2022/5/14 阪哲朗×神奈川フィル グレイト2022年05月14日 19:11



神奈川フィルハーモニー管弦楽団 定期演奏会第377回

日時:2022年5月14日(土) 14:00
場所:神奈川県民ホール
指揮:阪 哲朗
共演:ピアノ/クレア・フアンチ
演目:酒井健治/Jupiter Hallucination
        「ジュピターの幻影」
   モーツァルト/ピアノ協奏曲第25番ハ長調K.503
   シューベルト/交響曲第8番ハ長調D944
        「グレイト」


 沼尻監督の就任披露公演へ行くことができなかったため、今日が新シーズンはじめての神奈川フィル。
 昨年の音楽堂シリーズ「モーツァルト+」で名演を聴かせてくれた阪哲朗が、定期演奏会に初登場。共演はピアノのクレア・フアンチ。

 酒井健治の曲は、モーツァルトの「交響曲第41番ハ長調」に着想を得た作品。「ピアノ協奏曲第25番」もハ長調。「グレイト」はもちろんハ長調で、演奏会案内のチラシの謳い文句が「純真無垢、ハ長調の誘い」とあった。
 調性が純真無垢を想起させるとして、「グレイト」や「ピアノ協奏曲第25番」がそうであるかどうかは別だけど、魅力的なプログラム。

 酒井健治の「ジュピターの幻影」は、拍子木や鼓のような和の響きの中から「ジュピター」のさまざまな場面が浮かび上がっては消えていく。基本、無調で筋書きが見えないし、頂点も定かでないから、15分程度の演奏時間がちょっと長く感じた。
 
 モーツァルトが書いた番号付きのピアノ協奏曲は27曲。最初のオリジナル作品である「5番」(1~4番は編曲)からして傑作なのだから、どれもこれも魅力がふんだんに詰まっている。そのなかでも「20番」以降の8曲は頻繁に演奏会で取り上げられる。「20番」と「24番」は劇的な短調作品、「21番」「23番」「27番」は慎ましく内省的、「22番」「25番」「26番」は華麗で祝祭風。
 「25番」は、かってジュピター協奏曲という渾名を付けられたこともあった。自身の予約演奏会のために作られた最後の協奏曲ではなかったか。先行する「21番」ハ長調と「24番」ハ短調とを発展させた作品と言えるし、最初の祝祭的な協奏曲「5番」を完全無欠なまでに完成させた作品とも言える。
 クレア・フアンチの音色はモノトーン寄り。装飾音を結構混ぜていたが、色彩豊富とまではいかない。それほど音量もない。第1楽章は勝利の行進曲、第2楽章は歌があふれ、第3楽章は壮麗に完結し、純真無垢というより堂々とした力強い作品だが、こじんまり纏まってしまった。

 グレイトは、いま「8番」とすることが多いけど、昔から「9番」で馴染んできた。あるいは「9(7)番」と印刷されたレコードジャケットもあった気がする。完成した作品の7番目、未完を含めた作品の9番目ということだったと思うが、「8番」というのは近年の研究の結果なのだろう。“交響曲「第9」のジンクス”を成立させるためには、「9番」としてこじつけたままのほうが良かった、と馬鹿なことを言ってみる。
 この曲は、シューマンが発見し「天国的な長さ」と評して有名。楽章構成、楽器編成は古典的だが、楽器を効果的に使って響きを重層的にし、様々な音色を生み出している。金管ではホルンとトロンボーン、木管ではオーボエとクラリネットの活かし方が秀逸。第4楽章にはベートーヴェンの「第9」からの引用がある。なるほどシューベルトはベートーヴェンに感化され、ブルックナーはベートーヴェンとシューベルトからその衣鉢を継いだ。
 阪哲朗は、繰り返しをほとんど省略せず、それでも60分は切っていたから、テンポとしては快速の部類だろう。指揮ぶりは各パートというより奏者それぞれに指示を出していると思えるほど細かい。付点音符、三連符が身体を揺らせ、転調、和声進行が絶え間なく景色を変え、同音連打、オスティナートが興奮させる。純真無垢というより雄大で自在な曲だ。ただ、阪哲朗の「グレイト」、才気煥発過ぎてちょっと窮屈になってしまった。