2023/6/25 マリオッティ×東響 モーツァルトのピアノ協奏曲、「グレイト」2023年06月25日 21:38



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第91回

日時:2023年6月25日(日) 14:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ミケーレ・マリオッティ
共演:ピアノ/萩原 麻未
演目:モーツァルト/ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467
   シューベルト/交響曲第8番 ハ長調 D944
         「ザ・グレイト」


 イタリアの俊英、マリオッティ。ボローニャ歌劇場の首席指揮者を経て、昨年にはローマ歌劇場の音楽監督になっている。初見参である。

 イタリアは幾多の名指揮者を生んでいる。その系譜に繋がる逸材。体格は中肉中背で、日本人と大きく変わらないが、佇まいからしてThe指揮者、これが指揮者という風格。
 右手は振り過ぎない、拍を刻まないときもある。左手は絶えず表情をつくりだしている。それに対する東響(コンマス:グレブ・ニキティン)の反応がまた格別。指揮者とオケとのやり取りを見ているだけで管弦楽の醍醐味を味わうことができる。

 モーツァルトとシューベルト、いずれも歌にあふれている。その歌をマリオッティは思う存分歌いあげる。自身もずっと口ずさみながら指揮をした。弱音は絶美、強音は威圧的にならない。自然な息遣いでテンポが揺れ、スピードが変化する。
 ローマ歌劇場の音楽監督は伊達じゃない。しかし、よく分からないけどコンサート指揮者としてはあまり出演をしないのだろうか。今までまったく視野に入ってこなかった。
 プログラムノートを読むと、音楽評論家の香原斗志さんは10年以上も前から注目していたという。慧眼である。Net上の「SPICE」に同じ記事が掲載されている。

https://spice.eplus.jp/articles/318571

 モーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番」のソロは、萩原麻未。萩原さんのちょっと翳のある美しい音にも感心したが、マリオッティの伴奏のつけかたが絶妙で、ピアノとオケのバランスに一分の狂いもない。第1楽章の忍び足のような始まりから音楽が横溢し、第2楽章の美を極めた調べ、第3楽章の活力ある飛翔まで、素晴らしいモーツァルトに魅了された。

 「グレイト」は各楽章ともシューベルトが歩みながらあらゆる景色をみせてくれるような音楽。諸説あるものの現在では、1825年の5カ月に及ぶオーストリア、ザルツブルク旅行のときに「グレイト」が作曲されたと言われている(村田千尋『シューベルト』音楽之友社、99-100頁)。堂々とした歩み、軽快な片足飛び、崖っぷちを行くような緊張、舞踏、駆け足などの情景が目に浮かぶ。
 第1楽章はゆったりとした足取りから軽やかなステップまでその変化が楽しい。第2楽章はオーボエの荒さんの妙技、竹山、ヌヴー、福士の木管群が心に沁みる。経過部ではホルンと弦楽器の掛け合いに耳が奪われる。第3楽章のスケルツオ、もうこれは舞曲。トリオは鄙びたワルツで、いつも涙するところ。今日は号泣して指揮者もオケも視界から消えてしまった。第4楽章は金管による躍動的で情熱的な音楽と、木管で奏でられる抒情的な音楽が交叉して進む。低弦がそれを支える。そう、マリオッティはチェロとコントラバスの活かし方が実にうまい。コーダでは圧倒的なクライマックスを築く。

 モーツァルトの開始楽章からシューベルトの終楽章まで、あいだの休憩時間は別として、涙が途切れることがなかった。今まで「ピアノ協奏曲第21番」や「グレイト」は幾度となく聴いて来たが、両曲ともこの演奏がベストワンとなった。

 40歳半ばのマリオッティ、いろいろな管弦楽曲をもっと聴いてみたい。コンサート指揮者としての色気があるのかないのか。東響との相性は申し分ない。4、5年先、ノットのあとの監督は、ウルバンスキ、ヴィオッティを期待しているが世界は広い。マリオッティを大本命にしてもいいくらいだ。たんなる夢物語にすぎないが…

 今日の演奏は、ニコニコ動画で配信された。

https://live.nicovideo.jp/watch/lv340528481