東フィルの来期プログラム ― 2024年10月19日 17:36
東京フィルハーモニー交響楽団の2025シーズンのプログラムが発表になった。
https://www.tpo.or.jp/concert/2025season-01.php
定期演奏会は2月にスタートし10月まで全8プログラム。例年通りオーチャード、オペラシティ、サントリーの3ホールにおいて同一演目を演奏する。
指揮者は名誉音楽監督チョン・ミョンフン、首席指揮者アンドレア・バッティストーニ、特別客演指揮者ミハイル・プレトニョフの3名が軸となる。
ミョンフンは2月開幕と10月閉幕を担当し、ベートーヴェン「英雄」及びプロコフィエフ「ロメオとジュリエット」をそれぞれメインプログラムとした。バッティストーニは「ペトルーシュカ」や「アルプス交響曲」などを披露、プレトニョフは「眠れる森の美女」を振る。
客演指揮者としては尾高忠明、ピンカス・ズーカーマン、それとミョンフンの息子チョン・ミンが予定されている。
2024/8/15 プラッソン×東フィル+二期会 フォーレ「レクイエム」 ― 2024年08月15日 20:41
ミシェル・プラッソン 日本ラストコンサート
二期会と東京フィルハーモニー交響楽団
日時:2024年8月15日(木) 14:00開演
会場:東京オペラシティ コンサートホール
指揮:ミシェル・プラッソン
共演:ソプラノ/大村 博美
バリトン/小森 輝彦
合唱/二期会合唱団
演目:ラヴェル/組曲「マ・メール・ロワ」
ラヴェル/「ダフニスとクロエ」第2組曲
フォーレ/レクイエム op.48
二期会の企画によるミシェル・プラッソンの日本におけるラストコンサート。フォーレの「レクイエム」をメインにラヴェルの2曲を組み合わせた。プラッソン90歳、舞台に出てくるときの足取りは少々危なっかしい。でも指揮姿はしっかりしている。
最初のラヴェル「マ・メール・ロワ」では高椅子を使わず立ったまま暗譜で指揮。手をヒラヒラさせるか指を曲げたり伸ばしたりして音楽をつくる。タクトを持たない音は柔らかく精緻、滑らかに音が溶け合う。「マ・メール・ロワ」は、ラヴェルが友人の子供のために書いたお伽噺に基づく5つの小品だが、いずれも絶妙のハーモニーと呼吸で楽しませてくれた。
「ダフニスとクロエ」は合唱付き。ピッコロやフルート、クラリネットなど各楽器の音がとてつもなく美しい。色合いが深く艶があり、楽器というより自然界の音が共鳴しているよう。第2組曲はバレエ全曲のなかのクライマックスである第3場がほぼそのまま音楽になっている。「夜明け」では朝日が昇る中クロエとダフニスが再会し、二人は「無言劇」を演じて感謝を捧げ、「全員の踊り」で歓喜の大乱舞となる。プラッソンの繊細なニュアンスに満ちた音楽と大胆な音圧の迫力に唖然とする。
フォーレの「レクイエム」には3つの稿がある。5曲構成でソプラノ独唱とコーラス、弦楽器やオルガンによる小編成の「第1稿」と、7曲構成でバリトンを加え、楽器編成に金管楽器などを増強した「第2稿」、そして、一般に演奏される弦5部2管編成に拡大した「第3稿」である。「第2稿」は自筆譜が失われており、ジョン・ラターなどによる校訂版が近年ときどき演奏される。
今日は一般的な「第3稿」である。フォーレの「レクイエム」は近代音楽でありながら中世のグレゴリオ聖歌を彷彿とさせる静謐で天国的な響き。プラッソンの音楽は気高く慈愛に満ちていた。東フィルと二期会は実に献身的に演奏と歌声を捧げた。パイプオルガンの石丸由佳のパフォーマンスにも注目した。
フォーレは劇的なヴェルディの「レクイエム」を知っていたはずだけど、フォーレの「レクイエム」は「怒りの日」を欠き、歌詞もレクイエム(安息)で始まりレクイエムで終わる。穏やかで過剰な感傷のない音楽が平安をもたらす。終戦の日と重なった。心のなかで死者の安息を祈っていた。
アンコールはフォーレの「ラシーヌ讃歌」、これがまた美しさの極み、今日だからこその特別な音楽となった。
プラッソンは胸に手をあて何度もカーテンコールに応えていた。
東フィルの来期プログラム ― 2023年10月06日 08:50
東フィルの2024シーズンのプログラムが発表になっている。東フィル定期のスタートは1月である。年間8プログラムを各3公演、オーチャード、オペラシティ、サントリーホールで開催する。
https://www.tpo.or.jp/concert/2024season-01.php
定期演奏会は、名誉音楽監督のチョン・ミョンフンが3プログラム9公演、首席指揮者のアンドレア・バッティストーニが2プログラム6公演、あとは1プログラム3公演ずつミハイル・プレトニョフ、ダン・エッティンガー、出口大地が受け持つ。いつもの指揮者陣である。
チョン・ミョンフンは「トゥランガリーラ交響曲」や演奏会形式の「マクベス」を、バッティストーニは「カルミナ・ブラーナ」やマーラーの「交響曲第7番」などの大曲を振る。
ここ数年、東フィルでは首席指揮者バッティストーニの話題が少なく、チョン・ミョンフンのほうがオケの看板になっているようだ。そういえば前任のダン・エッティンガーの任期後半も影が薄かった。
楽団における指揮者の肩書は、音楽監督、芸術監督、芸術顧問、首席指揮者、常任指揮者、正指揮者、首席客演指揮者、特別客演指揮者、客演指揮者、桂冠指揮者、桂冠名誉指揮者、終身名誉指揮者などなど、呼称が数限りなくあるのに加え、同じような名称であっても楽団によって役割が微妙に違うようだ。外部からみると複雑怪奇というか、どういった責任と権限を持っているのかよく分からない。
チョン・ミョンフンは名誉音楽監督と称されているが、働きぶりからすると一般にイメージするような名誉職ではなさそうだ。首席指揮者以上の位置づけで、屋上屋を重ねているような気もする。まぁ、聴き手にとっては、贔屓の指揮者さえ登場してくれれば、肩書など頓着しないのかも知れないけど。
東フィルの演奏会はしばらくご無沙汰している。たまには東フィルの演奏会へ行きたいが、定期公演はサントリーホールにおけるチケットが取り辛いこともある。「午後のコンサート」から選ぶか、「フェスタサマーミューザ」などの機会をとらえて聴いてみようと思っている。
東京フィルの来期プログラム ― 2022年10月17日 08:03
先週末、東京フィルハーモニー交響楽団の来期(2023/1~2024/12)ラインナップが発表になった。
会場は、例年通りBunkamura オーチャードホール、東京オペラシティ コンサートホール、サントリーホールの3カ所、同一プログラムで各8回ずつ公演する。
https://www.tpo.or.jp/concert/2023season-01.php
名誉音楽監督のチョン・ミョンフは、1月にブルックナーの「7番」、7月に演奏会形式の「オテロ」を指揮する。首席指揮者のアンドレア・バッティストーニは、3月のサン=サーンス「オルガン付き」と11月のチャイコフスキー特集に登場。
特別客演指揮者のミハイル・プレトニョフは、2月に「マンフレッド交響曲」、5月にラフマニノフの管弦楽作品を演奏する。プレトニョフは、自ら創設したロシア・ナショナル管弦楽団を追われ、活動の機会を奪われている。昨年スイスへ出国し、この9月、スロヴァキアの首都ブラティスラヴァを拠点にした「ラフマニノフ国際オーケストラ」という新たなオケの創設を明らかにしている。
ラフマニノフの作品は6月にも尾高忠明が取り上げる。そのほか若手女性指揮者のクロエ・デュフレーヌが10月に「幻想交響曲」を披露する。ブザンソン国際指揮者コンクールの覇者である。
2022/10/16 ノット×東響 ショスタコーヴィチの「交響曲第4番」 ― 2022年10月16日 21:36
東京交響楽団 名曲全集 第180回
日時:2022年10月16日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ソプラノ/安川 みく
演目:ラヴェル/「鏡」から「道化師の朝の歌」
ラヴェル/歌曲集「シェエラザード」
ショスタコーヴィチ/交響曲第4番 ハ短調 op.43
作曲されてから25年ものあいだ封印されていた、いわくつきのショスタコーヴィチ「交響曲第4番」。今まで生演奏では、バルシャイ、ラザレフ、ゲルギエフ、リットンなどの指揮で聴いてきた。果たしてノットは「第4番」をどう料理するのか。
ノットは、珍しくスコアを順番にめくりながら指揮をした。スコアに書かれている全てを音にしようとする執念が感じられるものだった。しかし、交響曲演奏の、そもそも論として、それほど微に入り細を穿つように音化する必要があるのだろうか。
ショスタコは、交響曲にさまざまなモチーフを放り込み、いろいろなエピソードを次々と出現させる。ノットのように各ページの音符を等価に解き放つと、部分部分は極めてスリリングで面白いが、全体がひとつの音楽として立ち上がってこない。細切れの断片の寄せ集めみたいで、一連の音楽の筋書きが見えてこない。もちろん、ショスタコの多義性がそういう類のものだという議論はできる。しかし、ノットはあまりにも細部にこだわりすぎている。そして、その細部が全体に寄与していないと。
演奏は壮絶を極め、東響の各奏者は、音符をほぼ完璧に再現したと思うが、聴き手は、ショスタコの世界入り込めないままだった。バルシャイやラザレフのような背筋がひんやりと凍りつくような時間はついに訪れなかった。数年まえ同じ東響を指揮したウルバンスキの「第4番」に納得できなかったけど、ノットの「第4番」も別の意味で感銘を受けなかった。
ノットのショスタコは過去にも「5番」「10番」「15番」を聴いている。でも、ほとんど記憶に残っていない。ショスタコの音楽の中に、ノットの演奏技法を拒絶する何かがあるのだろうか。
前半はラヴェルの2曲。スペイン風のリズミカルな「道化師の朝の歌」と、歌付の「シェエラザード」。「道化師の朝の歌」は中間部のちょっと憂鬱な素振りのファゴットが印象的。「シェエラザード」は、けだるく頽廃的な雰囲気を漂わせる。安川みくは若くて清々しい。この曲はもっと年輪を重ねた女性、たとえて言えば、スザンナではなくて、伯爵夫人の声のほうが相応しいように思う。
コンマスは小林壱成、隣のアシストは水谷晃、ツートップで万全の体制。「道化師の朝の歌」とショスタコの「第4番」は16型、「シェエラザード」は12型。
舞台にはマイクが何本も立っていた。いずれCDが販売されるのだろう。楽譜が読める人であれば、ショスタコの楽譜片手に高品質録音を聴くことができるかも知れない。