ゴヤの名画と優しい泥棒2022年03月12日 15:06



『ゴヤの名画と優しい泥棒』
原題:THE DUKE
製作:2020年 イギリス
監督:ロジャー・ミッシェル
脚本:リチャード・ビーン、クライブ・コールマン
出演:ジム・ブロードベント、ヘレン・ミレン、
   マシュー・グード


 もうすぐ春ですねえ……「春一番」を口ずさみたくなるような。いやいや、もう春ですねえ。ここ数日の暖かさで、耳の「しもやけ」は、あっという間に完治した。
 で、映画。ダ・ヴィンチ(http://ottotto.asablo.jp/blog/2022/02/25/9467306)に続いてゴヤを観てきた。
 『ゴヤの名画と優しい泥棒』という邦題は、ちょっと説明的で野暮ったいけど、原題の『THE DUKE』のままでは集客が難しかろう。

 またもや、ロンドンのナショナル・ギャラリーが舞台。1961年、実際に起きたフランシスコ・デ・ゴヤの「ウェリントン公爵」盗難事件が元ネタの、嘘のような本当の話。200年の歴史を誇るナショナル・ギャラリーで絵画が盗まれたのはこの一度だけだという。
 監督は『ノッティングヒルの恋人』のロジャー・ミッシェル。ミシェルは昨年惜しまれつつ逝去したから本作が遺作となった。

 あらすじは、妻と息子と小さなアパートで年金暮らしをするケンプトン・バントン(ジム・ブロードベント)が、テレビで孤独を紛らしている高齢者たちの生活を楽にしようと、盗んだ名画を身代金に公共放送(BBC)の受信料無料化を企てる。しかし、事件にはもうひとつの別の真相が隠されていたというもの。日本も英国と同じで、BBCをNHKに置き換えると身につまされる。

 最初は独りよがりの夢想家で偏屈な迷惑老人の話かとドン引き。ところが、最後、どんでん返しというほどではないものの、夫婦愛、親子愛がじわりと盛り上がってきて心温まる。長年連れ添った妻ドロシー(ヘレン・ミレン)とのやりとりなど会話劇としても楽しめる。オスカー俳優同士の丁々発止が爽快。
 後半の裁判シーンでは、ケンプトン・バントンの雄弁とユーモアに笑い、控え目な弁護士(マシュー・グード)の最終弁論に泣く。マシュー・グードは『ガーンジー島の読書会の秘密』(http://ottotto.asablo.jp/blog/2021/09/11/9422203)でもヒロインの担当編集者として好演していた。

 映画の背景で流れるジョージ・フェントンの音楽は、全体にジャズっぽく乗りがいい。と同時に、突然モーツァルトの「初心者のためのピアノ・ソナタ」を挿入したりして意表をつく。映画も音楽もなかなか味が深い。

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