都響の来期プログラム ― 2023年10月11日 16:04
都響の2024年4月~2025年3月のラインナップが発表された。
東京文化会館のAシリーズとサントリーホールのBシリーズが各8公演、東京芸術劇場のCシリーズが6公演である。他にプロムナードコンサート5公演と特別演奏会などが企画されている。
https://www.tmso.or.jp/j/news/26041/
来期はブルックナーの生誕200年記念、交響曲の「第3番」「第4番」「第7番」「第9番」を大野和士、フルシャ、インバルが振る。ショスタコーヴィチも交響曲「第6番」「第8番」「第13番」を井上道義、大野和士、インバルが演奏する。都響初登場ではダニエル・ハーディングがマーラーの「交響曲第1番」を指揮するのが注目。
各シリーズのなかではサントリー公演が指揮者、プログラム、会場とも魅力的で、定期会員へ復帰しようかと考慮中。夜間の公演は辛いし、演奏会通いが増えるのは悩ましいが、希望の座席が確保できれば、という条件付きにしておこう。
2023/2/19 トルトゥリエ×都響 「スペイン交響曲」と「幻想交響曲」 ― 2023年02月19日 19:19
東京都交響楽団 第968回定期演奏会Cシリーズ
日時:2023年2月19日(日) 14:00開演
会場:東京芸術劇場コンサートホール
指揮:ヤン・パスカル・トルトゥリエ
共演:ヴァイオリン/ベンジャミン・ベイルマン
演目:ラロ/ヴァイオリン協奏曲第2番 ニ短調
op.21 「スペイン交響曲」
ベルリオーズ/幻想交響曲 op.14
休日の昼下り、ポピュラ―な曲、というわけか、3階に少し空席があったけど、ほぼ満杯。
指揮者のヤン・パスカル・トルトゥリエは、往年の名チェリスト、ポール・トルトゥリエの長男で、もう70歳も半ば。
ソロはアメリカの若手ヴァイオリニスト、ベンジャミン・ベイルマン。使用楽器は日本音楽財団から貸与された1740年製のグァルネリ・デル・ジェス「イザイ」。名前の通り、過去、ウジェーヌ・イザイが所有し、その後アイザック・スターンが愛用していたという名器。
ベイルマンのヴァイオリンは、艶のある音でよく歌っていた。「スペイン交響曲」3楽章の物憂げな間奏曲や、4楽章の哀愁をおびた甘美な緩徐楽章をじっくりと聴かせてくれた。ただ、ところどころオケが鳴りすぎて邪魔をしていたのが勿体ない。。
アイザック・スターンの生は聴く機会をもたなかったが、彼が使用した楽器の音は確認できたことになる。
なお、以下の日本音楽財団のHPからは、楽器貸与の実際を知ることができる。
https://www.nmf.or.jp/
トルトゥリエは、大柄な体躯を上下色違いのスーツで身を包み舞台にあがった。下は黒、上着はダークグレイとなかなかシックな装い。音楽は豪快で金管を盛大に鳴らす。タクトは持たず腕の振りが大きく精力的な指揮ぶり。
休憩後の「幻想交響曲」。服装は粋だけど、音楽が粋とは限らない。テンポ設定や、休止の処理、楽想が転じるときの間合い、音量の推移などに違和感があった。迫力満点で豪壮ではあったが。
この曲、夢中にさせてくれると、あっという間に終わってしまう。今日は演奏時間が長く感じた。オケの管楽器ソロや弦の合奏なども美しい瞬間があまりなかった。
フルネが懐かしく思い出される。日曜日の残念な午後だった。
都響の来期プログラム ― 2022年10月08日 13:54
昨日、東京都交響楽団の2023年度(2023/4~2024/3)のプログラムが発表になった。
https://www.tmso.or.jp/j/news/20105/
東京文化会館、サントリーホール、東京芸術劇場のA、B、Cシリーズ各8公演のほか、サントリーのプロムナードコンサート5公演と、特別演奏会他の7公演である。
音楽監督・大野和士はマーラーの「7番」、ターネジの「タイム・フライズ」、シューマンの「4番」などを、桂冠指揮者のエリアフ・インバルはショスタコーヴィッチの「9番」、マーラーの「10番」(補筆版)を振る。88歳のインバルは、この先、都響と3度目のマーラー全曲演奏に取り組むようだ。首席客演指揮者のアラン・ギルバートは「アルプス交響曲」や「第九」、終身名誉指揮者の小泉和裕はブルックナーの「2番」、プロコフィエフの「5番」などを指揮する。
客演指揮者としては、山田和樹、尾高忠明、ヴァンスカ、ミンコフスキ、ゲッツェル、レネス、アクセルロッド、ヴィト、ジョン・アダムスなど。このなかではヴァンスカのシベリウス「5~7番」、ミンコフスキのブルックナー「5番」に注目。ジョン・アダムスの自作自演は話題になるだろう。
2022/8/2 アラン・ギルバート×都響 「古典交響曲」「アルルの女」そして「交響的舞曲」 ― 2022年08月03日 11:10
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2022
東京都交響楽団
日時:2022年8月2日(火) 19:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:アラン・ギルバート
演目:プロコフィエフ/交響曲第1番「古典交響曲」
ビゼー/アルルの女 から
パストラール(第2組曲)
メヌエット(第1組曲)
カリヨン(第1組曲)
アダージェット(第1組曲)
ファランドール(第2組曲)
ラフマニノフ/交響的舞曲
アラン・タケシ・ギルバートは、過去2度聴いている。ブルックナーの「4番」とマーラーの「6番」。マーラーには感心したが、ブルックナーには落胆した。まだ、ちょっと評価が定まらない。
タケシは、ケント・ナガノ、準・メルクルとともに日系指揮者の三羽烏だろう。ほかにはキンボー・イシイ? ユージン・ツィガーンもハーフだ。ハーフというなら井上道義も。でも、井上は国籍が日本だから日系とは言わないか…
駄弁はさておいて、タケシ×都響の夏祭り。「ゴージャス!腕利き集団が奏でる名曲集」という宣伝文句がうたわれている、なるほど。
1曲目は若き日のプロコフィエフの佳品「古典交響曲」。
「古典」と銘打ったのは、一種のパロディか。ハイドン的形式を借りたモダンな曲。アレグロ、ラルゴ、ガボット、フィナーレの4楽章。
12-10-8-6-4でコンマスは矢部達哉、隣に山本友重のツートップ。Vn.2遠藤香奈子、Va鈴木学。Vcは入団したばかりの伊東裕、伊東は葵トリオの一員。最近、ソリストや室内楽のメンバーがオケに加わることが多いが、本人にとってもオケにとってもプラスなのだろう。
タケシの音楽はキビキビしていて、こういった複雑な小品を楽しく聴かせる。プレトークで「古典交響曲」は演奏が難しいと言っていた。たしかに最終楽章の木管たちは難易度が高そう。とくにフルートのパッセージが驚異的に目立つ。フルートはN響の神田寛明だったけど。
2曲目は「アルルの女」から。
ビゼーは劇の付随音楽27曲のうちから4曲を選び、第1組曲を作った。のちにビゼーの親友の作曲家エルネスト・ギローがさらに4曲を編んで第2組曲とした。今回は、その2つの組曲のなかから5曲を抜粋して演奏された。有名なフルートソロがある第2組曲のメヌエットが選択されなかったのは残念。
タケシ×都響は音がよく鳴る。弦は14型に増量。しっとりとした静寂の「アダージェット」から、たたみかけるような熱狂の「ファランドール」が圧巻、プロヴァンス太鼓も珍しい。「パストラール」の中間部におけるサクソフォンの音色と、オーボエの甲高い突き抜けるような音も印象的。サクソフォンは住谷美帆が客演、オーボエは鷹栖美恵子だったか。
3曲目はラフマニノフの最後の作品である「交響的舞曲」。
舞曲的交響曲といったほうが適切なくらい堂々とした造り。「交響曲第2番」や「ピアノ協奏曲第2番」のような粘っこい甘さがなく、心地よいリズムと抒情とが上手く配合された魅力的な曲。3楽章構成で、当初各楽章には「真昼」「黄昏」「夜中」の副題がついていたらしい。そう思って聴くと、たしかにそういう気分がある。
弦はさらに増量して16型。ここでのタケシは、ピリピリとした神経質な音ではなく、どちらかというと音圧の高い分厚い響きを要求しているよう。おおらかと言おうか、スピード感はあまり感じられない。第1楽章などノン・アレグロの指定だから急ぐ必要はないが。住谷さんのサクソフォンは濃厚で、背がゾクゾクとした。第2楽章は不気味なワルツ、この部分に差し掛かるとどうしても「幻想交響曲」や「仮面舞踏会」がチラチラする。矢部さんの画面転換を促すソロも見事。最終楽章は大迫力でありながら、こちらの趣味としては、もう少し快速のほうが好みであった。
酷暑のせいか客の入りは6割くらい。夏祭りにふさわしいプログラムではあっても、これで熱波が吹き飛ぶわけはない。会場を出てもどんよりとした暑気が残っていた。そろそろ一雨ほしい。
2022/6/26 マケラ×都響 レニングラード ― 2022年06月26日 21:48
東京都交響楽団
プロムナードコンサート No.397
日時:2022年6月26日(土) 14:00 開演
会場:サントリーホール
指揮:クラウス・マケラ
演目:サウリ・ジノヴィエフ/バッテリア
ショスタコーヴィチ/交響曲第7番 ハ長調 op.60
「レニングラード」
遂にクラウス・マケラを聴く。
26歳、初来日は2018年、4年ぶりということだから、そのときは22歳ということか。日本デビューは聴き逃した。その後は、ウーハンコロナの所為ですべてキャンセル。待望の再来日である。
チケット発売の初日、Web上の座席が次々と無くなって行くのを見ながら恐怖を感じたが、なんとかチケットを入手した。
クラウス・マケラ、もともとはフィンランド出身のチェリスト。都響を振ったあと、2020年にはオスロ・フィル首席指揮者、2021年からはパリ管弦楽団の音楽監督を務め、この秋にはパリ管を率いての日本ツアーが予定されている。そして、驚くなかれ2027年よりロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団の次期首席指揮者への就任が決定した。
都響の楽団員のTwitterが面白い。
コンマスの矢部達哉は、「幼い頃、小澤征爾とリッカルド・ムーティにサインをもらって以来の指揮者のサイン」と呟いて、お茶目にもマケラのサイン画像をあげている。前回のときには、「リハはまだシベリウスしかやっていないし、あまり大袈裟な事は言えないけれど…このクラウス・マケラ氏、圧倒的な力量と音楽性が備わっている。音楽家に年齢は関係ないけど、22歳の指揮者としての、この完成度の高さ…あり得ない」と驚いている。
ヴァイオリン副首席の渡邉ゆづきは、「マエストロとの熱いリハ、想像を遥かに超えた神秘的な感性に間近で触れ、リハ中何度も感動して鳥肌が止まりませんでした。凄すぎて今も瞳孔開いてます」と忘我の態。
ヴィオラ副首席の石田紗樹は、「朝10:30、リハ最初の1音目から、彼の音…音楽に惹き込まれ、その後もその物凄いエネルギーと表現力に魅せられ、操られ、あっという間の初日でした。全ての動きがもう音楽そのもの。本当に自然で、表情豊かな中に、計り知れない原動力を生み出すMo.マケラ ちょっともう言葉にできないです…」と感嘆。
チェロ副首席の長谷部一郎は、「ショスタコーヴィチ7番のリハーサルが始まった。1曲目、ジノヴィエフの「バッテリア」を含め、大編成、大音量のプログラム。クラウス・マケラさん、表情も豊かで柔らかく、スムースな流れだった。前回の来日時は、確か眼鏡をかけていた、と思う」と冷静に一言。
さて、そのマケラ、長身で細い脚。各奏者へのコンタクトは的確で、ソロのときなどは振りすぎないという練達ぶり。まさしく楽団員のコメント通り、図抜けた統率力をみせつけ表現力も幅広い
たとえば、第1楽章、平和な生活のなかに突然戦争が侵入してくる。小太鼓にのった「侵攻のテーマ」はCMでも使われたように、いつもならどこか滑稽でふざけているように感じるのだが、今日は恐怖のみが迫りくる、その狂暴さの描き方に圧倒される。第3楽章での祈りの深さと切実さには自然とこうべが垂れる。弦5部それぞれが雄弁に語り、管が空気を切り裂き不安と恐怖を漂わせる、打楽器は銃弾や砲撃が降り注ぐごとく叩かれる。都響はほとんど完璧、息切れも見せず献身的な演奏を最後まで続けた。
「レニングラード」について長谷部一郎は、同じTwitterで「確か一度弾いているはずなのに、最近弾いた5番や10番より、ショスタコーヴィチの7番は印象が少なく、体になかなか入ってこない。どうしてだろう」と呟いている。そう「7番」は、後年いろいろ詮索されているものの、ショスタコーヴィチのなかでは暗喩や比喩、皮肉がたっぷりとこめられている曲ではないだろう。
「7番」は、ナチのソ連侵攻後、1941年7月に着手され、レニングラード封鎖のもと、爆弾、砲弾の音を聞きながら3楽章までが書かれた。全曲は強制された疎開先で完成しているが、破局のなかで「敵軍に包囲された故国のイメージを生み出し、音楽に刻み込みたいと思った」というショスタコーヴィチの言葉に嘘はなく、そのまま受け取っていいはずだ。他の交響曲に比べ韜晦とか諧謔とか多義性とかが些か欠けている分、曲の印象は薄くなりがちだ。
それが、今日の「レニングラード」は、ずば抜けた才能を持つ若者が、素直に楽譜を読み込み、都響と一緒に作り上げた、強烈でかつ不思議な静謐さをたたえた印象深い音楽となっていた。
「交響曲第7番 レニングラード」はショスタコーヴィチの疎開先であるクイビシェフで、1942年3月、サモスード指揮ボリショイ劇場管弦楽団によって初演され、その後、モスクワやノヴォシビリスクに疎開していたムラヴィンスキーとレニングラード・フィルによっても演奏されている。しかし究極は、プログラムノートに触れられていないが、1942年8月、封鎖されて345日目のレニングラードにおいて、エリアスベルク指揮レニングラード・ラジオ・シンフォニーによって演奏されたものだろう。その苦闘、いや死闘については、ひのまどか『戦火のシンフォニー』(2014年 新潮社)に詳しい。
ナチのレニングラード包囲は1944年1月に解けた。封鎖は2年半900日に及び、これにより100万を超える人が命を落としたといわれている。