2023/3/25 金川真弓+リオ・クオクマン×東響 コルンゴルト「ヴァイオリン協奏曲」2023年03月25日 20:36



東京交響楽団 名曲全集第185回

日時:2023年3月25日(土) 14:00開演
場所:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:リオ・クオクマン
共演:ヴァイオリン/金川 真弓
演目:コルンゴルト/ヴァイオリン協奏曲
                ニ長調 op.35
   R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」組曲 op.59
   ラヴェル/ラ・ヴァルス


 金川真弓とリオ・クオクマンとの協演。
 金川真弓は、いま最も注目されているヴァイオリニストの一人。4、5年前、チャイコフスキーとロン=ティボーの両国際コンクールで上位入賞を果たしている。
 クオクマンは、マカオ生まれ。ネゼ=セガンに認められフィラデルフィア管で副指揮を任されていた。現在は香港フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者。 
 クオクマンは過去何度か来日しているし、金川真弓の演奏会もたびたび開催されているが、聴く機会を逃してきた。二人とは初お目見え。

 最初は金川さんのソロでコルンゴルトの「ヴァイオリン協奏曲」。金川さんは髪をポニーテールにし、ダークブラウンの衣装で登場。
 序奏なしのヴァイオリンソロから始まるが、出だしの一音で驚いた。艶やかで瑞々しい音。オケの弦は14型でコントラバスが6、数種の打楽器も活躍する大規模な編成なのにヴァイオリンは一歩も引かない。強靱というよりは柔らかく深々とした音と、変幻自在の弓捌きでもってコルンゴルトの官能的な世界を現出する。噂通りの名手、表現力が半端じゃない。
 エーリヒ・ウォルフガング・コルンゴルトは19世紀末にオーストリアで生まれ、幼い頃から作曲をし、9歳の時の作品を聴いたマーラーは「天才だ!」と叫んだという。ユダヤ人だった彼は、ナチスの迫害によりアメリカへ亡命。ハリウッド映画の作曲家として成功したものの、前衛音楽全盛期のクラシック音楽界からは時代錯誤と貶められ、ほとんど無視されたままだった。
 「ヴァイオリン協奏曲」は終戦直後に作曲され、作品はマーラーの未亡人、アルマ・マーラーに献呈された。コルンゴルトは映画音楽を書くにあたってクラシック音楽の語法を活用したが、反対に、絶対音楽の創作に際しては、映画音楽の素材を転用した。モリコーネが言う“絶対音楽と映画音楽との共生”がここにある。
 この「ヴァイオリン協奏曲」を聴いていると、随所でジョン・ウィリアムスの響きが聴こえる。コルンゴルトはジョン・ウィリアムスなどに大きな影響を与えた。たとえて言えば、ときどき聴こえる『スター・ウォーズ』や『E.T.』の音響を搔き分け、超絶技巧が駆使された魅惑的なヴァイオリン音楽を金川さんは聴かせてくれたようなものだ。
 ソリスト・アンコールは、ミューザ川崎のHPによるとハイフェッツ編の「Deep River」。

 休憩後、R.シュトラウスの「ばらの騎士」組曲とラヴェルの「ラ・ヴァルス」。
 「ばらの騎士」組曲は、3時間を超えるオペラを30分程度に抜粋したもの。名旋律ばかりで、もちろん有名なオックス男爵のワルツもたっぷり聴ける。クオクマンは細身のいかにも運動神経のよさそうな身体を目いっぱい使って、キレのいい音楽をつくりだした。
 「ラ・ヴァルス」は「ウィンナ・ワルツ」へのオマージュといわれるけど、ワルツは背後で見え隠れするだけで優雅ともいえない。どう聴いても不穏なものが漂っている。古き良き時代への賛歌というより、決別のようにさえ聴こえる。クオクマンの振るオケはよく鳴り屈託がないのがどうかと思うが、東響は相変わらず好調で、とりあえずはひと安心である。
 クオクマンは「ばらの騎士」組曲をプログラムの最後に置くのではなく、あえて「ラ・ヴァルス」としたのは、欄塾のウィーンから頽廃のウィーンへ、という設計だったかも知れない。しかし、提供された音楽は爛熟や頽廃といった雰囲気より、身体能力が際立ったスピード感あふれる演奏だった。もっとも、これはこれで颯爽として楽しめたけど。

 今日は、何といっても金川真弓に尽きる。演奏会はニコニコ動画で配信された。見逃し視聴が可能である。

https://live.nicovideo.jp/watch/lv336116756