の介護のため退団を考えるほど追い込まれている。主人公である天才ヴァイオリニストの初音や才能ある指揮者の朝陽だけでなく、ポンコツオケの楽団員たち一人ひとりの音楽と生活が浮き彫りにされ、彼らの抱える難題や苦悩をオケのメンバーたちが力を合わせて解決し、手を差し伸べ乗り越えていく。
 テーマはまさしく愛といっていいが、それは若い人たちの恋愛感情だけでなく、親子、姉妹、夫婦、オケ仲間の愛である。そして、何より音楽への愛が通奏低音のように全編を流れる。その音楽にまつわる物語が強い共感を呼ぶ。

 ドラマを支える劇伴音楽の存在も大きい。音楽を担当したのは人気ピアニスト・清塚信也と啼鵬。ベートーヴェン、ブラームス、パガニーニ、ドヴォルザーク、チャイコフスキー、ラヴェル、ラフマニノフなどの有名曲を、ピアノを含めた小編成でもって大胆にアレンジし、ポップ調で軽やかな音楽に変身させドラマを盛り上げる。

 また、『リバーサルオーケストラ』は、題名通りオケの演奏シーンが多い。これには神奈川フィルが全面協力し、「アルルの女」「ウイリアム・テル」「威風堂々」「チャイコン」「運命」、そして、最終話の勝負曲「チャイ5」など、練習場や公民館、学校、コンサートホール、新設のシンフォニーホールにおいて迫力ある音楽を奏でる。まさに本物のオーケストラによる音が鳴り、架空のオケである児玉交響楽団の成長ぶりを説得力あるものにしている。
 神奈川フィルの楽団員もちゃんと演技をしている。ティンパニの篠崎さんは玉響を早々に退団してしまうが、台詞も喋ってなかなかの存在感。ホルンの豊田さん、トランペットの林さん、トロンボーンの府川さん、クラリネットの斎藤さん、ファゴットの鈴木さんなど、やはり管楽器の首席は目立つ。でも、最も花形だったのはセカンド・オーボエの紺野菜実子さん。場面は玉響の練習風景、オーボエトップの穂刈が介護問題で不調を極め、朝陽の指示で紺野さんが代わりにトップを務める。「運命」のオーボエソロを何度も繰り返す。ドラマの場面転換で重要な役割を果たしていた。

 神奈川フィルのドラマ出演については、長年、日テレの音楽番組の構成に携わっている新井鷗子さん(みなとみらいホールの館長)が、日テレから相談を持ち掛けられ、芸大時代の知人である神奈川フィルの榊原さんに頼み込んだのが切っ掛けだったようだ。
 結局、新井さんは番組製作の音楽監督を担い、榊原さんは田中圭の指揮指導をし、1話では朝陽が来る前の指揮者役で出演、スタッフ側のオーケストラ監督としてもクレジットされることになった―――だから、あんなに『リバーサルオーケストラ』のことをアナウンスしていたわけだ。
 面白いのは神奈川フィルの音楽監督である沼尻竜典で、オーケストラ監修として番組スタッフに加わっているが、本編へも引っ張り出され、最終話の審査員役で音楽評論家・沼倉次郎となって、新井さんと共に顔を出している。もう一人、同じ審査員役で名物コンマスの石田組長が沼尻監督と並んで登場していた。おぉ~、神奈川フィルハーモニー管弦楽団総出だ。

 地方のポンコツオケ・児玉交響楽団が神奈川フィルの協力を得たことは、ドラマ成功の大きな要因の一つになったと思う。
 神奈川フィルは名匠ハンス=マルティン・シュナイトが鍛えたオケであり、首都圏の他のオケと比べても技術や音楽に取り組む姿勢など見劣りしない。ひとつ違いがあるとすればローカリティを併せ持っているということだろう。定期演奏会の公演回数が少ない分、アウトリーチが多い。学校行事や県内巡回公演等々、地域における音楽の普及活動に積極的に取り組んでいる。公共スペースを使って演奏することもある。また、様々なジャンルの演奏家とのコラボレーションもたびたび。庶民的で“オラが町のオーケストラ”といった風である。
 そういえば、2月には「リバーサルオーケストラ・スペシャルコンサート」と銘打って田中圭と門脇麦を招き演奏会を開催した。劇中において演奏された曲を披露し、会場のみなとみらいホールは盛況だったようだ。とにかく楽団のフットワークがとても軽い。
 地方で育ち、地方オケの創成期を知る人間としては、神奈川フィルにはどことなく懐かしさを覚える。そのちょっぴり泥臭くてアットホームな雰囲気が、児玉交響楽団にぴったしで、これ以上ない絶妙の配役だったといえる。

 TV放映は終わり、TVerでは1~3話と最終話が視聴できる。いつまで見逃し配信が可能かは不明。Huluは全10話見放題であり、2週間の無料視聴期間が設けられている。日テレの公式チャンネルではYouTube経由で各話を10分程度にまとめたダイジェスト版を提供している。
 TVerとHulu、それに日テレの番組公式チャンネルのリンクを貼っておく。

https://tver.jp/series/sr84opbk2g
https://www.hulu.jp/reversal-orchestra
https://www.ntv.co.jp/reveorche/