2024/11/16 沼尻竜典×神奈川フィル ヴェルディ「レクイエム」 ― 2024年11月16日 21:11
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
みなとみらいシリーズ定期演奏会 第400回
日時:2024年11月16日(土) 14:00開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:沼尻 竜典
共演:ソプラノ/田崎 尚美
メゾソプラノ/中島 郁子
テノール/宮里 直樹
バス/平野 和
合唱/神奈川ハーモニック・クワイア
演目:ヴェルディ/レクイエム
神奈川フィルの定期演奏会の初回は1970年10月だという。半世紀以上が経って今日が第400回の記念公演。音楽監督・沼尻竜典が選んだプログラムはヴェルディ「レクイエム」の一本勝負。
鎮魂こそが未来へ向き合う出発点ということか。「レクイエム」といってもヴェルディはドラマテチックでオペラ的、記念の演目としておかしくはない。
今日の演奏会、体調のせいか緊張感が持続せず、弛緩したまま聴くことになった。
隣の定期会員であろう老婦人は最初から最後まで眠っていたが、これは演奏がどうのこうのというのより御歳ゆえのことだろう。
たしかに劇的ではあった。ソリスト、コーラス、オーケストラのいずれも不足はなく、沼尻の統制もしっかりしていた。ただ、ダイナミックレンジの広い音圧だけが印象に残ったのみで、どうにも音楽として訴えてくる力が弱い。大音量のときのバランスにも問題があったように思う。
ヴィオッティ×東響のときの桁違いの興奮とは比べようもなく、居心地の悪いまま終わってしまった。やはり、聴き手の心身の状態が万全でなかったせいだろう。せっかくの400回記念公演だというのに残念な顛末となった。
合唱は60人ほどがオケの後方に陣取った。「神奈川ハーモニック・クワイア」とプログラムにあったが、岸本大や中江早希などプロ歌手たちの集団だからパワフルで安定感抜群。4人のソリストの歌唱も勿論弱点はなかった。
「怒りの日」のトランペット別動隊は都響、東響、日フィルの首席たちがP席上部の左右に2名ずつ並んだ。このバンダはやはり客席後方に置いたほうが演奏効果が高い。ちょっと勿体ない気がした。
オケは16型、コンマスはゲストの東亮汰。400回記念だけあって完売公演となった。
シティフィルの来期プログラム ― 2024年11月20日 14:50
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の2025/26シーズンラインナップが発表された。常任指揮者・高関健は11シーズン目となる。
https://www.cityphil.jp/common/pdf/lineup-season2025-26.pdf
オペラシティホールにおける定期演奏会は、従来の9公演が会場の都合により6公演に縮小となり、そのうち高関健は3公演を指揮する。高関は、ほかにティアラこうとう定期の2公演と、年末の第九(東京文化会館)、それにサントリーホールにおける特別演奏会の2公演を振る。
首席客演指揮者・藤岡幸夫もオペラシティホール及びティアラこうとう定期演奏会に各1回ずつ登場する。客演としては鈴木秀美、松本宗利音、ジョゼ・ソアーレスが予定されている。
サントリーホールの特別演奏会は楽団創立50周年記念演奏会となり、2026年2月11日にはマーラーの「悲劇的」が、3月31日には「復活」が演奏される。
2024/11/23 音大オケ・フェス 昭和音大・藝大・桐朋学園 ― 2024年11月23日 21:27
第15回音楽大学オーケストラ・フェスティバル2024
昭和音大・藝大・桐朋学園
日時:2024年11月23日(土) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:昭和音楽大学(指揮/時任康文)
東京藝術大学(指揮/下野竜也)
桐朋学園大学(指揮/沼尻竜典)
(チェロ/上野 通明)
(ヴィオラ/田原 綾子)
演目:バルトーク/管弦楽のための協奏曲(昭和)
三善晃/焉歌・波摘み(藝大)
ベートーヴェン/「レオノーレ 第2番」(藝大)
R.シュトラウス/「ドン・キホーテ」(桐朋)
首都圏の音楽大学によるオーケスト・フェスティバルの季節がやってきた。今年で第15回となる。昨年、上野学園が新規の学生募集を停止したことから1校減った。今年も昨年同様8大学の参加である。
また、従来はミューザ川崎と東京芸術劇場で各2公演、4日間の開催であったが、今年は芸術劇場が改修工事で休館のため、ミューザ川崎で2公演、すみだトリフォニーホールで1公演の計3日間に変更となった。ミューザ川崎では2公演とも3大学が競演する。
最初は昭和音大のバルトークの「オケコン」、指揮は時任康文。
難しい曲で実演ではほとんど満足したことがない。「序奏」「対による提示」「哀歌」と聴きながら、やはり演奏するに難物だな、と声に出さないまま呟いていたが、「間奏曲」の例のショスタコーヴィッチのパロディあたりから、俄然、精彩を帯びてきた。「フィナーレ」は生命力に溢れ、なかなかの盛り上がりで感心した。
藝大は序曲「レオノーレ 第2番」と三善晃の「焉歌・波摘み」の2曲。
下野竜也のベートーヴェンは力強い。「焉歌・波摘み」はチェロの高音域のすすり泣きから始まり、慟哭、怒りを経て、ヴィオラに先導された弦の子守歌で終る。この間、管楽器と打楽器は狂奔するばかりでなく、静謐な祈りの調べを奏でる。鎮魂歌である。
そういえば「美しき水車小屋の娘」の終曲は小川の子守歌だった。「マタイ受難曲」の終曲も子守歌のように聴こえないこともない。子守歌は古今東西、究極の魂振なのだろう。
音大フェスティバルで何度か藝大を聴いてきた。下野は間違いなく藝大から最高のパフォーマンスを引き出した。
最後は桐朋学園。チェロの上野通明とヴィオラの田原綾子が加わり、沼尻竜典が指揮するR.シュトラウスの交響詩「ドン・キホーテ」。
沼尻はいつも手堅い。あまり驚きがない演奏もママあるが、時としてとてつもない音楽をつくることがあって目を離せない。まさしく今日がそう。まったく隙がない。絶妙のバランス感覚と色彩感。自然な息遣いと無理のない進行。ドン・キホーテとサンチョ・パンサの旅が続く。次々と景色が目の前に現れ、ドン・キホーテの狂気と悲しみが浮かび上がる。
上野通明と田原綾子の名演ももちろんだが、精密なアンサンブル、緻密な弦楽器、粒の揃った管楽器など、桐朋学園の実力を再認識した。過去の音大オケ・フェスを通しても屈指の演奏だった。
2024/11/30 音大オケ・フェス 武蔵野音大・東京音大・国立音大 ― 2024年11月30日 22:31
第15回音楽大学オーケストラ・フェスティバル2024
武蔵野音大・東京音大・国立音大
日時:2024年11月30日(土) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:武蔵野音楽大学(指揮/現田茂夫)
東京音楽大学(指揮/広上淳一)
国立音楽大学(指揮/高関健)
演目:サン=サーンス/交響曲第3番 ハ短調
「オルガン付き」(武蔵野)
プロコフィエフ/交響曲第5番 変ロ長調(東京)
レスピーギ/交響詩「ローマの噴水」(国立)
レスピーギ/交響詩「ローマの松」(国立)
2024年音大オケ・フェスの2日目。
武蔵野音大の「オルガン付き」でスタート。
指揮の現田は還暦をとうに過ぎているはずだが相変わらず姿勢はしゃきっとして若い。衣装も艶のある濃いグレーの上下を着込んでとてもおしゃれ。小泉和裕ほどではないけど下半身をほとんど動かさないまま指揮する。最近は後進の指導に尽力しているようで、指揮者としての登場回数が減っているが安定の指揮ぶりである。
第1楽章後半のアダージョにおける低音域のオルガンを背景に第1と第2ヴァイオリンが掛け合い、続くヴィオラ、チェロが絡む繊細さには陶然とするほど。一方、第2楽章後半のオルガンとともにオケ全体が結集して圧倒的な音圧で押し切る迫力も素晴らしい。聴きなれたサン=サーンスの「交響曲第3番」だが、やはり名曲である。
武蔵野音大のオケは良くまとまり好演。弦5部には何人かの先生方が参加し、各パートの後ろで弾いていた。微笑ましいかぎり。
2曲目は広上×東京音大のプロコフィエフ「交響曲第5番」。
過去、広上と東京音大によるベートーヴェン、J.シュトラウス、ストラヴィンスキーなどを聴いて、一度として失望したことがない。強く記憶に残る演奏ばかり。今日もその通り。
チェロ10挺、コントラバスはわずが5挺ながら地鳴りを伴うような重々しさで進む。スケルツォのメカニックなリズム感は小気味好く軽快そのもの。透明な美しさをたたえたアダージョのあと、荘重な主題とフーガ的な展開となり、長大なコーダは緊張感を孕む。各楽器のバランスがとれているためか大音量でも騒々しくならない。
音大で専門に学んでいるとはいえまだ20歳前後の若者たちからこれほどの音楽を引き出す。今、邦人の現役指揮者のなかで広上がナンバーワンであると考える所以である。
最後は国立音大を高関が指揮して「ローマの噴水」と「ローマの松」。
いずれも音で描いた絵巻物。オルガンと管楽器、打楽器が縦横無尽に活躍する。「ローマの松」ではバンタが加わる。トランペットが12本とは最多じゃないか。でも、決して虚仮威しのようには響かない。高関はいつものように節度をもって丁寧に音楽をつくる。「ジャニコロ」のナイチンゲールの鳴き声が途絶え、「アッピア街道」を遠くからティンパニが刻みつつ近づいてくるところはその典型、国立音大もよく高関の期待に応えていた。
音大オケ・フェスは、このあと明日のトリフォニーホールを残すが、錦糸町は遠いのでパスする。今年もお腹一杯で満足度の高いイベントが終わった。