2025/5/18 沼尻竜典×神奈川フィル 「田園」とブラームス「ピアノ協奏曲第2番」2025年05月18日 20:46



神奈川フィルハーモニー管弦楽団
  ミューザ川崎シリーズ 第1回

日時:2025年5月18日(日) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:沼尻 竜典
共演:ピアノ/清水 和音
演目:ブラームス/ピアノ協奏曲第2番変ロ長調Op.83
   ベートーヴェン/交響曲第6番ヘ長調Op.68         
           「田園」


 神奈川県民ホールが4月1日より休館となった。老朽化のため建替えによる再整備を進めるという。神奈川フィルの県民ホールシリーズも中止となり、これに代わり今シーズンより年3回のミューザ川崎シリーズが新たに企画された。その第1回のコンサートである。客席はほぼ満席、休憩を挟んで約2時間、神奈川フィルは一段と張り切っていた。

 前半はブラームス、先だっての「ピアノ協奏曲第1番」に続いての「第2番」である。ソロはすでに還暦を迎えた清水和音。ダルベルトといい東西の重鎮の競演である。
 第1楽章は深々としたホルンの響きから始まり、ピアノが分散和音でこれに応える。木管と弦が動機を追いかけ、ピアノとオーケストラが丁々発止と渡り合う。清水和音のピアノは骨太で恰幅があり、低音域は底力を秘め高音域は粒立ちが良い。ホルンの坂東裕香が戻ってきた。体調を崩していたようで大分スリムになったけど、奥行きのある魅力的な音色は変わらない。彼女が加わるとオケのクオリティが一気に上がる。木管の透明感は東響に比べるといまひとつだけど、弦は音の塊となって音圧を増加させる。コンマスは石田泰尚、第2ヴァイオリンのトップには新日フィルのビルマン聡平が参加していた。
 第2楽章は勇壮なスケルツォ、少し暗めの主題がピアノ独奏で始まるが、非常にエネルギッシュな音楽となる。弦楽器による優美なメロディが出てきて、対照的な2つの旋律が対比しつつ進んで行く。清水さんのピアノは情熱的で歯切れの良さもある。オケはかなりの熱量で鳴っているが、ピアノの音は一音たりともオケに埋もれることがない。
 第3楽章はまるでチェロ協奏曲の緩徐楽章のように始まる、ヴィオラと低弦が寄り添いピアノがゆったりと登場してくる。弦と木管、ピアノによる抒情的な中間部を経て、最初の主題が再現され曲が静かに閉じる。チェロの首席には元読響の高木慶太が客演していた。ここでの清水さんのしみじみとした語り口は特筆もので、美しい歌の描き方に感心するばかり。
 第4楽章は軽快なロンド、愉悦と哀愁とが綯交ぜになって進む。終盤はピアノが加速しながら駆け抜けて行く。清水さんの重厚さだけでない明るさや軽やかさのあるフィナーレが心地よい。これほど表情豊かなブラームスはなかなか耳にすることができない。巨匠の芸なるものを聴かせてもらった。

 後半はベートーヴェンの「田園」。沼尻監督のマーラーやR.シュトラウス、ショスタコーヴィチの素晴らしさは言うまでもないが、こういった当たり前の名曲を振っても面白く聴かせてくれる。もともと楽譜をちゃんと見て指揮する人だけど、さすがこれほどポピュラーな曲となると、楽譜を繰るのは形だけ。曲の隅々まで頭に入り身体にしみついているだろうから、とうぜん指揮は音楽と混然一体となり踊っているようになる。その奔放な動きに促されオケの面々が必死の形相で楽器と格闘する。指揮者と奏者とのやり取りを見ているだけで気持ちがいい。監督のテンポは軽やかでオーケストラの響きは力強くかつ柔らかい。どこか懐かしく多幸感に満ちた「田園」だった。

 後半も坂東さんのホルンは出色の出来、来月の「ラインの黄金」が楽しみだ。