2023/3/26 井上道義×音大FO 「シンフォニア・タプカーラ」 ― 2023年03月26日 21:47
第12回 音楽大学フェスティバル・オーケストラ
日時:2023年3月26日(日) 15:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:井上 道義
演目:J.シュトラウス/ワルツ「天体の音楽」作品235
伊福部 昭/シンフォニア・タプカーラ
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
夜になっても興奮醒めやらず。今まで何度聴いたか定かでないが、過去最高の「シンフォニア・タプカーラ」、昨年の井上×N響の遥か上を行く。
弦も管も生々しさが違う、各楽章のテンポ設計が違う、オケ総体の燃焼度が違う。両端楽章の瞬間スピードは極限を記録し加えて緩急の妙、触れれば血が噴き出すほどの熱量。中間楽章の静寂、祈りの音楽には完全に魂を持って行かれた。
オケを聴く醍醐味、まさに血潮がたぎる演奏。これが伊福部音楽の真骨頂、伊福部音楽の真髄。そして、これが井上の伊福部演奏の集大成だろう。曲が終わったときには腰が抜けていた。
開始は「天体の音楽」。序奏のワーグナー風の展開から、突然、優雅なウィンナ・ワルツが聴こえてくる。ロマンチックでメランコリックな調べに陶然とするうちに曲は終わる。奏者の数人が入れ替わり、指揮者も舞台から下がるが、一呼吸おいて「シンフォニア・タプカーラ」の低弦が鳴る、これは反則技だな。
20分間の休憩中も茫然自失、後半の「春の祭典」が始まってしまった。
並みの「ハルサイ」に比べれば弩級に違いない。放心状態のままだったから細部が飛んでいる。ただひたすら音の洪水に身を委ねていたようなものだ。しかし、ここでも楽器の音の生々しさ、俊敏な音の立ち上がりに驚愕することがたびたびだった。
今日は、毎年恒例の首都圏の9つの音楽大学から選抜された学生たちによるお祭りのはずだった。ところが祭りどころではない途轍もないオベリスクが建立された。
先日のWBCにおける若手選手たちの大活躍もそうだけど、若者たちの可能性には果てしがない。指導者による環境づくりがあって、力を試す場さえあれば、どんな未来も切り開いていく。頼もしい限りである。
今回のプログラム、実はコロナ禍で中止となった2020年の再現である。再挑戦を企画したすべての関係者に心から感謝したい。
022/12/4 音大フェスティバル 「火の鳥」「死と変容」「シベ2」 ― 2022年12月04日 21:03
第13回音楽大学オーケストラ・フェスティバル
東京音大・国立音大
日時:2022年12月4日(日) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:東京音楽大学(指揮/広上淳一)
国立音楽大学(指揮/尾高忠明)
演目:ストラヴィンスキー/バレエ組曲「火の鳥」
R.シュトラウス/交響詩「死と変容」(東京)
シベリウス/交響曲第2番(国立)
前半、広上×東京音大が2曲、1919年版の「火の鳥」組曲と交響詩「死と変容」。
広上は、プロが相手のときのように、踊ることも、あっちを向いたり、ジャンプすることもなく、各楽器の出に対しては、もれなくキューを送っていた。ほとんどは左手で、まれにタクトで。顔を向け、身体を向け、目での合図は勿論のこと、いちいち頷いて学生たちの演奏を了解していく。
このように非常に細かく指示し確認していたけど、これによって音楽が停滞するということがない。学生たちもその指揮に懸命に応え、むしろ、溌剌とした生気がだんだん漲ってくる。広上の語り口の上手さはいつものことで、その真摯な指揮姿と相まって、ぐんぐん音楽に引き込まれて行く。
「火の鳥」では、1.序奏、2.火の鳥の踊り、3.火の鳥のヴァリアシオン、4.王女たちのロンド、5.魔王カスチェイの凶悪な踊り、6.子守歌、7.終曲、という場面を、卓抜したリズム感と色彩感によって鮮明に描き分けた。
「死と変容」では、多くの管楽器奏者が加わり入れ替わって、さらに熱量を増した。「死と変容」は、R.シュトラウス25歳のときの作品。「ドン・ファン」と並び、交響詩の時代の初期にあたる。死をテーマにするのはロマン派の専売特許のようなもの。それを3管編成で、ハープ2台とドラが加わる大規模なオーケストラ作品として書いた。
今まで、仰々しい、こけおどし的な音響ばかりの曲と思っていたが、今日は音楽そのものを意味深く聴かせてくれた。最晩年の弦楽合奏による「メタモルフォーゼン」(変容)の滅びの音楽の切実さにはほど遠いが、しかし、R.シュトラウスは、さらにそのあと「4つの最後の歌」の、あの「夕映えの中で」において、若き日の「死と変容」を引用したのだった。
曲を聴きながら、2つの大戦を含んだ19世紀半ばから20世紀半ばにかけて、大方この100年の激動と、そのなかで翻弄された作曲家の軌跡とを思わずにはいられなかった。
広上は、音楽専門の学生とはいえ、学生オケからこれだけの音楽を引きだす。先日の「第九」、数年前の「ツァラトゥストラはかく語りき」も同様。教育者としても一流というべきだろう。広上、恐るべし。そして、今日の東京音大の奮闘を称えたい。
後半は、尾高×国立音大のシベリウス「交響曲第2番」。
意外に思われるけど20世紀になって完成された作品。イタリア旅行でインスピレーションを得たと言われているが、音楽からは北欧の荒涼たる光景を感じてしまう。民謡風のメロディと、曲全体の構成が交響曲の常道である「暗から明」、さらにコーダの大団円もあって人気が高い。
前半と比較するのは分が悪い。熱演で元気がいいのは結構だが、いささか魅力に乏しい演奏だった。技術的にどうこうというよりは、指揮者にその責があるか、はたまた指揮者と聴き手との相性の悪さがこの曲で露呈したかのどちらかだろう。
物足りない、あるいは具合の悪い演奏は、プロでも往々にしてある。半分くらいはその類だ。しかし、以前、おなじ尾高×国立音大で、ブラームス「交響曲第2番」の忘れられない演奏を聴いているだけに、今回はまことに残念。
2022/11/23 音大フェスティバル ブラームスの交響曲第1番と第2番 ― 2022年11月23日 20:46
第13回音楽大学オーケストラ・フェスティバル
昭和音大・洗足音大
日時:2022年11月23日(水) 15:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
出演:昭和音楽大学(指揮/梅田俊明)
洗足学園音楽大学(指揮/秋山和慶)
演目:ブラームス/交響曲第2番(昭和)
ブラームス/交響曲第1番(洗足)
もう11月下旬、首都圏の音楽大学が競演する恒例のオーケストラ・フェスティバルがやって来た。若い演奏家たちの今を知る楽しみな公演である。以前は4日間の連続券を買い求めていたが、ここ数年は指揮者とプログラムによって選択している。
今日は神奈川のふたつの音大が演奏するブラームス。
前半は梅田俊明指揮、昭和音大の「交響曲第2番」。
梅田さんは、学生たちに明確な指示を与え、よく歌わせ、音楽の迫力もある。少し低目の指揮台のうえで、力みの抜けた練達の指揮ぶり。「2番」は明るいばかりでなく陰もあり、躁と鬱、華やかさと寂しさとが混在している。そのコントラストをはっきりと際立たせながら、流れにのせて爽やかに描いていく。その基礎を作っていたのは弦5部で、とくに第一ヴァイオリンが伸びやかないい音を出していた。オケ全体も「2番」に相応しく柔軟でしなやかで気持ちのいい演奏だった。
後半は秋山和慶指揮、洗足学園の「交響曲第1番」。
最初の一撃から秋山さんの気迫が尋常でなく、最後まで途切れることがなかった。80歳を越えてなお音楽への並々ならぬ情熱というべきか、作家ブラームスの交響曲への執念が乗り移ったというべきか。秋山さんにとってオケの連中は孫の世代である。彼らをまとめ鼓舞する姿は感動的ですらある。「1番」が激しくうねるように進む。秋山さんの名人芸ともいうべきタクトの下で、序奏の決然とした歩みも、クララへの呼びかけも、高揚感あふれる劇的なコーダも、孫たちが持てる力のすべてを出し切った。
近ごろ、ブラームスの演奏に納得できないことが度々だった。久しぶりに良きブラームスを聴いた。大満足!
2022/10/13 広上淳一×東京音大 第九 ― 2022年10月14日 11:01
東京音楽大学 創立115周年特別演奏会
オーケストラと合唱 歓喜の歌
日時:2022年10月13日(木) 19:00 開演
会場:サントリーホール
指揮:広上 淳一
演奏:創立記念特別第九オーケストラ
東京音楽大学合唱団
共演:ソプラノ/金澤 実李、アルト/森河 和音、
テノール/大石 優希、バリトン/長谷川 陽向
演目:ベートーヴェン/交響曲 第9番 ニ短調
作品125「合唱付き」
雨のなか、それもかなり降っていた昨日の夕方、サントリーホールへ出かけた。
東京音楽大学の創立115周年記念演奏会である。大小ホールにおいて2日間にわたり9つのプログラムで開催するその一つ、ベートーヴェンの「第九」を聴いた。
指揮は東京音大教授でもある広上淳一。オケは創立記念の特別編成、付属の高校生も数人参加している。制服姿だからすぐ分かる。ソリスト、合唱団も全員音大生。
そうそう、2階の客席には14日にショスタコーヴィチを振る予定の尾高忠明が来ていた。
ホルンの持続音を背景に弦のトレモロではじまる。雨のせいか弦の音に少し潤いが欠けていると感じたが、すぐに気にならなくなった。オケはほぼ14型。
広上はいつものように、背伸びをしたり、半身に構えたり、万歳をしたり。挙動は派手で、蛸踊りと揶揄する人もいるが、その姿に翻弄されてはいけない。
リズムは明確でテンポはほとんど動かさない。細心の注意をはらって各パートの音量をコントロールし、音の配分を調整することで色彩を変化させる。そのうえで強調すべき楽器を点描する。
アダージョなど弦5部がそれぞれの表情を持って驚くほど豊かに聴こえてきた。その響きの上で、木管が思う存分歌う。後半のホルン音階は楽譜の指定通り4番奏者が吹き、ちょっと慎重ながら立派な出来だった。弦・管・打とも、東京音大の実力を示したといってよい。
広上を聴くと、音楽自体の歩みに毅然としたものがあって、テンポの揺らぎによる一時的な熱狂よりは、構造物がだんだんに組みあがっていくのを目にしているような感動がある。それは、曲全体を通してはもちろんのこと、各楽章ごとにも。若者たちを相手にしたこの「第九」は、記念日にふさわしい好演奏だった。
2022/7/26 秋山和慶×洗足学園音大 ラヴェルのバレエ音楽 ― 2022年07月27日 10:43
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団
日時:2022年7月26日(火) 18:30開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:秋山 和慶
共演:バレエ/洗足学園音楽大学バレエコース、
谷桃子バレエ団、東京シティ・バレエ団、
牧阿佐美バレヱ団
演目:ラヴェル/マ・メール・ロワ
ラ・ヴァルス
ボレロ
ダフニスとクロエ 第2組曲
バレエ付のラヴェル音楽。オケはピットに入らず舞台の奥。照明を落とし、譜面灯を使う。オケの前面でバレエが繰り広げられる。
「マ・メール・ロワ」、おとぎ話の世界。おおもとはピアノ連弾で、その後管弦楽組曲が編まれ、さらに後年、依頼されて前奏曲とか複数の間奏曲を付け加えバレエ曲に仕立てられた。
今回の公演はこのときのバレエ編曲ではなくて管弦楽組曲のほう。眠りの森の美女、おやゆび小僧、パゴダの女王、美女と野獣、妖精の園の5曲。
照明は踊り手に当たり、ダンサーも動き回るから視覚的にはそちらに目が行くが、バレエに不案内なこともあって、意識はほとんど耳、音楽のほうに向いていた。
オケはコントラバス4、チェロ6にもかかわらず低域も十分。洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団は、プロのオーケストラをめざす若手プレーヤーが学内外から集まって演奏活動を行っている団体らしいが、5曲それぞれを見事に描き分けてくれた。
「ラ・ヴァルス」は、ワルツというにはちょっと不気味で激しい。ウインナーワルツを称えたものらしいが、優雅にはほど遠い。ワルツらしいのは中間部だけで、終幕にさしかかるにつれリズムもテンポも乱れ、転調を繰り返す。ちょっと精神の安定を欠いているような感じ。
「ボレロ」は久しぶりに聴いた。やはり、これは「春の祭典」と並ぶ衝撃的な曲。繰り返しとクレッシェンドと色彩の変化が、このように身体を興奮させる。オケの各奏者もなかなか達者で感心した。
「ダフニスとクロエ」は、本来の合唱を伴う大規模なバレエ曲ではなくて第2組曲。組曲というよりはオリジナルの3場をほぼ抜粋したもの。夜明け、パントマイム、全員の踊り、という構成。
ここでは衣装からして題名役がはっきり分かる。踊りも少しは筋書き的。クロエを演じた小柄な女性の動きが鮮やかで、はじめてバレエのほうを意識した。
今回、ダンサーのほとんどは洗足学園のバレエコースの生徒、男性ダンサーの一部にプロが参加していた。メンバー表を見ると、クロエを演じたのは2年生ということで二度びっくり。バレエはよく分からないが、どんな職能でも才気というものは自ずから目立つ。
演奏は迫力十分、音がわずかに濁ったのが惜しかった。
指揮の秋山さんはじめ、各バレエ団の振付、指導は年配者だろうけど、演奏や踊りを担ったのは若い人たち。エネルギーに溢れ、いかにも夏祭りの一夜だった。