2023/4/24 飯守泰次郎×シティフィル ブルックナー「交響曲第4番」2023年04月25日 13:10



東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団 特別演奏会
      飯守泰次郎のブルックナー「交響曲第4番」

日時:2023年4月24日(月) 19:00開演
場所:サントリーホール
指揮:飯守 泰次郎
演目:ブルックナー/交響曲第4番 変ホ長調
         「ロマンティック」


 飯守泰次郎が振るブルックナーは、過去何度も聴いているが、今回の「交響曲第4番」は、現在の飯守翁とシティフィルにして初めて可能となった最良の演奏だろう。80歳をこえた音楽家の気迫と、献身的なオーケストラが成しえた壮絶で剛毅で、それでいて暖かく人間味あふれるブルックナーだった。

 先日の「8番」と違って驚かされるような第1楽章ではなかった。冒頭の最弱音も神経質にならず、低弦を気持ちよく動かし、おおらかで包容力のある響き。各主題は明確で曖昧さがない。音量に関係なくユニゾンであっても全てのパートがどう演奏しているか分かる。途中チェロ首席の楽器に障害が発生し、楽器は舞台裏へ運ばれた。
 第2楽章は、慈愛にみちた弦の音色が印象的、ヴィオラが弾く旋律をコントラバス、チェロ、ヴァイオリンのピチカートが補強していく。結尾のティンパニの静かでゆっくりとした連打は、穏やかな心臓の鼓動のように聴こえた。
 チェロが舞台に戻ってきた第3楽章からが真の驚異のはじまりだった。スケルツォの速度は限界ギリギリ。飯守翁の動きの少ないタクトと、これほどの高速運転にも拘わらず、管楽器群はよく喰らい付いて行った。信頼するシティフィルだからこそ無茶ができる。一転トリオは田園風景と人々の長閑な日常が目の前に広がるふうだった。
 第4楽章は、終始地の底から音が湧き出るごとく、そのホールの鳴りに震撼した。しかし、透明感は損なわれない。「4番」が後期3作品に肩を並べた瞬間だった。第1楽章の主題が回帰するコーダは、時空の感触が失せた。意識が半分飛んでいたのかも知れない。
 ブルックナーを聴くと、宇宙的な広がりや神々しさ、彼岸をみるかの錯覚を覚えるときがある。けれど、今回は彼方の感覚ではなく、身近な原初的で素朴で偉大であり続ける人間の営みを感じさせるような演奏だった。

 コンマスは荒井英治。「8番」の戸澤哲夫と同様、飯守翁への敬意を払いつつ、困難を乗り越え最善を尽くした。シティフィルの各メンバーも、傷はもちろん幾つかあったけど、まさに身を削った渾身の演奏だった。
 会場の聴衆の集中度は素晴らしく、終了後は熱狂的な拍手とブラボーの嵐。

 当日のプログラムノートに飯守翁は書く。「音楽というのは、生きているもの―――どこかに決定版というものがあるのではなく、演奏者も聴き手もそれぞれが成長して変化することがすべて含まれていく演奏が自然だと思っています」と。
 またひとつ、ずっしりと手ごたえのある“生きた音楽”を聴くことができた。

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