2024/9/6 二期会 「コジ・ファン・トゥッテ」2024年09月07日 10:48



東京二期会オペラ劇場 「コジ・ファン・トゥッテ」

日時:2024年9月6日(金) 14:00 開演
会場:新国立劇場 オペラパレス
指揮:クリスティアン・アルミンク
演出:ロラン・ペリー
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
出演:フィオルディリージ/吉田 珠代
   ドラベッラ/小泉 詠子 
   グリエルモ/小林 啓倫
   フェランド/金山 京介
   デスピーナ/七澤 結
   ドン・アルフォンソ/黒田 博
   合唱/二期会合唱団、新国立劇場脱硝団
      藤原歌劇団合唱部
演目:モーツァルト/コジ・ファン・トゥッテ 全2幕


 藤原歌劇団の「コジ・ファン・トゥッテ」を日生劇場で観たのは一昨年のこと。岩田達宗演出、川瀬賢太郎指揮の新日フィルだった。
 今回はシャンゼリゼ劇場との共同制作でロラン・ペリーが演出・衣装を担当し、アルミンクが同じ新日フィルを指揮した二期会の公演。
 アルミンクは、かって10年間ほど新日フィルの音楽監督を務めていた。この間、いろいろな噂話はあったもののお互い相性はよかったと思う。その両者が再びまみえ、二期会とでつくりあげるモーツァルトである。

 幕が上がると、何処かの放送局の録音スタジオのような舞台である。何本もマイクが立っており、譜面台には台本か譜面が置いてある。奥にはミキサー室らしきものが設えてある。ミキエレットのキャンプ場と同じでロラン・ペリーの読み替え上演である。
 この舞台装置にどんな意味があるのか良くわからない。最初、出演者たちはマイクの前に立ち、台本あるいは譜面を広げていたから、ここで「コジ・ファン・トゥッテ」を収録しているという設定なのか。それが徐々にマイクは舞台裏にひっこめられ、台本・譜面はなくなり、いつのまにかミキサー室らしきものも暗闇となってしまったから、だんだんと「コジ・ファン・トゥッテ」本来の舞台があらわれてくる、ということなのかも知れない。
 もっとも衣装は簡素な現代風のままだし、ナポリの海も空も雰囲気もない。ただ、男たちが変装するアルバニア人は顔を白塗りしただけの、黒の服装も仰々しくなくて好感を持てたけど。とにかく、セットはシンプルで大袈裟に自己主張することなく、結果、音楽や劇をやたら邪魔することがないのは救いであった。

 二期会の歌手たちはさすが粒揃いで、ソロも申し分ないが、アンサンブルがとても洗練されていて、重唱の多いこのオペラの美点をあらためて浮き彫りにしてくれた。余談ながら字幕をあらためて追いかけていると、ダ・ポンテとモーツァルトのつくった台詞にいちいち頷いてしまう。「コジ・ファン・トゥッテ」は前二作と違って種本はなく全くのオリジナルだったはず。そして、その言葉にぴったりと寄り添い、ありとあらゆる感情を音楽にしたモーツァルトの天才に茫然とする。

 今回の公演における最大の収穫は管弦楽だろう。アルミンクと新日フィルのコンビは能う限りの柔らかな美しい音楽を奏でた。「コジ・ファン・トゥッテ」は筋書きが荒唐無稽ゆえに、音楽も歯切れはいいがひたすら駆け抜けてしまうことがあるけど、アルミンクはこの騙し合いの物語を、途中途中に絶妙の休符を挟みながら穏やかなテンポで優しく繊細に描いた。
 だから、弦・管・打楽器のひとつひとつの音がまるで重い意味を持っているかのように聴こえてくる。この不謹慎な物語のなかに真実を浮かび上がらせ、不実の告白の中に本当の心情が顕わになる。心の奥底まで音楽が沁みわたり情動が蠢く。この愛おしむような管弦楽の響きに何度となく泣き崩れそうになった。

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