6月の旧作映画ベスト3 ― 2024年06月28日 08:48
『誰よりも狙われた男』 2013年
ジョン・ル・カレの小説は何作か読んだ。ラドラムやクランシーのような派手さはなく、ひたすら地味。その分、いかにも本物の諜報活動はこうだろうな、と思わせる。映画になっても『ナイロビの蜂』や『裏切りのサーカス』『われらが背きし者』などエンターテインメントというよりはドキュメンタリーのように真に迫って来る。この作品もまさにそう。ハンブルクでテロ対策チームを率いるバッハマンは、密入国したイスラム過激派のイッサに狙いをつけ、泳がせることで密かにテロ資金を援助する大物と背後の組織を一網打尽にしようとする。が、ドイツの諜報界やアメリカのCIAは闇雲にイッサ逮捕に向けて動きだしていた。バッハマンを演じるのはこの映画が最後の主演作となってしまったフィリップ・シーモア・ホフマン、名優である。共演はレイチェル・マクアダムス、ウィレム・デフォーなど芸達者が顔を揃える。チームの労苦が報われない結末の余韻が長く尾を引く。
『フォードVsフェラーリ』 2019年
1960年代、ル・マン24時間耐久レースにおけるフォードとフェラーリの闘いを描いた実話もの。ル・マンでの勝利を目指すフォード社は、元レーサーでカー・デザイナーのシェルビー(マット・デイモン)にマシンの開発を依頼する。絶対の王者フェラーリ社に勝つためには、マシンとともに優秀なドライバーの獲得が必要だ。シェルビーは若くはないが才能あるレーサーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)に目をつけチームに引き入れる。シェルビーとマイルズは力を合わせて幾多の困難を乗り越えル・マンに挑戦する。カー・レースという一種の闘争劇の面白さはもちろん、組織と個人という永遠のテーマこそが更に興味深い。マット・デイモンは『ボーン』シリーズでは筋肉隆々のマッチョな諜報員、『AIR/エア』では腹の出た中年のナイキ社員、ここでは元レーサーらしくその中間の体型をつくりあげた。そして、ラスト数分の彼の万感交到る演技を観てほしい。
『野性の呼び声』 2020年
昔も昔、大昔、小学生のころ、ジャック・ロンドンの原作を「少年少女世界名作全集」?の一冊として『ロビンソン・クルーソー』や『十五少年漂流記』などと一緒に読んだ覚えがある。過去に何度も映画化されているが、主人公であるべき犬をどう演技させるかに大きな制約があった。本作では『アバター』と同様、モーションキャプチャーで造形したらしい。犬の仕草の隅々に至るまで見事に感情がこもっている。逆に表情があまりに過剰なため、ちょっと不自然さを感じるかも知れないが、そんなことは些細なこと。CGの進化によって小説の真の実写化が可能になったことは確かだ。ゴールドラッシュの時代、アラスカの大自然をバックに、ハリソン・フォードが演じる愛する人を失った孤独な老人と、飼い主を次々と代わりながら野性を取り戻して行く名犬バックとの絆に涙し、壮大な冒険に胸躍る。監督は『ヒックとドラゴン』で人とドラゴンとの友情を描いたクリス・サンダース、これ以上ない人選だろう。