新日フィルの来期プログラム2024年09月01日 09:12



 新日本フィルハーモニー交響楽団の来期2025/26シーズンのラインナップが発表された。佐渡裕監督の3シーズン目、「Wien Line」のテーマを踏襲する。HPに添付されたpdfをみると、調整中の文字も幾つかあり速報版という位置づけだろう。

https://www.njp.or.jp/news/9191/

 すみだトリフォニーホールとサントリーホールの「定期演奏会」は、いつものように同一の演目。2025年4月の開幕は佐渡裕によるバーンスタインをメインにしたプログラム。佐渡は2026年に入るとバルトークの「オケコン」やマーラーの「交響曲第6番」などを振る。来シーズンはシャルル・デュトワが登壇せず、ハインツ・ホリガー、アンドレイ・ボレイコ、トーマス・ダウスゴーなどが客演する。

 「すみだクラシックへの扉」は“音楽で世界の旅!”と銘打って、金曜と土曜の両日、同じ演目にて開催、年間8つのラインナップで構成する。世界各国の名曲を並べ、反田恭平、小林愛実、HIMARIなど集客に貢献しそうなソリストがモーツァルト、ショパン、プロコフィエフなどの協奏曲を披露する。指揮者としては再登場するスピノジを筆頭に、ディエゴ・マテウスや熊倉優など若手が腕を振るう。

フォールガイ2024年09月04日 15:26



『フォールガイ』
原題:The Fall Guy
製作:2024年 アメリカ
監督:デビッド・リーチ
脚本:ドリュー・ピアース
音楽:ドミニク・ルイス
出演:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、
   アーロン・テイラー=ジョンソン


 スタントマン出身の監督デビッド・リーチによるスタントマンを主人公とする作品。ハチャメチャに楽しい。1980年代の米人気テレビシリーズのリメイクというが、日本で公開したのかどうか、オリジナルは記憶にない。

 怪我で引退していたスタントマンのコルト(ライアン・ゴズリング)は、気が乗らないままハリウッドに舞い戻る。ところが、復帰作の監督は元彼女のジョディ(エミリー・ブラント)だった。再会を機にコルトはジョディと縒りを戻そうと必死のスタントを請け負う。そんななか、復帰作の主演であるトム(アーロン・テイラー=ジョンソン)が失踪してしまう。コルトは昔からトム専属のスタントマンで、その因縁のトムの行方を追うが、思いもかけぬ騒動に巻き込まれて行く…

 アクション映画に欠かせないヒーローといえばスタントマンだろう。そのスタントマンをはじめとする映画の裏方をリスペクトした熱い作品だ。台詞も洒落ている。『ノッティングヒルの恋人』や『プリティ・ウーマン』『ダンボ』など他の映画の話題もあって微笑ましい。終始小気味よい会話が飛び交う。劇中の音楽にはテイラー・スウィフトやフィル・コリンズ、キッスらの曲が使われ、その音楽がポップ調の切れ味鋭い映像を大いに盛り上げる。

 ライアン・ゴズリングは『きみに読む物語』『ラ・ラ・ランド』『ブレードランナー 2049』『ファースト・マン』など、どんな役柄でもこなすけど、アクションスターとしても一級である。エミリー・ブラントも『プラダを着た悪魔』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』『ボーダーライン』など、幅広い女優だが時に知性が勝って素が見えてしまうところが魅力かも知れない。アーロン・テイラー=ジョンソンは、次のジェームス・ボンド役との噂があり、『GODZILLA』や『テネット』『ブレット・トレイン』にも出演していたようだがあまり覚えていない。今後はマークしなければならない。
 
 同じスタントマンを主人公にした映画といえば、タランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』があった。タランティーノの“懐かしき時代”への徹底的なこだわりと、その画像をバックにした、滅びゆく美しさ、郷愁と怒り、といった複雑な感情を呼び起こす作品と比べると、『フォールガイ』はポップコーン・ムービーといってよい。しかし、『フォールガイ』も映画としての仕掛けがてんこ盛りで、遊び心満載のアクション映画好きには堪らない逸品だった。

2024/9/6 二期会 「コジ・ファン・トゥッテ」2024年09月07日 10:48



東京二期会オペラ劇場 「コジ・ファン・トゥッテ」

日時:2024年9月6日(金) 14:00 開演
会場:新国立劇場 オペラパレス
指揮:クリスティアン・アルミンク
演出:ロラン・ペリー
管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団
出演:フィオルディリージ/吉田 珠代
   ドラベッラ/小泉 詠子 
   グリエルモ/小林 啓倫
   フェランド/金山 京介
   デスピーナ/七澤 結
   ドン・アルフォンソ/黒田 博
   合唱/二期会合唱団、新国立劇場脱硝団
      藤原歌劇団合唱部
演目:モーツァルト/コジ・ファン・トゥッテ 全2幕


 藤原歌劇団の「コジ・ファン・トゥッテ」を日生劇場で観たのは一昨年のこと。岩田達宗演出、川瀬賢太郎指揮の新日フィルだった。
 今回はシャンゼリゼ劇場との共同制作でロラン・ペリーが演出・衣装を担当し、アルミンクが同じ新日フィルを指揮した二期会の公演。
 アルミンクは、かって10年間ほど新日フィルの音楽監督を務めていた。この間、いろいろな噂話はあったもののお互い相性はよかったと思う。その両者が再びまみえ、二期会とでつくりあげるモーツァルトである。

 幕が上がると、何処かの放送局の録音スタジオのような舞台である。何本もマイクが立っており、譜面台には台本か譜面が置いてある。奥にはミキサー室らしきものが設えてある。ミキエレットのキャンプ場と同じでロラン・ペリーの読み替え上演である。
 この舞台装置にどんな意味があるのか良くわからない。最初、出演者たちはマイクの前に立ち、台本あるいは譜面を広げていたから、ここで「コジ・ファン・トゥッテ」を収録しているという設定なのか。それが徐々にマイクは舞台裏にひっこめられ、台本・譜面はなくなり、いつのまにかミキサー室らしきものも暗闇となってしまったから、だんだんと「コジ・ファン・トゥッテ」本来の舞台があらわれてくる、ということなのかも知れない。
 もっとも衣装は簡素な現代風のままだし、ナポリの海も空も雰囲気もない。ただ、男たちが変装するアルバニア人は顔を白塗りしただけの、黒の服装も仰々しくなくて好感を持てたけど。とにかく、セットはシンプルで大袈裟に自己主張することなく、結果、音楽や劇をやたら邪魔することがないのは救いであった。

 二期会の歌手たちはさすが粒揃いで、ソロも申し分ないが、アンサンブルがとても洗練されていて、重唱の多いこのオペラの美点をあらためて浮き彫りにしてくれた。余談ながら字幕をあらためて追いかけていると、ダ・ポンテとモーツァルトのつくった台詞にいちいち頷いてしまう。「コジ・ファン・トゥッテ」は前二作と違って種本はなく全くのオリジナルだったはず。そして、その言葉にぴったりと寄り添い、ありとあらゆる感情を音楽にしたモーツァルトの天才に茫然とする。

 今回の公演における最大の収穫は管弦楽だろう。アルミンクと新日フィルのコンビは能う限りの柔らかな美しい音楽を奏でた。「コジ・ファン・トゥッテ」は筋書きが荒唐無稽ゆえに、音楽も歯切れはいいがひたすら駆け抜けてしまうことがあるけど、アルミンクはこの騙し合いの物語を、途中途中に絶妙の休符を挟みながら穏やかなテンポで優しく繊細に描いた。
 だから、弦・管・打楽器のひとつひとつの音がまるで重い意味を持っているかのように聴こえてくる。この不謹慎な物語のなかに真実を浮かび上がらせ、不実の告白の中に本当の心情が顕わになる。心の奥底まで音楽が沁みわたり情動が蠢く。この愛おしむような管弦楽の響きに何度となく泣き崩れそうになった。

神奈川フィルの来期プログラム2024年09月12日 13:28



 昨日、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の来期(2025/4~2026/3)コンサートスケジュールについて記者会見があった。例年より1カ月くらい早い発表である。

https://www.kanaphil.or.jp/news/783/

 神奈川県民ホールが休館となるため全3回の「ミューザ川崎シリーズ」を新設し、全9回の「みなとみらいシリーズ定期演奏会」と、全4回の「音楽堂シリーズ」の計3シリーズが公演の柱となる。
 音楽監督就任4年目となる沼尻竜典は任期を28年末まで3年延長する。メインの「みなとみらいシリーズ定期演奏会」においては、シーズンの幕開けとなる2025年4月にショスタコーヴィチの「チェロ協奏曲」と「交響曲第12番」を、10月にブルックナーの「交響曲第8番」を、2026年2月にレスピーギの「ローマ三部作」を披露する。
 客演陣では昨年初共演して好評だったゲオルク・フリッチュが再びブラームスを、シュテファン・ヴラダーがモーツァルトを、クレメンス・シュルトがリストなどを振る。邦人では常連の大植英次と新参の松本宗利音、それに特別客演指揮者の小泉和裕が登場する。

 今年度「みなとみらいシリーズ定期演奏会」については、定期演奏会のなかから幾つかを選択するセレクト会員に変更した。来期はプログラムが魅力的でシリーズ会員に復帰しようかと考えている。問題はまだ来期スケジュールの発表がない東京交響楽団との重複だが、何公演か振り替え対応すれば日程調整はできるだろう。

2024/9/13 志野文音 「アルハンブラの想い出」2024年09月14日 09:09



お仕事終わりに ワンコインコンサートVol,2
  志野文音のクラシックギター リサイタル

日時:2024年9月13日(金) 19:00 開演
会場:かなっくホール
出演:ギター/志野 文音
演目:A.ルビーラ/禁じられた遊び
   F.タレガ/アラビア風奇想曲
   横尾幸弘/さくらの主題による変奏曲
   A.C.ジョビン/Felicidade
   志野文音/碧い月
   F.タレガ/アルハンブラの想い出
   C.コリア/SPAIN
   A.ピアソラ/リベルタンゴ
   

 学生のとき下宿住まいをしたことがある。いや下宿というのは正確ではない、学生用のアパートである。2階建ての安普請で10部屋くらいあっただろうか。その2階にクラシックギターのすごく上手い奴がいた。しょっちゅうギターを爪弾いていたから、ときどきその部屋に出向いて聴かせてもらった。ソルとかカルリ、カルカッシといった作曲家の名前を覚えたのも彼のおかげだった。「禁じられた遊び」はもちろん知っていたが、「アルハンブラの想い出」はそのときが初めて。たちまち魅了された。一本の弦をトレモロで弾く奏法がカッコよくて痺れた。
 身体を壊したためアパート暮らしを半年ほどで切りあげ実家に戻った。彼とはそれっきりになってしまった。学部も履修科目も違っていたから再び顔を合わせることはなかった。しかし「アルハンブラの想い出」の憧れだけは残った。何とか自分で弾こうとギターを買った。我流で挑戦してみたが、譜面をまともに読めない、指も不器用で思うように動かないとなれば、挫折するまでそんなに時間はかからない。新品のギターが勿体なかった。あとはコードをまさぐってフォークソングの真似事をしていたものの、それもいつしか飽きて、ギターは埃にまみれるばかりだった。
 就職して何年かのち転勤を命じられ一人暮らしをはじめると、どうしてか「アルハンブラの想い出」が懐かしく、頻りにまた弾きたいと思うようになった。本格的にギターを習おうという邪悪な考えが頭をもたげ、個人レッスンなどという暴挙に及ぶこととなる。今となってみるとトチ狂っていたとしか思えないのだけど、建孝三という当時はそれなりに名の知れたギタリストのところまで通った。
 ソルやカルカッシなどの練習曲を繰返し勉強した。だけど、いよいよ思い知ったのは自分には露ほども音楽の才能が備わっていないということだった。1年たっても「アルハンブラの想い出」の数小節も弾けない。で、結局は諦めるより仕方ない。音楽は聴くことに専念しようと。こそばゆいようなほろ苦いような記憶である。

 ギター演奏会に出向くのは、束の間の先生だった建孝三のリサイタル以来だから何十年ぶりかである。チラシの演目で「アルハンブラの想い出」をみた。「リベルタンゴ」や「スペイン」も。交通の便がよいホールで、ワンコインで、仕事帰りあるいは夕食後の1時間、女性ギタリストが弾くという。このホール、普段なら中段より後ろに座るのだが、今回はかぶりつきとはいわないまでも舞台前方から数列目に陣取って楽しむことにした。

 上が白、下が黒の、シンプルでゆったりした装いの志野文音が登場した。綺麗なお嬢さん。しばし黙考し即興風にギターをかき鳴らす、そのうちあの「禁じられた遊び」のメロディを普通に弾いたあと、幾つかのバリエーションを施した。お馴染みの「禁じられた遊び」がとても新鮮に聴こえた。
 1曲終えるごとに楽曲の解説やギターの奏法などのお喋りを挟んで進行する。「アラビア風奇想曲」はむかし聴いた覚えがある。「さくらの主題による変奏曲」は琴の音色がする。「フェリシダージ」はブラジルのアントニオ・カルロス・ジョビンが遺したボサノヴァの名曲、リズムが心地よい。
 奏者自らが書いた「碧い月」を経て、「アルハンブラの想い出」。音楽は一瞬にして時を超える。学生アパートの窓枠に腰をかけ手摺に身を寄せ弾いていた彼の姿が見えたような気がした。
 ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」のアダージョを引用して始まる「スペイン」。オスティナートが印象的。もともとフュージョン・バンドのため書かれたものらしいが、いろいろな楽器にアレンジされる。ギター独奏となるとコードとメロディー、リズムを忙しく刻み観ているだけでも壮観。
 最後は「リベルタンゴ」。言わずと知れたピアソラの代表作。これもギター、ヴァイオリン、チェロ、ピアノソロからサクソフォーン、フルート、弦楽などの四重奏、タンゴ楽団、通常のオーケストラまで様々な楽器でもって演奏される。ギター一本でも音楽の迫力は半端ない。大いに盛り上がって予定の演目を終了、アンコールは一転し哀愁の「ニュー・シネマ・パラダイス」を弾いてくれた。