知りたかったことのすべて2021年04月29日 07:44



書 名:『オーケストラ 知りたかったことのすべて』
著 者:クリスチャン・メルラン
翻 訳:藤本優子・山田浩之
刊行年:2020年
出版社:みすず書房

 大部といっていい500頁を優に越える本。オーケストラの様々な“なぜ?”を解き明かしてくれる。
 作者のメルランは『フィガロ』紙で音楽批評を担当していた人。オーケストラの世界を探っていくという切り口で週1回、4年に及ぶラジオ番組における時評が、この本のベースとなっているらしい。
 内容は盛沢山だけど、翻訳がこなれて読みやすい。苦労せずに読み進むことができる。ユーモアに溢れた逸話もたっぷり入っている。オーケストラ好きにはたまらない。

 全体は大きく三つに分けて書かれている。
 指揮者と管弦楽団との関係を扱った第三部がことのほか面白い。フランスだけでなくドイツ、イギリス、アメリカ、ロシアなどの指揮者やオケメンバーの声が集められ、それこそ中の人から見た“組織と個”“集団における人間模様”などが自然と浮かび上がる。それぞれのお国柄もにじみ出て興味が尽きない。フランスの指揮者、ステファヌ・ドネーヴの「指揮者には四つの楽園がある。アメリカ、イギリス、スカンジナヴィア、日本だ。楽園といえるのは楽団員の集中力のレベルが傑出しているからだ」といった話なども紹介されていてニヤリとする、その通りではなかろうかと合点する。
 第二部は、冒頭の「組織と序列」と末尾の「配置」を除くと、各楽器の蘊蓄が披露されるが、うち半分は演奏家(名手)たちの一覧のような趣があり、いささか煩わしい。そこは斜め読みすればいいだろう。
 第一部は、オーケストラの姿と社会学、楽団員のあれやこれやと一生、といったオケ奏者にまつわる基礎情報のようなもの。
 とまれ、この本に細かく触れだすとキリがないから、目次だけ紹介しておこう。何となく内容が分かってもらえると思う。
 リッカルド・ムーティが序文を寄せている。

第一部 オーケストラの奏者たち
  1.れっきとした職業
  2.さまざまな型
  3.楽団員になるには
  4.社会学
  5.オーケストラの女性たち
  6.生涯の道筋
  7.歯車が止まるとき
第二部 構造化された共同体
  1.組織と序列
  2.弦楽器
  3.木管楽器
  4.金管楽器
  5.ティンパニ
  6.打楽器
  7.ハープ
  8.例外的な楽器
  9.配置
第三部 指揮者との関係
  1.指揮者の役目
  2.オーケストラを前にした指揮者
  3.指揮者を前にしたオーケストラ