チャイコフスキー国際コンクール ― 2023年07月01日 17:56
ジュネーヴに本部のある「国際音楽コンクール世界連盟」は、「チャイコフスキー国際コンクール」を除名したけど、ロシアでは今年6月、軍事作戦中にありながら1958年の第1回から数えて第17回目(原則4年に1度)となるコンクールを開催し、今日その最終結果が発表された。
政治と文化を完全に切り離すことなど出来るはずもなく、東西・南北とも音楽をプロパガンダとして利用する。戦時の「チャイコフスキー国際コンクール」である。
当初は親ロシア国の出場者ばかりと思っていたが、参加は23か国に及んだ。もちろん、応募は地元ロシアからが圧倒的で、チャイナも目立ってはいた。しかし、西側からもアメリカ、カナダ、ドイツ、フランス、イギリス、日本、韓国などの出身者がいた。
そして、勝者はヴァイオリン部門、チェロ部門、男性声楽が韓国人。それ以外のピアノ、木管、金管、女性声楽はロシア人となった。
西欧では参加の是非さえ議論されていたコンクールだが、価値観はさまざま。欧米のいうことが絶対というわけでもなかろう。同じ事象が全く正反対に解釈されるのは珍しいことではない。正邪は歴史が判断するのだから、その時々の多様性は維持されるほうが真っ当に違いない。
「チャイコフスキー国際コンクール」は、若手演奏家の登竜門で「ショパン国際」「エリザベート王妃国際」とともに世界三大音楽コンクールのひとつといわれる。
日本人では過去、ピアノの上原彩子、ヴァイオリンの諏訪内晶子と神尾真由子、声楽の佐藤美枝子が優勝している。前回(2019年)はピアノの藤田真央が第2位、ヴァイオリンの金川真弓が第4位に入っていた。
2023/7/8 神奈川フィル 「プルチネルラ」とベートーヴェン「交響曲第7番」 ― 2023年07月08日 20:05
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
音楽堂シリーズ 第27回
日時:2023年7月8日(土)15:00開演
会場:神奈川県立音楽堂
指揮:―
演目:ストラヴィンスキー/組曲「プルチネルラ」
ベートーヴェン/交響曲第7番 イ長調Op.92
「プルチネルラ」
Vn1の石田、Vn2の小宮、Vaの大島、Vcの上森、Cbの米長で編成した弦楽五重奏を核にして、それぞれの後ろに4-4-4-3-2と弦楽奏者が並び、クラリネットを省いた木管が各2、ホルン2、トランペットとトロンボーンが各1配置された。指揮者を置かず石田泰尚がリードする。
「プルチネルラ」は、ストラヴィンスキーの原始主義から新古典主義へ変異するきっかけとなった曲といわれ、同じバレエ曲でもコンパクトで作風も簡素かつ穏やか。「春の祭典」の作者とは思えない。
全曲版は以前KCOで聴いたことがある。今回は組曲版。1.序曲、2.セレナータ、3.スケルツィーノ、4.タランテラ、5.トッカータ、6.ガヴォット、7.ヴィーヴォ、8.メヌエット~終曲という構成。旋律は18世紀のペルゴレージなどの楽曲を用いている。簡素で穏やかと言いつつ、そこはストラヴィンスキー、管弦楽法はときとして鋭く尖っている。とくにヴィーヴォからメヌエットをはさんで終曲に至る楽器の使用法、リズム、音色は独創的。指揮者なしの神奈川フィルは、管楽器のソロを中心に好演だった。
「プルチネルラ」の初演は1920年、ディアギレフ率いるバレエ・リュスのパリ・オペラ座公演。指揮はエルネスト・アンセルメ、衣装舞台デザインはパブロ・ピカソ、台本振付はレオニード・マシーン。大戦と大戦の間、こんな豪勢な時代があった。
ベートーヴェンの「交響曲第7番」
クラリネット2とティンパニが加わり、トロンボーンが下がった。トランペットは2に増え、ホルンのトップは國井から坂東に交代。弦は10型に増強された。総員40名強。石田泰尚の隣には今年4月よりコンマスに就任した大江馨が座った。
最初から気合の乗った演奏。石田組長のリードでメンバー全員のエネルギーが一気に放出されたような爆演。とくに終楽章は気迫に満ちて興奮の坩堝。
聴衆の大歓声に応えてアンコール。弦楽合奏をバックに組長の甘い「ライムライト」。これで終わりかと思えば、続いて「告別」の最終楽章を全員で。件のごとく楽団員は一人二人と舞台を降り、最後は組長にスポットライトがあたって終了。まったくもって心憎い演出。
そういえば女性客が多かった。それも程よい年齢の落ち着いた感じの女性たちが目についた。石田泰尚の応援団かしら?
Be Phil Orchestra ― 2023年07月13日 21:26
ベルリン・フィルが4年ぶりに来日する。指揮はもちろんキリル・ペトレンコ。チケットは高価ながら完売するだろう。今は海外オケに執着などないから、チケットの争奪戦には参加しないけど。
本公演以外に、ベルリン・フィルは来日に合わせてちょっと面白い企画を展開する。
何かというと、日本のアマチュア奏者を集めBe Phil Orchestraなるものを結成し、演奏会を行う。
本拠地ベルリンでも2018年、サイモン・ラトルの指揮でアマチュア演奏家によるBe Philharmonieを組織して演奏会を開催したことがあった。それを日本で再現するということらしい。
11月26日の夜がBe Phil Orchestraのコンサート本番で、会場はサントリーホール。
演目はプロコフィエフの「ロメオとジュリエット」の抜粋をペトレンコが指揮し、ブラームスの「ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲」をRaphael Haegerが指揮する。Haegerはベルリン・フィルの打楽器奏者。ソリストは樫本大進とLudwig Quandtが務める。
リハーサルは22日から25日。参加費は無料で、出演料は支給されない。交通費や滞在費は自分持ちとなる。ホテルが必要であれば招聘元のフジテレビが格安料金で斡旋してくれる。
とうぜん参加するためのオーディションがある。年齢は18歳以上、音楽を職業としていない日本在住のアマチュア、プロコフィエフやブラームスを演奏できる能力、などが最低条件。
ベルリン・フィルのサイトに登録し、オーディション用の映像をアップロードする。映像は最近1年以内のもので演奏する曲は問わない。室内楽でもよい。映像は最大6分以内、1台のカメラで撮影し編集してはいけない。映像に自己紹介を入れてもよい。経歴文書は別途作成する。
応募の締め切りは8月16日。選考はベルリン・フィルのメンバーが行う。
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/education/on-the-road/bephil-orchestra/
キリル・ペトレンコの指揮による演奏、ベルリン・フィルのメンバーとの交流、音楽愛好家としての思い出づくりなどなど、アマチュア奏者にとっては夢のような話だ。
わが国はとてもアマオケ活動が盛んである。2018年のBe Philharmonieのときには、わざわざ日本からベルリンへ駆けつけた剛の者がいたという。それが今回、東京において同様の企画が実現する。応募者が殺到するだろう。
Be Phil Orchestraの席をめぐって激しい争いとなりそうだ。
2023/7/15 小泉和裕×神奈川フィル ブラームス「交響曲第4番」 ― 2023年07月15日 18:59
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
みなとみらいシリーズ定期演奏会 第387回
日時:2023年7月15日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:小泉 和裕
演目:ベートーヴェン/交響曲第8番 ヘ長調Op.93
ブラームス/交響曲第4番 ホ短調Op.98
先日、外山雄三さんが逝去された。神奈川フィルの第2代音楽監督だったという。開演前、オケのメンバーが舞台に揃ったあと会場の照明を落として黙祷。
そのあと、チューニング。コンマスはゲストの松浦奈々。松浦さんは日本センチュリー交響楽団(大阪)のコンマス。
そして、小泉さんが登場。小泉さんは神奈川フィルと前々回が「エロイカ」前回が「春」で、今回はブラームスの「第4番」とベートーヴェンの「第8番」を組み合わせた。交響曲指揮者としてのプログラムが続く。
ベートーヴェンの「交響曲第8番」は、快速で強弱の対比をはっきりさせた激しい演奏。軽快でしゃれた感覚にはほど遠い。音色がモノトーンのようで重々しく感じた。30分弱の小さな交響曲だが、あまりに構えが大きくてビックリ。ちょっと好みの演奏とは違った。
ブラームスの「交響曲第4番」は、小泉さんの重量感あふれる解釈がプラスに働いた。弦は14型だけどコントラバスを増強。全体は絵具を何色も塗りこめたような音で構成され進行する。ときとして木管、金管の各楽器の解放される瞬間がハットするほど美しい。小細工をせず楽譜を信じて、真正面からブラームスに向き合った演奏。愚直で律儀で、それでいて一瞬匂いたつような、目の詰まった圧巻の音楽で満足させてくれた。
フェスタサマーミューザの残席 ― 2023年07月19日 12:33
今週末、22日の土曜日にフェスタサマーミューザ(FSM)が開幕する。首都圏オケのほとんどが集い、地方からも2つのオケが参加、ほかにも県内の音大やジャズバンドが加わり、8月11日まで3週間にわたって開催される。
このFSM、ミューザ川崎のHPにチケットの残席情報が掲載されている。「完売」「僅少」「あり」等の表示である。今年は各オケとも監督や常任が指揮するという熱の入りようだが、それぞれの前評判は如何に…
プロオケの状況をみると、17日現在で席の「完売」はN響、新日フィル、神奈川フィル、東響(フィナーレ)の4つ、「僅少」は東響(オープニング)、「あり」はシティフィル、都響、山形響、読響、東フィル、日本センチュリー響、日フィルとなっている。
N響はさすがのブランド力、さらにピアノのマルティン・ガルシア・ガルシアが出演するのが強味。新日フィルは超有名曲の「運命」「田園」二本立てを広上淳一(当初予定の井上道義は降板)が振る。神奈川フィルは辻井伸行が登場するとあって当然完売。最終日の東響は清塚信也の魅力だろう。オープニングの東響もノット監督が珍しくチャイコフスキーを披露するので売り切れ目前。
それにひきかえ、シティフィル、都響、読響、日フィルは監督や常任が指揮するというのに、チケットに余裕がある。監督や常任だからといって必ずしも客を呼べるわけでない。東フィルは若手指揮者とベテランソリストを組み合わせたが席は残っている。山形響や日本センチュリー響といった地方オケの盛り上がりも今ひとつ。お祭りだからプログラムがありきたりなのは仕方ない。人気ソリストの有無が集客の決め手となっているようだ。
20近い夏祭り公演中、当の本人は残席が余裕の2つの地方オケと読響を聴くつもり。