2022/10/29 ドニゼッティの「ドン・パスクアーレ」2022年10月29日 18:58



あこがれ inかなっく
ドニゼッティ「ドン・パスクアーレ」(ハイライト)

日時:2022年10月29日(土) 14:00 開演
会場:かなっくホール
指揮:高橋 健介
出演:ソプラノ/嘉目 真木子(ノリーナ)
   テノール/澤原 行正(エルネスト)
   バリトン/大川 博(マラテスタ)
   バスバリトン/田中 大揮(ドン・パスクアーレ)
   ピアノ/寺本 佐和子


 「あこがれプロジェクト」なるものがあるらしい。
 広島県呉市出身のテノール澤原行正が、“呉市でオペラ”を目標に掲げ、2016年にスタートしたという。少し敷居の高いオペラを、子どもから大人まで楽しめるように、工夫を凝らした演出で届けようと奮闘中とのこと。で、この春、大好評であった呉市の「ドン・パスクアーレ」を、そのまま、かなっくホールへ持ってきた。
 能書きはともかく、この公演は嘉目真木子を聴きたいがためにチケットを取った。嘉目真木子は、もう10年以上前になるか、デビュー早々だったと思う。「フィガロの結婚」のスザンナで、その美貌とともに刮目すべき歌と演技を披露してくれた。以来、嘉目を目当てに、「魔笛」のパミーナや「ドン・ジョバンニ」のツェルリーナ、「第九」などを聴いた。その後、ご無沙汰だったが、今回、嘉目真木子を間近で見聞きできるのであれば見逃す手はない。オペラや声楽にあまり関心はないものの、ちょっと気になるの歌手の一人である。

 「ドン・パスクアーレ」は、ドニゼッティが晩年に作曲したオペラ・ブッファ。
 ドニゼッティは、ロッシーニ、ベッリーニと並んで19世紀前半のイタリアオペラを代表する作曲家。「愛の妙薬」「連隊の娘」などの喜劇的なオペラを書く一方で、「アンナ・ボレーナ」「ランメルモールのルチア」などの悲劇的なオペラも遺した。
 「ドン・パスクアーレ」のあらすじは――
 資産家の老人ドン・パスクアーレは、甥のエルネストに遺産を譲るつもり。しかし、エルネストは伯父の勧める縁談には見向きもせず、未亡人ノリーナと恋仲になっている。ノリーナとの結婚に反対のパスクアーレは、自分が結婚して遺産を譲らないことを思い立ち、主治医マラテスタに結婚相手を紹介してくれるよう依頼する。マラテスタは、エルネストとノリーナの友人でもあり、パスクアーレを懲らしめようと計画を立てる。パスクワーレは、まんまとマラテスタの策略にはまり、エルネストとノリーナの結婚が認められたところでハッピーエンドとなる、という実に他愛もない話。
 ブッファの筋は大方こんなもので、あとは音楽の力で観客を引き付けていく。

 舞台上手にピアノ、下手に字幕を映し出すスクリーン。舞台装置としてはソファとテーブル、椅子が2脚という簡素なまま3幕を通す。が、出演者はそれなりの衣装を身に着け、演技は本格的で細かな表情を伴い舞台いっぱいに動きまわる。指揮の高橋健介は客席の最前列に座って振った。
 ドン・パスクアーレ役の田中大揮は、夏に「コジ・ファン・トゥッテ」のドン・アルフォンソ役で聴いている。澤原行正、大川博ともども歌唱は見事で、ソロ、重唱を問わず安定して滑稽ななかにも重量感がある。もちろん、お目当ての嘉目真木子の素晴らしさはいうまでもない。「ルチア」の作曲家が書いたアリアは、そこら中に高音域の極限が散りばめられている。その声が塊となって飛んでくる。
 容量300席の空間で聴く実力派の声楽家たちの声は、信じられないほどの迫力と表現力で圧倒される。贅沢な歌だけでなく演技も隅々まで神経が行き届き、2時間が瞬時の出来事だった。

 終演後…「ドン・パスクアーレ」を心底楽しませてもらったが、出來得れば、モーツァルトのオペラをこういった形で視聴してみたい、とつくづく思った次第。

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