2025/2/9 ポペルカ×N響 二つの「シンフォニエッタ」 ― 2025年02月09日 20:54
NHK交響楽団 第2031回 定期公演 Aプログラム
日時:2025年2月9日(日) 14:00 開演
会場:NHKホール
指揮:ペトル・ポペルカ
共演:ラデク・バボラーク
演目:ツェムリンスキー/シンフォニエッタ
R.シュトラウス/ホルン協奏曲第1番
ドヴォルザーク/交響詩「のばと」
ヤナーチェク/シンフォニエッタ
N響初登場のポペルカ、数年前マティアス・ピンチャーの代役で東響を振ったのが日本デビュー。この公演を聴き逃してしまった。昨年のプラハ放送響の来日公演も行くことができなかった。で、今回、N響との組み合わせで聴くことに。
プログラムはツェムリンスキーとヤナーチェクの「シンフォニエッタ」を最初と最後に置き、間にR.シュトラウスの協奏曲とドヴォルザークの交響詩を挟むという凝ったもの。
「シンフォニエッタ」といえば、ヤナーチェクがあまりにも有名で、ツェムリンスキーは珍しい。ツェムリンスキーの作品は「抒情交響曲」しか聴いたことがない。ぼんやりとマーラーとシェーンベルクの間にあるようなイメージだけどよくは知らない。略歴をみると妹がシェーンベルクの妻であり、アルマ・シントラーとは一時恋愛関係にあったらしいから、当たらずといえども遠からずだろう。しかし、作品の印象はシェーンベルクにもマーラーにも似ていない。
「シンフォニエッタ」は3楽章形式。第1楽章は活気あるリズムで辛辣かつシニカル。第2楽章は神秘的なバラード、途中爆発的に高まり最後は静寂のなかへ消えて行く。第3楽章は舞踏的でエキゾシズムな雰囲気がある。ポペルカは活き活きと曲を運び、リズムのキレもいい。指揮姿もつくりだす音楽もしなやかだ。ただ、ツェムリンスキーの曲自体に手ごたえが乏しい。一度聴いただけでは正直作品の良さがよく分からない。
R.シュトラウスの「ホルン協奏曲第1番」は彼が18か19歳のときに書いたものだという。モーツァルトをお手本にしたような古典的な作風。冒頭のファンファーレからしてバボラークは超一級。中間のアンダンテを典雅にうたい、最終のロンドはホルンではとても難しい跳躍を連続してこなしていく。思わずトランペットではないのだから、と呟いてしまった。
R.シュトラウスは赤子のときから父親のホルンの響きのなかで育ってきた。管弦楽曲作品でもホルンが効果的に用いられている。そのR.シュトラウスの「ホルン協奏曲」をバボラークが吹いてワクワクしないわけがない。演奏後、バボラークに対してN響のホルン奏者が大きな拍手で称えていた。
「のばと」はアメリカから帰国したドヴォルザーク晩年の作品。チェコの詩人エルベンの詩集「花束」に基づく連作交響詩のうちのひとつ。「のばと」の物語は、夫を毒殺して若い男と再婚した女が、故人の墓の上の木にとまった野鳩の鳴き声を聴いて、良心の呵責に苛まれ自死する、というちょっとおぞましい内容。ドヴォルザークはこの話を1.夫の葬送、2.若者の出現、3.求婚、4.墓の野鳩、5.女の葬儀、という5つのセクションに分けて作曲した。
冒頭はフルートとヴァイオリンで奏でられる葬送行進曲、女に迫る若者の姿はトランペットで表わしているのだろう。第3のセクションに入ると若者と再婚した女が踊るダンスの場面、第4セクションは苛烈、野鳩の鳴き声が女の罪の意識を刺激し、悲劇的な最期に導く。落ち着かないオケの音響と低域のバスクラリネットが印象的。最後は再び葬送行進曲が流れ今度は女を弔う。コーダは長調に転じ浄化されるように終わる。
ポペルカはドラマの各場面を巧みに描き分け、終始見通しのよいドラマをつくった。ドヴォルザークの音楽は写実的で、小交響曲と交響詩の違いがあるにせよツェムリンスキーに比べると圧倒的に分かりやすい。
ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」は最晩年の傑作。第一大戦後、祖国は独立しヤナーチェク自身は老いらくの恋の真っ最中。その高揚と情念が「シンフォニエッタ」を生み出したかも知れない。1.ファンファーレ、2.城、3.修道院、4.街路、5.市庁、の5楽章構成で、交響曲の型にはまらない自由さと奔放さがある。
第1楽章はバンダとティンパニだけのファンファーレ。バンダはトランペットを中心に13人が舞台最後列に並び、ステージ上のオケではティンパニ奏者のみが演奏する。リズムは複雑、メロディは幾つかの声部に分かれ掛け合う。13人のバンダが優秀で見事なファンファーレを吹奏した。
第2楽章は民俗舞曲調、ポペルカは速めのテンポで旋律の歌わせ方も上手い。第3楽章は優美な曲調と過激な曲調が同居し、ポペルカは才気あふれる指揮でもって捌いて行く。第4楽章のトランペットの執拗なオスティナートも颯爽とした演奏。
第5楽章は「タラス・ブーリバ」を思い起こさせる。楽章の後半において沈黙していたバンダが再び加わる。このファンファーレ以降のポペルカのテンポの伸び縮みは絶妙としかいいようがない。力任せのところが全くないのにどこまでも高みに昇って行く。
N響の適応力も素晴らしく鳥肌がたつほどだった。コンマスは長原幸太、この4月からN響の第1コンサートマスターに就任する。