DUNE/デューン 砂の惑星2021年11月17日 20:10

 

『DUNE/デューン 砂の惑星』
原題:Dune: Part One
製作:2021年 アメリカ
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
脚本:エリック・ロス、ジョン・スペイツ、
   ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、
   オスカー・アイザック


 ホドロフスキーが頓挫し、デイヴィッド・リンチの汚名ともなった『砂の惑星』が、ドゥニ・ヴィルヌーヴによって蘇った。
 『メッセージ』『ブレードランナー2049』は、この『DUNE/デューン 砂の惑星』を映像化するための序奏、原作の壮大すぎる物語を映画とするには、これほどの時間が必要だった、と言ってみたくなるほどの出来栄え。

 SFとは言ってもアンドロイドもAIも登場しない。星間航行が現実となっている西暦10000年の世界。宇宙の統治形態は中世の封建制そのもの。皇帝のもと各惑星を大領家が支配する。そのひとつアトレイデス家に砂の惑星アラキスを治めるよう皇帝から命が下る。
 通称デューンと呼ばれるアラキスは、星間航行に必須の抗老化作用を持つ香料メランジの唯一の生産地だ。アトレイデス家はメランジを採掘し管理することによって、莫大な利益を生むはずだった。しかし、その命令はアトレイデス家を滅ぼそうとする皇帝とメランジの採掘権を持つハルコンネン家が結託した陰謀だった。

 主人公はアトレイデス公爵の息子ポール(ティモシー・シャラメ)。夢の中で未来を知る能力を持ち、救世主信仰の当事者として悩む。最初に登場するときはひ弱い美少年だが、劇の進行とともにどんどん逞しく成長して行くさまが観るものを惹きつける。シャルメの演技力の賜物だろう。
 ポールの母親レディ・ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)も魅力的。ベネ・ゲセリットという女性のみの神秘主義教団の一員で、精神と肉体を鍛錬し、強い超能力を持つ。華奢な身体でありながら、危機にあっても臆することなく、ポールの導き役を務める。

 映画としての造形、大小の道具もアイデアが一杯つまっている。巨大なサウンドワーム(砂蟲)、メラジンの採掘機、トンボのような飛翔体、個体の防御シールド、保水スーツなどなど凝りに凝っている。
 サンドワーム(砂蟲)は、『風の谷のナウシカ』の「オーム」を思い出させる。レディ・ジェシカが声で人を意のままに操る「ボイス」は、『スター・ウォーズ』の「フォース」を連想させる。いや、「オーム」や「フォース」が、原作であるフランク・ハーバートの『デューン 砂の惑星』(訳本はハヤカワ文庫)から影響を受けている。
 この伝説的SF小説は1965年に出版された。その後のSF映画が、ヒューゴ賞とネビュラ賞をダブル受賞した小説『デューン 砂の惑星』を無視して製作することは難しかったろう。

 美しく落ち着いた映像、あらゆるものが巨大で、広大で、この大きさを余すことなく画面に定着させたヴィルヌーヴの手腕に脱帽する。巨大な砂蟲、広大な砂の惑星、その砂の惑星を宇宙の辺境と嘯く帝国の拡がり。それと対比するように、特別な存在としての人間、鍛錬による身体的・精神的拡張の限りない可能性、人類が継続するための救世主信仰などを織り交ぜながら、壮大な叙事詩を描いていく。

 そして、ハンス・ジマーの素晴らしい音楽。リゲティの声楽曲を意識したような。『2001年宇宙の旅』に対抗するごとく、声の効果をふんだんに用い、ジマーらしい重低音の上を多分民族楽器であろう打楽器が打ち込まれる。荘厳でいて土俗的。不穏、不安な音の揺らぎが悲劇を想起させる。
 今、このサントラがYouTubeで無料公開中である。

 https://www.youtube.com/watch?v=uTmBeR32GRA

 この映画の原題にはPart Oneとある。したがって、映画は途中で閉じられる。まさに次回をお楽しみという終わり方。
 ヴィルヌーヴは、『DUNE/デューン 砂の惑星』を3部作として構想しているらしい。最悪でも前後編は必要なのだが、如何せん興行成績次第。このまま中途半端で次の製作が叶わないことも想定された。
 幸いこのPart Oneの興行成績はまずまずで、評価も高い。結果、続編の撮影が決定した。2023年の公開予定だという。心待ちにしたい。
 いや、その前に、まずはもう一度このPart Oneを観るつもり、今度はIMAXで。

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