2024/9/15 田部井剛×新日響 ストラヴィンスキーとショスタコーヴィチ2024年09月15日 19:05



新日本交響楽団 第113回演奏会

日時:2024年9月15日(日) 13:30開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:田部井 剛
演目:ストラヴィンスキー/交響曲ハ調
   ショスタコーヴィチ/交響曲第10番 ホ短調 作品93


 新日響は半世紀以上の歴史を誇るアマオケ、10代から60代までの多様な業種・職種の80名を超えるメンバーによって年2回の定期演奏会を重ねているという。今日はストラヴィンスキーとショスタコーヴィチのそれぞれの交響曲を並べた。新日響は歴史ある集団だけあってベテラン、中堅、若手が補いあい落ち着いた演奏を繰り広げた。田部井剛も丁寧な指揮をみせてくれた。

 ストラヴィンスキーの「交響曲ハ調」は珍しい。「3楽章の交響曲」のほうがずっと有名で人気も高いだろう。プログラムノートによると「交響曲ハ調」は、シカゴ交響楽団の創立50周年記念に依頼され1940年に初演された。ストラヴィンスキーはこの時期生涯でもっとも困難に見舞われていたという。長女と妻と母を亡くし、本人はアメリカ滞在中に大戦の勃発により家族をヨーロッパに残したまま帰れなくなる。
 「交響曲ハ調」の楽器編成はピッコロ、トロンボーン、チューバは使っているものの、打楽器はティンパニのみという潔さ。楽曲の構成は古典的な4楽章で、形式は極めて保守的。しかし、その中身は先鋭的で感傷的なメロディがあるわけでなく、ひたすら音響とリズムの面白さを追及している。
 驚くのは自身の大きな悲しみや喪失感のなかで書かれているのに、曲調には深刻さや悲愴感が全くみられない。音楽が作曲家の心情や思想と結び付けられるのを嫌っていたストラヴィンスキーらしい作品といえるかもしれない。

 ショスタコーヴィチの「交響曲第10番」はまるで自伝のよう。独裁者スターリンが死去した年にソ連の“雪どけ”の中で生まれた暗号だらけの曲。開始楽章では鎮魂、悲惨、恐怖、苦悩などさまざまな言葉が想起する。第2楽章は自ら“音楽によるスターリンの肖像”と発言している。まさに悪魔的なグロテスクでとてつもない残忍さや暴力を感じさせる。第3楽章では「E-A-E-D-A」と何度も恋人エルミーラに呼びかける。最終楽章では自身のイニシャルである「D-S-C-H」が狂気乱舞する。

 音楽において思想信条や喜怒哀楽など何も言わないと決めたストラヴィンスキーも凄い人だが、音楽において何かを言わなければと思い続けたショスタコーヴィチもとんでもない人である。
 ストラヴィンスキーとショスタコーヴィチは年齢的には父子ほどの隔たりがある。ストラヴィンスキーは現代音楽の先駆者として、ショスタコーヴィチはマーラーの後継者として音楽史に刻まれるのだろう。二人ともクラシック音楽の黄昏に登場した巨人である。