2024/2/4 太田弦×ユニコーンSO ブルックナー「交響曲第8番」2024年02月04日 21:12



ユニコーン・シンフォニー・オーケストラ
          第16回 定期演奏会

日時:2024年2月4日(日) 13:30 開演
会場:横浜みなとみらいホール
指揮:太田 弦
演目:ワーグナー/楽劇「ニュルンベルクの
         マイスタージンガー」第1幕への前奏曲
   ブルックナー/交響曲第8番


 若手指揮者の躍進が目覚ましい。わが国では太田弦がそのトップランナーだろう。10年ほど前、藝大在学中に東京国際指揮者コンクールで2位と聴衆賞を受賞した。その後、あれよあれよという間に大阪交響楽団の正指揮者を経て、一昨年には仙台フィルハーモニー管弦楽団の指揮者、昨年には29歳で九州交響楽団首席指揮者に就任してしまった。高関健の弟子にあたり、師匠と同様譜読みが趣味で、映画『スター・ウォーズ』が好きらしい。
 4月には東響との「スター・ウォーズ・コンサート」があるから聴くつもり。その前に、アマオケでブルックナー、それも「交響曲第8番」を振るというのでチケットを確保した。太田弦はブルックナーの「8番」について、譜面の間違いを海外の研究者とメールでやりとりしたことがあると発言している。その成果や如何にである。それにアマオケ相手の演奏を聴くと、指揮者の曲に対する構想や考えが捉えやすいということもある。
 今年はブルックナー生誕200年のアニバーサリー、何曲かの交響曲を聴く予定だが、今日がそのスタートである。

 「ニュルンベルクのマイスタージンガー」から始まった。オケの各セクションが鮮明に分離し過不足なく聴こえる。ワーグナーの幾つかの動機が描き分けられ、曲は徐々に高揚し、終幕は小柄な太田弦が仁王立ちになって、一回りも二回りも大きくなったと錯覚するほどだった。太田はタクトを持たず、腕の使い方、身体全体の所作は、もう一人の師匠である尾高忠明にどこか似ている。前奏曲をこんなに面白く聴いたのは久しぶり。後半のブルックナーへの期待がふくらむ。

 そのブルックナーの「交響曲第8番」、期待以上の素晴らしい演奏だった。演奏時間は楽章間の休み、調弦を含めて約90分。それにしても相当遅い。ここでも各声部のそれぞれが主張しながらバランスを崩すことがない。弦5部が対旋律をはっきり響かせることで、立体的で多層的な構造物が立ち上がる。木管は寂寥感をたたえ、金管は壮麗に鳴らすも喧しくならない。テンポ設定もパウゼの間合いも物言いのつけようがない。
 第1楽章のブルックナー開始がぴったり決まる。低弦の響きにぞくっとする。ベートーヴェンの第九の模倣だと、改めて感じる。ブルックナーリズムのキレの良さ躍動感も特筆すべきだ。第2楽章スケルツォの中間部、突然時間が止まり、陶酔的なトリオ。このハープにはいつも泣かされる。第3楽章の下降音形、上昇音形で弦が美しい音を奏で、ワグナーチューバが踏ん張る。大きく揺さぶられるようなアダージョに、心が何度も別次元の世界へ持って行かれた。第4楽章の悠然たるテンポは、あのクナほどではないが、聴いた実演の中では最も落ち着いたものだった。隅々まで彫琢され、それでいて迫力を失わない。コーダに至るまでの長いクライマックスと、壮大な終結の作り方に感極まった。やはり「交響曲第8番」はブルックナーの最高傑作だった。

 ユニコーンSOは、もともと慶應義塾中等部の卒業生が中心となって2010年に結成し、現在は出身母体の枠を超えてメンバーが集まっているという。見た目は学生オケのようで、ほとんどのメンバーが20代のようだ。技術的にはアマオケであることを忘れるくらい上手い、音大オケ並み。これは太田弦の方針だと思うけど、金管などは吹きやすいように、あえて最弱音を求めず、音量のコントロール以上に音程に注意が払われていた。
 太田弦は極端なアゴーギグやデュナーミクを避け、低音を強調しながら大きな流れを作り、がっしりと構築された音楽をつくる。若い指揮者の成せる業とはとても思えない。恐るべしである。次回の「スター・ウォーズ・コンサート」が楽しみになってきた。