ゴジラ‐1.02023年12月07日 16:09



『ゴジラ‐1.0』
製作:2023年 日本(東宝)
監督:山崎 貴
脚本:山崎 貴
音楽:佐藤 直紀、伊福部 昭
出演:神木 隆之介、浜辺 美波、
   吉岡 秀隆、安藤 サクラ


 ゴジラ映画の最新作が11月3日の「ゴジラの日」(昭和29年にゴジラ第一作が封切られた記念日)に公開されて5週目に突入している。人気はまだまだ落ちない。
 週末ランキングをみると、公開から3週目までは観客動員数第1位を確保し、4週目は第2位に後退したものの,5週目もそのまま第2位を維持している。累計動員数は延べ250万人を数え、興行成績も38億円を越えた。
 12月1日からは全米でも公開され、1~3日の全米週末ランキングは初登場ながら第3位を獲得、興行収入は1100万ドル(16億円)を記録し、北米公開された2023年の外国映画興行成績のベストワンとなっている。
 全米での評判を三大映画評価サイトでみると「Rotten Tomatoes」が97/100、「Metacritic」が79/100、「IMDb」が8.5/10とすこぶる高評価である。全世界に向けてこれから順次上映されるから、興行収入が100億円を越える大ヒットとなるかもしれない。

 さて、その『ゴジラ−1.0』、見事な完成度だ。第一作は別格としても、『シン・ゴジラ』と並ぶ歴代のゴジラ映画の最高傑作だろう。
 『シン・ゴジラ』が現代の日本の統治機構のグダグダと、その混乱のなか未曽有の厄災というべきゴジラに立ちむかう群像を描いて感銘を与えたのに対し、『ゴジラ−1.0』は歴史背景を第一作より前に設定するという破天荒な発想のもと、戦争で心に傷を負った主人公・敷島浩一(神木隆之介)の再生の物語としても共感を呼ぶ。
 脚本・監督の山崎貴は「ALWAYS 三丁目の夕日」(05年)、「永遠の0」(13年)、「海賊とよばれた男」(16年)、「アルキメデスの大戦」(19年)といった戦中戦後の時代にこだわった作品群を経て、一旦の集大成をここで問うたといってもいい。
 戦後の米軍占領下、安保条約はなく自衛隊も発足していないなか、戦争の災禍をなんとか生き残った人々を容赦なく蹂躙するゴジラが出現する。その国防の最大の危機に旧海軍の生き残りたちを中心とした民間人がゴジラ殲滅に立ち上がる。
 山崎貴が軍事オタクかどうかはさておき、旧海軍の重巡洋艦「高雄」とゴジラを交戦させ、旧海軍試作の局地戦闘機「震電」が大活躍するさまは胸が熱くなる。ゴジラの造形、軍艦の壊滅、海の描写、砲弾・銃撃の軌跡など、VFX(CG)を駆使した驚異の映像は、マニアックを通り越してリアリティさえ感じさせる。

 最新作は、第一作の原水爆実験の帰結としての、核の象徴であるゴジラを踏まえ、対峙する人間の勇気や絶望、愛や葛藤を描いて極めて分かりやすい。ゴジラシリーズは途中、お子様向けの安易な製作でお茶を濁していた時期があったが、完全に立ち直った。ついに老若男女、日本人から外国人まで、万人に通用するドラマをつくりあげた。
 山崎貴は、東宝の若手社員たちとディスカッションを重ねながら、脚本を30回以上書き直したという。若者たちのゴジラに対する熱い想いが今後につながっていく。頼もしいかぎりだ。
 音楽は、古くから山崎貴とコンビを組んでいる佐藤直紀。佐藤は伊福部昭から直接指導を受けてはいないかもしれないが、東京音大出身だからこれも何かの縁、学長であった伊福部のテーマ曲を最高の場面で用いてゴジラをゴジラたらしめる。
 伊福部のテーマ曲は劇伴音楽として史上最強といえる。ゴジラが破壊する銀座においては恐怖そのものとして響き、ゴジラ殲滅の海上では闘う人々の応援歌として耳に届く。身震いするような超弩級の音楽である。
 この先、監督・山崎貴で続編がつくられるだろう。こんどゴジラを迎え撃つのは自衛隊になるのか。佐藤直紀は分かっているはずだ、「吉志舞」を編曲したあの伊福部のマーチが高らかに流れることを。

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