つゆのあとさき2022年06月08日 13:17



 おととい、気象庁は関東の梅雨入りを宣言した。平年より1日、去年より8日早いという。
 梅雨の合間を見計らって歩くことにする。だいたい、漫然と歩くよりは、目的地を定めたほうがいい。

 ひとつは公園。近ごろの公園は規模の大小問わず、子供用の遊具だけでなく、大人用の道具が設置されているところがある。滑り台やブランコ、ジャングルジムといった子供向けの定番だけでなく、大人用と注意書きのあるぶら下がり器、背が半円形になったベンチ、身体をひねる器具等々。むかし、室内用のぶらさがり健康器具が流行ったが、その屋外バージョン、背伸び用のベンチ、回転台のついた手すりなどだ。
 お気に入りはぶらさがり器、最初は3秒と握れなかったものが、繰り返すうちに1分くらいは何とか我慢できるようになった。もっとも、これによって猫背が矯正されるとか、握力が増すとか、筋力がつくとか、といった効果はほとんどないと思う。でも、身体を動かすことは悪いことではない。

 もうひとつは寺社。この辺りは神社なら天照大御神、熊野権現、大物主神、稲荷神、八幡神など八百万の神が御座る。仏閣なら真言宗、法華宗、浄土宗、真宗、日蓮宗、曹洞宗、臨済宗など各宗が集まっている。
 一度で4、5社寺ほど巡ることができる。境内では四季折々の花々に感心し、手入れの行き届いた樹々を楽しむことができる。時には犬猫を揶揄って時間をつぶす。

 今日は公園を目的地にした。
 この季節、歩いていると、『つゆのあとさき』の断片の幾つかがぼんやりと纏わりつく。時代は違っても、長年世話になった日比谷、数寄屋橋、銀座の街並みや、梅雨の始めから終わりの移り変わり、浅薄な男と奔放な女の絡み合いが、突き放したような筆の運びでもって描かれていた。

 この鬱陶しい時代の鬱陶しい季節、あらためて荷風を読んでみようか。「静かな処で小さく暮すのが、私に一番適当して居る」といった反時代主義者の荷風を。