2023/4/16 ウルバンスキ×東響 プロコフィエフ「ロメオとジュリエット」とシマノフスキ「スターバト・マーテル」2023年04月16日 22:41



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第90回

日時:2023年4月16日(日) 14:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:クシシュトフ・ウルバンスキ
共演:ソプラノ/シモーナ・シャトゥロヴァ
   メゾソプラノ/ゲルヒルト・ロンベルガー
   バリトン/与那城敬
合唱:東響コーラス(合唱指揮/冨平恭平)
演目:プロコフィエフ/バレエ組曲
         「ロメオとジュリエット」より
       <ウルバンスキ・セレクション
           ( )内は1~3組曲の種別>
    モンターギュ家とキャピュレット家(2)
    情景(1)
    朝の踊り(3)
    少女ジュリエット(2)
    仮面(1)
    ロメオとジュリエット(1)
    踊り(2)
    タイボルトの死(1)
    朝のセレナーデ(3)
    百合の花を手にした娘たちの踊り(2)
    ジュリエットの墓前のロメオ(2)
    ジュリエットの死(3)
   コネッソン/Heiterkeit
    (合唱とオーケストラのためのカンタータ)
   シマノフスキ/スターバト・マーテル op.53


 東響川崎定期の今シーズン開幕である。
 残念なことに客は5.6割の入り。PとRA,LAの一部を合唱席として使っているのに、2階のセンターなど空きが目立っていた。

 自席の前後左右も空席だったので、開演前、だらしなく座席に沈み込みリラックスしていた。ところが「ロメオとジュリエット」の最初の音で身体が反応。座り直して全身を耳にしたら自然に前のめりになって、最後までその緊張が解けなかった。
 劇的で鮮烈で抒情的で果てしなく美しい。この「ロメオとジュリエット」を聴かなくて、他に何か聴くべき演奏があるのか、と思わされるほど。「タイボルトの死」を頂点に据えた、二度と聴けないかも知れない規格外の「ロメオとジュリエット」だった。
 清水太のティンパニは前々から特別だと思ってはいたが、これほどまでに凄いとは。言葉にならない。相澤、濱崎のフルート、荒、吉野のオーボエ、クラリネット、福士のファゴット、それぞれがエッジを効かせ自己主張する。脳内が痺れまくった。弦も精妙で神秘的。伊藤文嗣のチェロには泣けた。

 ウルバンスキは東響に初演したときから聴いている。ロボットダンスあるいはアニメーションダンスのような指揮ぶりに目を奪われた。でも音楽はごく普通。もちろん「我が祖国」のような名演もあったけど、客演指揮者だと紹介されてもそれほど注視していたわけではない。ベルリンフィルを指揮したり、インディアナポリス響の音楽監督などのキャリアも積んだ。しかし、いつの間にか東響の客演指揮者を降りてしまった。
 久しぶりに来日して指揮したのが、一昨年末の「カルミナ・ブラーナ」。とてもモダンな演奏で見直した。そして今回である。指揮姿も無駄をそぎ落とし、身体の動きそのままの音が出てくるようになった。もちろん東響の反応の鋭さと相性の良さもある。スタイリッシュで細微、さらに表現の深みが加わって、ほとほと感心した。

 ウルバンスキを聴き逃すわけにはいかない。休憩時間中、慌ててミューザのチケットボックスに飛び込んで、週末の名曲全集第186回のチケットを購入した。

 2つの合唱曲も期待を大きく上回った。
 コネッソンは1970年生まれの作曲家。「Heiterkeit」は合唱とオーケストラのためのカンタータで10分程度の曲。日本初演の現代音楽だが、響きは軽やか旋律も明快、静穏な風景を眺めながらゆっくりと歩んで行くよう。インディアナポリス響から委嘱された作品で、楽譜はウルバンスキに捧げられている。いつものように東響コーラスは暗譜、ウルバンスキはもちろん。

 わずかに舞台上を手直した後、シマノフスキ。
 「スターバト・マーテル」のテキストはラテン語でなくポーランド語らしい。全6章からなる。極めて静謐な出だし。ソプラノのシャトゥロヴァの透明な声と女性合唱がホールにしみわたる。第2章は単純で重々しいリズムに乗ってバリトンの与那城敬が力強く歌う。メゾ=アルトのロンベルガーが東響の木管群と歌い交わす第3章。第4章はアカペラ、管弦楽が沈黙するなか東響コーラスの合唱に涙する。第5章で合唱と管弦楽が総奏しクライマックスを築く。終章は祈りに満ち、柔和で光に溢れた声が広がる。
 20世紀、両大戦の中間に書かれた宗教音楽だけど、古風な雰囲気が漂い、民族音楽に通じるような懐かしさも感じる。3人のソリストと合唱団が見事、そのうえ精緻な管弦楽が加わる。浄化され天上に連れて行かれるような感覚を味わった。

 年度末に東響から何人かの首席が抜けた。今日のホルンの1番、3番も客演だったと思う。しかし、演奏を聴くかぎり精密で立体的な響きは健在。ちょっとした心配は杞憂に終わったようだ。
 それと、ウルバンスキの成長ぶりが頼もしい。監督のノットは10年目に入った。あと数年、契約延長を行うとしても、後任を考える時期である。後継にはこのウルバンスキかロレンツォ・ヴィオッティが有力候補であれば嬉しい。いまウルバンスキは主要なポジションに就いていないはずだから、再度、客演指揮者などに招いてもいいのではないか。
 今年度も東響の音楽とニュースには要注目である。

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