シティフィルの来期プログラム2025年11月03日 09:42

 

 先月末に東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の来期(2026/4~2027/3)ラインナップが発表されていた。オペラシティ・コンサートホールにおける定期演奏会と、すみだトリフォニーホールの特別演奏会である。

https://www.cityphil.jp/news/detail.php?id=842

 オペラシティの定期演奏会はホール休館に伴い2026年7月に開幕する。また、ティアラこうとうの定期演奏会は会場の大規模改修が予定されているため休止となる。その代替がトリフォニーホールの特別演奏会ということだろう。

 指揮者は常任の高関健と首席客演の藤岡幸夫が軸となり、原田慶太楼や鈴木秀美、リオ・クオクマンが客演する。ソリストも邦人が中心である。プログラムはイギリス、イタリア、ロシア、アメリカ、日本の作品など多彩。マーラーの「交響曲第3番」、ブリテンの「戦争レクイエム」、冨田勲の「源氏物語幻想交響絵巻」といった大曲も用意されている。

 マーラー「交響曲第3番」と「戦争レクイエム」は高関健の指揮、来シーズンは神奈川フィル、新日本フィルもマーラーの「第3番」を予定しており競演となる。冨田勲の作品は藤岡が指揮をする。京言葉の語り手にオーケストラ、邦楽器、シンセサイザーを含む大規模な楽曲で、演奏されるのは珍しい。

2025/4/12 高関健×シティフィル ショスタコーヴィチの最初と最後の交響曲2025年04月12日 21:56



東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
   第81回ティアラこうとう定期演奏会

日時:2025年4月12日(土) 15:00開演
会場:ティアラこうとう 大ホール
指揮:高関 健
演目:ショスタコーヴィチ/交響曲第1番ヘ短調 作品10
   ショスタコーヴィチ/交響曲第15番イ長調 作品141


 ショスタコーヴィチの学生時代に書いた最初の交響曲と、それからほぼ半世紀後の60歳半ばに作曲した最後の交響曲とを並べたコンサート。ありそうでなさそうな、なかなかに珍しいプログラム。
 両曲とも聴く機会はそれほど多くなく、「第1番」は直近では10年以上前のスクロヴァチェフスキ×読響だった思う。その後、大野和士×都響のチケットを取っていたが、コロナ禍の緊急事態宣言のせいで公演中止となってしまった。「第15番」はやはり10年ほど前にノット×東響と井上道義×新日フィルを続けて聴いた。井上と新日フィルの公演は、日比谷公会堂がリニューアルする前のファイナルイベントとして企画されたもので「第9番」と一緒に演奏された。

 「第1番」は、レニングラード音楽院の卒業制作で19歳のときの作品、若き天才のお出ましだ。第1楽章はいたずらっ子が駆けずり回っているようで、R・シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」を彷彿とさせる。第2楽章はピアノが大活躍するスケルツォ、ピアノ協奏曲といってもいいくらい。ここはストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」がお手本だろう。第3楽章は緩徐楽章、弦楽器の半音階進行が目立ち、悲しげで不安に満ちている。「トリスタンとイゾルデ」を思わせる旋律も聴こえる。スネアドラムがクレッシェンドし切れ目なく最終楽章へ。序奏からショスタコ得意のアレグロに突入する。クライマックスにおけるテンポの変化は目まぐるしく、ジェットコースターに乗っているかのよう。ティンパニの扱い方も斬新だ。古典的な4楽章形式だが、モダニストとしてのショスタコーヴィチの面目躍如。毒気は少ないものの、おふざけ、誇張、皮肉、揶揄などなど、後年のショスタコーヴィチ作品の萌芽がすでにある。
 高関はやや遅めの歩み、緩急もそれほど極端ではない。一音とも揺るがせにしない几帳面な音づくりで、才気煥発な作品というよりは、完成された一人前の交響曲という感じ。ちょっと分別がありすぎて若書きの奔放さや軽みが不足していたかも知れない。シティフィルは新しいメンバーもちらほら。個々の技量はもちろん、オケとしての充実度には目を見張るものがある。今日のコンマスは荒井英治だった。

 ショスタコーヴィチの交響曲は、この後、単一楽章の宣伝音楽的なオラトリオ風交響曲が2曲続き、「ムツェンスク郡のマクベス夫人」をきっかけとした“荒唐無稽”の批判のなか、挑戦するかのようにグロテスクで破天荒な「第4番」をものにした(ただし当時は封印を余儀なくされ初演は雪解け後)、「第5番」から「第10番」までは内容はともかく形式的には独墺の器楽交響曲に倣う。「第11番」と「第12番」は革命の物語に従った標題交響曲であり、「第13番」と「第14番」は声楽と交響曲との融合である。そして、最後の「第15番」において伝統の器楽交響曲へ回帰する。

 「第15番」は1971年の作。古典的な4楽章構成の交響曲だが、コラージュや他作品からの引用、リズムクラスター、十二音主題など前衛的で実験的な試みがたっぷり詰まっている。楽器のソロを活かした“管弦楽のための協奏曲”としての面白さにも事欠かない。高関はここでも遅めのテンポで、錯綜した情報を解きほぐすがごとく丁寧に処理していく。「第1番」から数えて半世紀の毒をくぐり抜けてきた「第15番」である。高関の生真面目さが目新しい側面のみに惑わされず重みのある交響曲として結実した。ショスタコーヴィチの屈折した心情が一枚一枚はがれていくような様をじっくりと楽しませてもらった。
 第1楽章はまさに合奏協奏曲、多久和怜子のフルートをはじめ各楽器のソロとオケとが縦横無尽に展開し、ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲からの引用が陽気な気分を盛り上げる。しかし、陽気なのはここまで。第2楽章に入ると短調の金管コラールからチェロのモノローグ、トロンボーンの長大なソロなど、葬送行進曲風の沈鬱なアダージョになる。シティフィルの金管陣は女性主体ながらトランペットの松木亜希やホルンの谷あかね、トロンボーンはゲストかも知れないが、それにしても強力な陣容である。ファゴットの吹奏をきっかけとしてアタッカで第3楽章へ。山口真由が吹くクラリネットの主題は十二音列のようだ。トリオの後半には「第4番」2楽章のコーダと同様、打楽器アンサンブルが活躍し、ウッドブロックが不気味なリズムを刻む。終楽章はワーグナー「リング」のジークフリートの葬送行進曲の調べが印象的。中間部は長い長いパッサカリア。その後、オケの強奏を経て静謐なコーダへ。「第8番」の終結部のように弦楽器が優しく懐かしい旋律を奏でるが、金管楽器が何度か邪魔をし、再び7人の打楽器アンサンブルがチャカポコチャカポコと時を刻む。最後はチェレスタが鳴って全曲をしめくくる。ここは真に背筋が凍るほどの音楽だった。

 ショスタコーヴィチが「交響曲第1番」から「交響曲第15番」までを書き継いだ50年は、ひとつ間違えば音楽家が抹殺されることもありえた危うい時代だった。観念ではない実体としての恐怖が支配していた。彼は焼けた鉄板のうえを飛び跳ねるようにして歌い続けた。その奇妙な歌は自己陶酔などでは毛頭なく、狂気をはらみ、嘲笑い、韜晦し、本人さえ虚実の見分けがつかないものになっていたのかも知れない。ということは、そこには無限の解釈が生ずることになり、この先の人々はますますショスタコなる歌を巡って、あるいは苦悩し、あるいは歓喜しながら、歴史を反芻して行くことになるのだろう。

シティフィルの来期プログラム2024年11月20日 14:50



 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の2025/26シーズンラインナップが発表された。常任指揮者・高関健は11シーズン目となる。

https://www.cityphil.jp/common/pdf/lineup-season2025-26.pdf

 オペラシティホールにおける定期演奏会は、従来の9公演が会場の都合により6公演に縮小となり、そのうち高関健は3公演を指揮する。高関は、ほかにティアラこうとう定期の2公演と、年末の第九(東京文化会館)、それにサントリーホールにおける特別演奏会の2公演を振る。
 首席客演指揮者・藤岡幸夫もオペラシティホール及びティアラこうとう定期演奏会に各1回ずつ登場する。客演としては鈴木秀美、松本宗利音、ジョゼ・ソアーレスが予定されている。
 サントリーホールの特別演奏会は楽団創立50周年記念演奏会となり、2026年2月11日にはマーラーの「悲劇的」が、3月31日には「復活」が演奏される。

2024/8/11 FSM:藤岡幸夫×シティフィル ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」と「惑星」2024年08月11日 21:08



フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2024
 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

日時:2024年8月11日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:藤岡 幸夫
共演:ピアノ/務川 慧悟
   女声合唱/東京シティ・フィル・コーア
   合唱指揮/藤丸 崇浩
演目:ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番 ニ短調op.30
   ホルスト/組曲「惑星」op.32


 今年はホルストの生誕150年。そういえば、昨年はラフマニノフの生誕150年だった。そのホルスト「惑星」とラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」が本日の演目。ピアノを務川慧悟が弾くということもあってか、完売公演となった。女性比率が高く1階前列には若い女の子たちがずらりと並んだ。

 最初のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第3番」は「第2番」と並ぶ人気曲。第1楽章の郷愁に満ちた旋律は全体の主題ともなっている。この楽章には雄大なカデンツァがある。第2楽章は間奏曲、たっぷりと歌う感傷的な変奏曲。アタッカで第3楽章へ続き、ラフマニノフらしい舞曲のリズムを伴って高揚感のまま邁進する。全曲で約45分、超絶技巧の難曲であって旋律美にあふれた大曲である。
 務川慧悟は遠目には華奢で小柄。力任せにバリバリ弾くのではなく、表情豊かに隅々まで神経を行き届かせた知的な演奏。アンコールは同じラフマニノフの「楽興の時 第3番」、暗めの音色でやはり多彩に表現する。彼のピアノで他のいろいろな作曲家を聴いてみたい。

 ホルストの「惑星」はクラシックのなかのポピュラー音楽。映画音楽としてもそのまま通用する全7曲。4管編成の大オーケストラ作品で、アルトフルート、バスオーボエ、テナーテューバといった特殊管楽器やチェレスタ、ハープ、オルガン、さらには女性合唱も加わる。
 火星(戦争をもたらす者)。冒頭、ティンパニ、ハープ、弦楽器群のコルレーニョ奏法でオスティナート・リズムを執拗に刻む。硬いマレットを用いた目等貴士のティンパニが歯切れ良い。管楽器が不穏な雰囲気の旋律を鳴らす。軍隊ラッパ風のメロディも現れ、第1次世界大戦を暗示させるような音楽といえなくもない。トランペットは松木亜希が復帰したようだ。
 金星(平和をもたらす者)。ホルンと木管楽器による静かで美しい世界が現れる。合奏するオケの編成が小さくなり、ほとんどの金管楽器は沈黙する。ホルンは小林祐治がトップ、谷あかねは3番を吹いていた。ラフマニノフでは1番が谷あかねで複雑なパッセージを難なくこなしていた。首都圏の女性のホルン奏者としては坂東裕香と並んで双璧だろう。「惑星」でもトップを期待したが致し方ない。ヴァイオリン・ソロはゲストコンマスの須山暢大(大阪フィルのコンマス)、美しい主題を聴くことができた。チェレスタとハープも印象的だ。
 水星(翼のある使者)。スケルツォ風の飛び跳ねるような軽快で洒脱な曲。ここでもチェレスタが効果的に使われている。オーケストラにとっては意外と厄介な曲かも知れない。
 木星(快楽をもたらす者)。序奏+3部形式で書かれている。中間部の主題が平原綾香の「ジュピター」の原曲として有名。イギリスの愛国歌、讃美歌としても知られている。楽器はホルンが中心となり、弦楽器が躍動感あふれるメロディを奏でる。
 土星(老いをもたらす者)。ホルストが最も愛着を持ったアダージョといわれる。コントラバスが老境を感じさせる。低弦のピッツィカートに導かれ金管楽器のコラールがゆっくりと高みに到達する。鐘の音がしきりと鳴りエンディングは恍惚感に溢れ美しい。
 天王星(魔術師)。これもスケルツォ風。デュカスの「魔法使いの弟子」が同類の作品だ、とプレトークで藤岡が解説していた。大規模な管弦楽を駆使し、ファゴットの怪しいリズム、ホルン、木管楽器、弦楽器が諧謔的な旋律を強奏する。オルガンが響きわたり、金管楽器の和音によって静かに曲を閉じる。
 海王星(神秘なる者)。全体が弱音指定の神秘的で幻想的な曲。フルートを中心とした木管楽器群が活躍する。フルートは新しい首席の多久和怜子か。金管楽器のコラールの上のチェレスタ、ハープ、弦のアルペジオが耳に残る。大詰めは舞台外の女性合唱のヴォカリーズがさらに神秘感を増して行き、曲は静かに終わる。女性合唱の姿はまったく見えず、どこで歌っていたのか最後まで分からなかった。
 藤岡幸夫はこういう曲になると外連味たっぷり。輪郭が太く、派手なところは目一杯派手に、抑えるところは極端に抑えエッジの効いた演奏。最初の火星で指揮棒が飛び、金星に入る前に拾い上げた。久しぶりに全曲聴いて、土星以降の3曲がこれほどまでに魅力的だと初めて知った。

 フェスタ サマーミューザ(FSM)は明日がフィナーレコンサートとなるが、今年はノット×新日フィルと園田×神奈川フィル、そして、今日の藤岡×シティフィル、この3公演でもって終了である。

シティフィルの来期プログラム2023年11月16日 21:58



 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の2024/4~2025/3のシーズンプログラムが発表になった。オペラシティにおける全9回の定期演奏会と、全4回のティアラこうとう定期演奏会である。

https://www.cityphil.jp/news/common/pdf/program_2024.pdf

 オペラシティの定期演奏会全9回のうち、常任指揮者の高関健が5公演、首席客演指揮者の藤岡幸夫が2公演を担当し、高関はブルックナー「交響曲第8番」、スメタナ「我が祖国」、マーラー「交響曲第7番」、ヴェルディ「レクイエム」などの大曲を、藤岡は得意のヴォーン・ウィリアムズ「交響曲第2番」、伊福部昭「釈迦」などを指揮する。ほかには鈴木秀美、小林研一郎が登場する。
 ティアラこうとう定期演奏会は出口大地と藤岡、それに高関が2公演を受け持ち、ポピュラー曲を集めた名曲コンサートとなる。
 飯守泰次郎を失ったシティフィルは辛い状況であろう。10年目のシーズンとなる常任指揮者・高関健と楽団にとっては、踏ん張りどころである。