2025/8/3 松井慶太×東京カンマーフィル シベリウスとベートーヴェンの「交響曲第7番」 ― 2025年08月03日 21:56
東京カンマーフィルハーモニー
第30回 定期演奏会
日時:2025年8月3日(日) 14:00開演
会場:神奈川県立音楽堂
指揮:松井 慶太
演目:ウォルトン/スピットファイア 前奏曲とフーガ
シベリウス/交響曲第7番
ベートーヴェン/交響曲第7番
8月はアマオケの定期公演が集中する。指揮者と演目を眺めながら幾つかを聴こうと思う。先ずは松井慶太のシベリウスから。
松井は11月末の音大フェスティバルにも出演するが、一足先に東京カンマーフィルとシベリウス「交響曲第7番」を演奏するという。これはどうしても聴きたい。松井は汐澤と広上の弟子で、合唱指揮者を長く務めたあと、今年からOEKのパーマネント・コンダクターに就任している。母校の特任教授にもなった。
東京カンマーフィルはHPによると2006年に設立した室内管弦楽団で、古典派からロマン派の音楽をプログラムの中心にすえ、合唱団との共演によるコンサートにも積極的に取り組んでいるという。定期演奏会の記録をみると15年にわたって松井慶太が全てを指揮しており、あらたまって謳ってはいないものの松井がこのオケの常任指揮者ということであろう。メンバー表によると所属は50数人、見た目は老若男女幅広いが、どちらかというと落ち着いた年代の団員が多いようだ。
最初はウォルトン。ウォルトンといえば「ベルシャザールの饗宴」が飛びぬけて有名だけど、映画音楽も幾つか書いている。映画『スピットファイア』(1942年公開)の音楽より抜粋して演奏会用に編曲したのが「前奏曲とフーガ」。金管楽器のファンファーレから始まる。金管の音程がちょっと不安定、開始早々だから無理もない。スケールの大きな曲想で行進曲となる、続くフーガは小さなモティーフがリズミカルに編み上げられ緊張感が高まる。途中、哀愁を帯びたヴァイオリンの歌が聴こえてくる。弦楽器は8-8-6-5-3の編成、第1ヴァイオリンだけが8人で以下は10型に近い。音楽堂の音響効果もあってか小編成とは思えないほど音は厚く潤いがある。最後は前奏曲のテーマが重なり輝かしく幕を閉じた。
シベリウスの「交響曲第7番」は、20数分に凝縮された単一楽章の交響曲。魅力は何といってもトロンボーンによる主題。低弦の上昇音型で開始されるアダージョではホルンに先導されながら控え目に鳴り、次いでスケルツォにおいて風が吹き荒ぶような弦楽器の響きの中からはっきりと奏でられる。そして、最後は牧歌的な第3部を経たフィナーレで燦然と吹奏される。フィナーレではすべての管弦楽が時間をかけ、総力をあげて高みへ向かうさなかトロンボーンがテンパニを引き連れ崇高に鳴り響く。ウォルトンのときの金管には不安があったが、シベリウスではホルン、トランペット、そして主役のトロンボーンが俄然踏ん張った。弦も分奏があって難度が高いが表情豊かに奏でた。松井慶太は強引なところを見せず泰然と流していく。シベリウスの美点が自ずと浮かび上がり、何度となく大自然を仰ぎ見るような心地がした。
同じように息が長く金管が重要な役割を担う音楽であっても、ブルックナーのそれは動機を彫琢しつつ反復を重ね転調に転調を繰返しながらクライマックスを築き、ときに彼岸を垣間見るかのような法悦を感じることがあるのに対し、シベリウスのそれは唐突な場面転換を経ながら主題の再現によって頂点をつくりあげる。このとき広大無辺な自然を目の前にしたような感覚を覚える。音楽は山川草木を具体的に描写するわけではないけど、松井と東京カンマーフィルのシベリウスに落涙しそうになった。
休憩後はベートーヴェンの「交響曲第7番」。出だしの一撃からして只事ではない。テンポは急ぐことなく各楽器が過不足なく鳴って堂々と進んでいく。松井のリズム感の素晴らしさは汐澤の弟子だから当然だろう。2楽章では弦5部のそれぞれの色合いが鮮明で、その弦のパートがさまざまに絡み合う様に舌を巻いた。スケルツォのリズムの切れ味には文句のつけようがなく、トリオのホルンと木管の掛け合いも惚れ惚れする。終楽章へはアタッカで一気呵成に突入せず十分間合いをとった。流れが途切れるかと懸念したのも束の間、熱狂的なフィナーレが待っていた。アウフタクトの勢いも楽器の叫びも壮絶といえるほど。コーダ直前のフーガはなかなか満足できない演奏が多いが、2楽章と同様、弦楽器の音色の活かし方が巧妙であり、高揚感を保ったままコーダに雪崩れ込んだ。もともと手に汗握る曲だけど、馴染み過ぎているせいで失望することもある。今日は久しぶりに大興奮した。
松井慶太40歳。今後、プロオケを振る機会が増えていくのかも知れないが、いまもアマオケの指揮を引き受けている。同じ汐澤の弟子といっても先輩であり師匠でもある広上や、ほぼ同世代の川瀬は後進の育成とともにプロオケでの活動が中心となっている。松井が今後も教育者を兼ねながらアマオケの指導を続けていくのであれば、これは汐澤の立派な跡継ぎと言えるだろう。汐澤は、音楽には奏者の技量だけではかれない領域があることを教えてくれた。この先、松井慶太を聴くという楽しみが増えた。次は音大フェスティバルにおける東京音大とのマーラー「巨人」である。期待して待ちたい。
2025/8/9 ミンツ&都響メンバー 2つの「四季」 ― 2025年08月09日 21:57
シュロモ・ミンツ&東京都交響楽団メンバー
ヴィヴァルディ&ピアソラ2つの四季
日時:2025年8月9日(土) 15:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
出演:ヴァイオリン/シュロモ・ミンツ
チェンバロ/大井駿(ヴィヴァルディのみ)
都響メンバーによる弦楽アンサンブル
ヴァイオリン/及川博史、塩田脩、
三原久遠、山本翔平
ヴィオラ/萩谷金太郎、林康夫
チェロ/長谷部一郎、森山涼介
コントラバス/髙橋洋太
演目:ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」
ピアソラ/「ブエノスアイレスの四季」
(ファビアン・ベルテロ編曲)
シュロモ・ミンツはモスクワ生まれだが、物心がつく前にイスラエルに移住し、その後、アメリカでアイザック・スターンに師事したという。多くの弦楽奏者と同様ユダヤ系のヴァイオリニストであろう。都響の及川博史はミンツの愛弟子らしい。で、その及川をリーダーとする都響の弦楽アンサンブルと一緒にヴィヴァルディとピアソラの「四季」を演奏した。
ヴィヴァルディの「四季」といえば、われわれの世代はイ・ムジチのレコードによって入門するのがお決まりのコースだった。そうそうコンマスがアーヨかミケルッチかの違いに結構こだわっていたのを思い出す。その後、長く愛聴したのはジュリアーノ・カルミニョーラが古楽器グループであるソナトーリ・デ・ラ・ジョイオーサ・マルカと組んだ装飾音まみれのエキセントリックな音盤だったけど。もちろん実演にも何度か出向いた。
ミンツと都響メンバーによるこの「四季」は何という静謐な! テンポも音量も音色も控え目で揺らぎも強弱も緩急も穏やか。緩徐楽章などは最弱音を駆使して緊張感を高め、一瞬、宗教音楽ではないかと錯覚するほどだった。これは異様な佇まいの「四季」といえるのではないか。後々まで記憶に残りそうな演奏である。ミンツのヴァイオリンはボウイングがコンパクトで無駄な動きが一切ない。美音に聴き惚れた。
「ブエノスアイレスの四季」の実演は初めて。ピアソラの原曲は五重奏曲、ソロヴァイオリンと弦楽オーケストラのために編曲されたものはロシアの作曲家デシャトニコフの版が有名で、YouTubeにアップされているのは大部分がこの版である。今回はアルゼンチンタンゴ界の才人といわれるファビアン・ベルテロによる編曲版という。
ライブで聴く「ブエノスアイレスの四季」は、けだるさと哀愁の漂う魅力的な作品。編曲の妙もあるのか、楽器の胴体を手で叩き打楽器のような音を出したり、グリッサンド、フラジオレット、ピチカートなどの奏法もめまぐるしく、自然に身体が揺れ動くようなリズムに魔力がある。ミンツと都響メンバーはことさら民俗性を強く押し出すことなく、力みのない愉悦に満ちた演奏で楽しませてくれた。
「ブエノスアイレスの四季」の演奏順はさまざまで、作曲順に夏秋冬春としたり、北半球の春夏秋冬や、南半球における四季、つまり秋冬春夏としたりする。ベルテロの編曲は南半球における秋冬春夏の四季だった。YouTubeで聴くと先鋭的な音楽である「春」と、終盤パッヘルベルの「カノン」のような旋律が出現する「冬」が印象的だが、ライブでは季節のそれぞれが面白く演奏順など気にならない。それより、原曲のキンテートはもちろんピアノトリオや同じ弦楽合奏でもデシャトニコフ版など、この曲のあらゆるバージョンの実演を聴きたくなる。
アンコールはピアソラの「オブリビオン」と、もう一度「春」を演奏してくれた。
Tシャツ ― 2025年08月13日 11:46
この季節、普段は綿パンツかアスレチックパンツにTシャツで居る。暑さが厳しい日には何回も着替える。とくにTシャツは何枚あっても足らない。
そうでありながらTシャツはあまり買い求めたことがない。貰いものが多く「スター・ウォーズ」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ジュラシック・パーク」など映画のポスター画面がプリントされたものや、「Microsoft」などのロゴが入った企業タイアップもの、ラクビー、野球、オリンピックなどのスポーツイベントで作成されたもの、背番号17の入ったユニフォームを模したものまである。さすが大谷選手のユニフォームに似せたTシャツは、気楽に着るわけにはいかないからタンスの奥にしまい込んであるけど。
ほとんどが非売品のようで、どうやって手に入れたかは知らないが様々な意匠のTシャツを子供が届けてくれる。親孝行のつもり? いや、だいたいが車を借りたいときに土産代わりに持ってくる。余分にあって困ることはないので、こちらは何であろうとウエルカムである。
それにしてもこの夏の気象は異常。今週は雨模様で多少暑さが和らいでいるが、蒸し風呂に入っているようで身体に酷くこたえる。天気予報によると来週はまた猛暑がぶり返すという。立秋は過ぎた、盂蘭盆会のあとの残暑を乗り切れば、と呟きつつ毎日を耐えている。