2023/12/17 スダーン×東響 シューマンとブラームス2023年12月17日 19:41



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第94回

日時:2023年12月17日(日) 14:00開
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ユベール・スダーン
演目:シューマン/交響曲第1番 変ロ長調op.38 「春」
        マーラー版
   ブラームス/ピアノ四重奏曲第1番 ト短調op.25
        シェーンベルク編


 今年の聴き納め。シューマンとブラームスの管弦楽曲を並べたプログラム。両曲とも少々いわくがある。シューマンの交響曲「春」は、マーラーが補筆した版であり、ブラームスの作品は、室内楽曲をシェーンベルクがオーケストレーションした管弦楽曲。したがって、4人の作曲家によって作られた2曲ということになる。
 
 スダーンは指揮台を使わず、タクトを持たない。以前、高椅子に座って指揮していたことがあった。最近は下半身が安定していて、もうそろそろ80歳なのに10年前のスダーンに戻ったように元気だ。両腕を抱え込むように動かし、抱え込んだ腕のあいだから音楽を紡いでいるようにみえる。

 最初の「春」は、マーラーがシューマンの交響曲を自分の音楽として再解釈し、シューマンの魅力を新たに引き出そうと試みたもの。原曲に比べ色彩感豊かに、劇的かつエモーショナルな音楽として聴こえる。ティンパニのロールやトランペットのファンファーレ、金管楽器のカウンターメロディなどを加筆し力強さが増している。シューマンの地味で閉じ込められた音楽が、開放的に華やかに鳴り響く。
 スダーンのリズムはキビキビと歯切れがよい。弦を分厚くきっちり歌わせ、木管で細やかに色を付け、金管で縁取りをする。各楽器が明瞭に役割を果たし、団子状態になってもたれるということがない。シューマン=マーラーの豊かで活き活きとした音楽を堪能した。

 ブラームスの管弦楽曲は「ピアノ四重奏曲第1番」が原曲。弦16型、イングリッシュホルンやバスクラリネット、コントラバスファゴットが加わり、打楽器もグロッケンシュピールやシロフォン、大太鼓、小太鼓、タンバリンなども参加する大規模な編成。シェーンベルクは楽曲の構造や書法を忠実に守りながら、主にピアノパートをオーケストラに置き換えた。ブラームスが用いることのなかった多彩な打楽器や木管楽器などを動員し、シェーンベルク独自の管弦楽法を駆使しながら、ブラームスのメロディはそのままで、時代を飛び越えた音響をつくりだしている。
 スダーンはここでも弦5部を演奏の基礎とすべくがっちり固める。特にトップに伊藤文嗣、サイドに笹沼樹が座ったチェロの強靭さは比類ない。最初から最後まで白熱の演奏であったが、とくに第3楽章アンダンテの鋭利な響き、第4楽章のジプシー風ロンドの熱狂は、圧倒的な高揚感を生み、聴衆を興奮の坩堝に投げ込んだ。最終のクライマックスの前にはクラリネット吉野亜希菜のカデンツァが入り、ニキティンのヴァイオリンや伊藤文嗣のチェロのソロが披露され、さらにはニキティン、清水泰明、青木篤子、伊藤文嗣の弦楽四重奏も織り込まれる。まるで万華鏡のようなシェーンベルクの編曲と切れ味抜群の戦慄の演奏に感心した。

 いやはや、スダーンは円熟を増し、東響の精密度には磨きがかかり、両者の組み合わせにハズレはない。来年がますます楽しみになってきた。

 今日の演奏はニコニコ動画で配信された。
https://live.nicovideo.jp/watch/lv340528666

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