11月の旧作映画ベスト32023年11月30日 08:23



『暗殺のオペラ』 1970年
 公開時、映画館で観た。なんて気取った映画だろう、というのが第一印象。さっぱり良さが分からなかった。一画面一画面が絵のようで、それはそれで美しいと思ったけど、建物の構図や小道具のひとつひとつ、人物の所作などが計算されつくしていて、いかにもわざとらしい。そう感じたせいか物語もアリダ・ヴァリ以外の俳優もほとんど記憶に残っていない。何十年ぶりかで改めて視聴してみた。ムッソリーニ暗殺未遂事件にからむ父の死の真相をさぐる若者が、意外な事実を知るまでを描く。タルコフスキーに通じる映像美、クライマックスで演じられるオペラ「リゴレット」の音楽、謎にめいた町の人々、こんなに見所が多かったとは。20代だった脚本・監督ベルナルド・ベルトルッチの傑作。

『グランド・ブタペスト・ホテル』 2014年
 脚本・監督ウエス・アンダーソンの美学が横溢している。東ヨーロッパの仮想国家ズブロフカ共和国にある名門ホテルが舞台。幾つかの時代が入れ子構造で展開し、その時代ごとにスクリーンサイズが変わる。物語の中心は大戦前夜の1930年代、ホテルの上客だった老マダムが急死し、愛人だったホテルのコンシェルジュに容疑がかかる。働きはじめたばかりのベルボーイを巻き込んで二人の冒険が繰り広げられる。コメディ&ミステリー。ピンクのホテル、真っ赤なエレベーター、黄色い壁紙を背景に、短いカット、急なズーム、正面や真横のショットなど、劇画的な映像とテンポの良い早口のセリフが飛び交う。まるで大人の絵本、遊び心満載のおしゃれな映画。
※先週から渋谷Bunkamuraヒカリエホールで「ウェス・アンダーソンすぎる風景展」が開催されている。12月28日まで。
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/23_AWAwinter/

『秘密の森の、その向こう』 2022年
 時空をやすやすと飛び越えてしまうのが映画であるが、これはなんとまぁ大した仕掛けもなく容易に時間と空間を行き来する。尺は1時間13分の小品。しかし、観終わったあとの感触はゆうに2時間を超える。『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマが脚本・監督を手がけ、娘・母・祖母の3世代をつなぐ絆と癒しの物語を綴る。8歳のネリーは、亡くなった祖母にお別れが言えなかった。母マリオンも喪失感を抱えたままネリーとともに森に囲まれた実家の後片付けに来ている。その森でネリーは母と同じ名前の8歳のマリオンに出会う。その娘は母の過去の姿だった。双子のジョセフィーヌとガブリエル・サンスがネリーとマリオンを演じた。儚い夢をみたような不思議な浮遊感をもたらす。

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