2023/10/28 佐渡裕×新日本フィル 「悲しみ」と「ロマンティック」2023年10月28日 20:34



新日本フィルハーモニー交響楽団
#652〈トリフォニーホール・シリーズ〉

日時:2023年10月28日(土) 14:00開演
会場:すみだトリフォニーホール
指揮:佐渡 裕
演目:ハイドン/交響曲第44番 ホ短調「悲しみ」
   ブルックナー/交響曲第4番 変ホ長調
        「ロマンティック」


 演奏に先だって佐渡のプレトークがあった。4月の「アルプス交響曲」のときは音楽監督の就任挨拶を兼ねたものでお喋りは当然と思ったが、今回もプレトークのサービス。簡素に両交響曲の解説をしてくれた。

 ハイドンの「交響曲第44番」。“悲しみ”という愛称が付けられている。調性がホ短調というのは珍しい。次の「第45番」は、有名な“告別”嬰ヘ短調、この調性もあまりみかけない。ともに「シュトゥルム・ウント・ドラング(疾風怒濤)」期の作品。モーツァルトの小ト短調交響曲もほぼこの時代の作品。もっとも、ハイドンは40歳、モーツァルトは17歳だけど。
 編成はきわめて小さい。管はオーボエとファゴット、そしてホルンのみ。フルートもトランペットも打楽器も用いない。弦はたぶん10型。
 佐渡は指揮台を使わず、タクトはなし。ピリオド奏法には目もくれず、演奏に尖ったところがまったくない。ゆっくりしたテンポでよく歌わせる。第1楽章のユニゾンの響き、第2楽章のメヌエットにおけるカノン進行も面白いが、後半の緩徐楽章とプレストとの対比が鮮やか。半分眠りかけの目が覚めた。

 休憩後、「ロマンティック」。
 佐渡裕のブルックナー「交響曲第4番」は、以前、東フィルとの共演で聴いたことがある。そのときはハイドン「交響曲第4番」と組合わせた。ふたつの「4番」だったからよく覚えている。今日は同じハイドンでも「第44番」。ここでも“4”つながり。佐渡の茶目っ気だろう。
 東フィルとのブルックナーは、佐渡を初めて生で聴いた演奏会だった。このブルックナーが思いがけず良かった。外連味のある演奏を予想していたのだけど、ごくごく自然で雄大な音楽を作り出していた。今回はその佐渡のブルックナーを改めて確認したわけだ。
 佐渡のブルックナーは至極真っ当な演奏。特別な驚きとか新しい発見はないが、安心して聴くことができる。過去のブルックナー演奏をしっかり踏まえて設計しているのだろう。それなりに巨大な音楽だが、騒々しくなく、穏やかな感じさえする。めいっぱい鳴らすよりは、弱音の表現に最大限の神経を使っている。第1楽章の中間部、大きく盛り上がって沈静化し、木管が絡み合いながら、オーボエ、フルート、クラリネットと次々と音が受け渡されていくところ、第2楽章のピチカートのうえを刻むヴィオラの旋律、第3楽章の長閑なトリオの美しさなど。
 飯守のようにその都度異なるアプローチで聴かせてくれるとか、ノットのように即興的な解釈で吃驚させられるわけではない。基本、以前の東フィルのときと大きくかけ離れることのない安定したブルックナーだった。
 新日フィルのメンバー配置表をみると、弦編成は14-14-12-10-8、コンマスは崔文洙、アシストは伝田正秀。ヴァイオリン群がちょっと硬質な音で気になったが、低弦を厚く補強し全体の響きは申し分なかった。