2022/10/30 阿部未来×セリエスオーケストラ ブルックナーの「交響曲第4番」 ― 2022年10月30日 19:38
神奈川セリエスオーケストラ 第10回定期演奏会
日時:2022年10月30日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:阿部 未来
共演:ピアノ/冨永 愛子
演目:モーツァルト/歌劇「後宮からの逃走」序曲
ラフマニノフ/パガニーニの主題による狂詩曲
ブルックナー/交響曲第4番「ロマンティック」
阿部未来を聴きたい、それと歴史の浅いアマオケがブルックナーをどこまで演奏するか、ふたつの興味をもってミューザヘ。
阿部未来は、今のところ華々しく活躍しているわけではない。たしか川瀬賢太郎と音大時代は同級生。神奈川フィルの副指揮者を務めた。セントラル愛知交響楽団のアソシエイトコンダクターも。しかし、ちゃんとしたポジションにはいまだ就いていない。
舞台に登場した彼は、びっくりするほどの痩身、指揮者は知力だけでなく体力も使う。こんな華奢な身体で大丈夫かと心配になる。タクトは持たず両腕をしなやかに使って打点のはっきりした指揮をする。身振りは大きいが無駄な動きをしないから、アマオケにとっては演奏しやすいだろう。
相手するセリエスオーケストラは、見たところ若い人ばかりで、学生オケと見紛うほど、楽団の男女比は半々くらい。
開幕は「後宮からの逃走(誘拐)」序曲。
阿部の指揮はキレキレのリズムで若々しい音楽をつくる。リズム感がいいのは東京音大の汐澤以来の伝統だろう。
モーツァルトの序曲自体が演奏会の開始にふさわしい魅力的な音楽だけど、阿部は中間部のアンダンテ、例のベルモンテのアリアの歌わせ方とか、コーダの打楽器を使って追い込んでいくところなど、聴かせどころを上手くまとめ感心した。
ピアノを舞台に据えたまま序曲を演奏したあと「パガニーニの主題による狂詩曲」。
ラフマニノフはどちらかというと苦手な作家の一人だが、この「パガニーニの主題による狂詩曲」と「交響的舞曲」だけは例外。いずれも晩年、アメリカ亡命後の作品。「パガニーニの主題による狂詩曲」は主題と24の変奏からなる。主題はパガニーニのヴァイオリン曲「24の奇想曲」から。「怒りの日」の動機も引用され、「交響的舞曲」が想起される。ラフマニノフの「怒りの日」に対する拘りは何なのだろうか。管弦楽の伴奏も「交響的舞曲」風なところが垣間見える。
ただ、ここでは阿部がリズムに乗って一気呵成に畳みかけたことから、各変奏の描き分けが十分に伝わらない。ソリストにも責任があるかも知れない。有名な第18変奏はさすがじっくり歌ったものの、曲全体がいささか単調に終始した。
休憩後、ブルックナーの「交響曲第4番」。
プログラムノトによると、セリエスオーケストラとしては初めてのブルックナーらしい。この「第4番」、冒頭のホルンのソロは難関で、プロ奏者でも時たまひっくり返る。盛大にコケたのは致し方ない。その後もホルンの不調が続いた。木管はよく健闘し、チェロやヴィオラも頑張ったけど。
ブルックナーで肝心のホルンが安定しないと、普通は聴いていられない。ところが、変な誉め方だか、そんな中でも阿部はブルックナーらしい音楽を聴かせた。その手腕は賞賛に値する。やはり、リズムが際立って素晴らしい。ブルックナーは少し鈍重なほうがいいという人もいるが、これだけ生き生きとして、溌剌としたブルックナーもいいものだ。大音量のなかで弦の音を途切れることなく維持したのも、阿部のバランス感覚が優れている証拠だろう。才能ある指揮者である。
初聴きの阿部の印象は期待以上、彼の活躍を願いながら、この先、その指揮ぶりを注目して行きたい。