みらい美術館の「エミール・ガレとガラス芸術展」 ― 2024年05月01日 13:02
こじんまりとした、というより本当に小さな美術館、小学校か中学校の教室ひとつ分のスペースもなさそう。そこにエミール・ガレとアンジー・ルソーの作品が50点ほど展示されていた。
「みらい美術館」は、みなとみらいに位置する横浜歯科医療専門学校の学園内にある。学園の創設者が歯科技工とガラス工芸には共通性があるということで、ガラス芸術作品を蒐集してきたのだという。
美術館は常設ではなく年2回の企画展のときのみオープンする。今回の「エミール・ガレとガラス芸術展」は“歯科医の審美眼”という副題のもと連休明けの6日まで開催している。次回の企画展は9月を予定しているとのこと。
展示品はガレとルソーがほぼ半々、他の作家が数点ある。ガレの作品は吹きガラス(吹き竿の先のガラスを膨らませる)と被せガラス(色の異なるガラスを重ね図柄を彫刻する)、ルソーはパート・ド・ヴェール(ガラス粉を型に充填し焼成する)工法で造られている。
ルソーは歯科技工を習得後、陶芸学校に学び、パリ近郊に自分の窯を開きパート・ド・ヴェール技法の研究を開始したという。薄ガラスの小型ランプが中心で、古代の遺跡から発掘されたようなアンティークで独特の風合いをもつ。パピリス文様のランプもあった。
ガレは大き目の花器に夾竹桃、藤、紫陽花、桐、葡萄といったお馴染みの植物文様が施されている。ガレ没後のガレ工房の作品が多いというが見分けはつかないし美しさは変わらない。
展示品のひとつひとつは照明に細心の注意が払われ神秘的な輝きをみせていた。
ゴジラ×コング 新たなる帝国 ― 2024年05月06日 15:46
『ゴジラ×コング 新たなる帝国』
原題:Godzilla x Kong:The New Empire
製作:2024年 アメリカ
監督:アダム・ウィンガード
脚本:テリー・ロッシオ、サイモン・バレット他
音楽:トム・ホルケンボルフ、
アントニオ・ディ・イオーリオ
出演:レベッカ・ホール、ダン・スティーブンス、
ケイリー・ホトル
はじめから予想はしていたもののハチャメチャな怪獣バトル映画。ゴジラとキングコングをコラボしたハリウッド版『ゴジラvsコング』の続編、今回はモスラも参戦する。レジェンダリー製作の「モンスターバース」シリーズの第5作目。
監督、脚本、キャストは前作と同様だから物語は連続している。といっても基本は怪獣同士のプロレスが売り物。物語はいつも通り添え物、紹介する必要もない。それにしてもハリウッド版の怪獣バトルは、飛んだり跳ねたりと軽々しく忙しいのが何度観ても気になる。
東宝のゴジラ映画は『ゴジラ-1.0』まで30作を数え、近年はか弱き人間が禍々しいゴジラの脅威に立ち向かうという物語重視のシリアス路線に回帰しているが、レジェンダリーのそれは怪獣対怪獣の闘いを物量作戦でもってこれでもかと描く。昭和の東宝『怪獣大戦争』や『怪獣総進撃』をハリウッド流にリブートしたようなものだ。
前々からゴジラ映画は深刻さと軽薄さという二路線が並立していた。今あるように資金些少の日本は含蓄に富む物語で、大資本のハリウッドはド派手な怪獣プロレスで、このまま勝負すればいいのではないかと思う。
ゴールデンウィークということもあって劇場は混んでいた。全米でも大ヒット中らしい。ハリウッド版は頭を空っぽにさえすれば暇つぶしに丁度いいかも。
2024/5/11 ノット×東響 マーラー「大地の歌」 ― 2024年05月11日 18:41
東京交響楽団 川崎定期演奏会 第96回
日時:2024年5月11日(土) 14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ソプラノ/髙橋 絵理
メゾソプラノ/ドロティア・ラング
テノール/ベンヤミン・ブルンス
演目:武満 徹/鳥は星形の庭に降りる
ベルク/演奏会用アリア「ぶどう酒」
マーラー/大地の歌
2024/25シーズン最初のノット監督のプログラムである。
「大地の歌」は6つの楽章をテノールが1,3,5楽章、アルトが2,4,6楽章と交互に歌う。連作歌曲の性格を持つ交響曲といわれる。古典的な交響曲と比べる異形だけど、その堅牢な構成感と作家のこめた強い思いから交響曲とされているのだろう。歌詞は李白、孟浩然、王維などの詩の翻案を使っている。現在では原詩がほぼ特定されている。
この「大地の歌」はノットのマーラー演奏における最良のひとつとなった。彫が深く表情が豊かで濃い。各楽章の描き分けが見事で、長編ドラマを堪能した感じだ。
メゾのドロティア・ラング、テノールのベンヤミン・ブルンスはパーフェクトな歌唱。オケの弦、木管、金管、打楽器も完全無欠な演奏だった。
天地と人の世、「Dunkel ist das Leben, ist der Tod」、孤独と諦念、厭世と悲観、青春と美と酒、そして、「ewig」で別れを告げる。途中、何度が落涙した。
交響曲が世界観、死生観を表現するものであるならば、「大地の歌」はたしかに交響曲であると、ノットが教えてくれた。
前半は「鳥は星形の庭に降りる」と「ぶどう酒」の2曲、マーラーからベルク、武満への繋がりを意識したプログラムなのだろう。「ぶどう酒」はボードレールの歌詞に曲をつけた演奏会用アリアで、ソプラノの髙橋絵理が独唱をつとめた。
ノットは夏に向かうせいなのか髪を極端に短くして登場した。東響のコンマスはニキティン、隣に小林壱成のダブルトップ、いや、ニキティンの後ろにはこの4月にコンマスとなった田尻順が座っていたから、コンマス3人の揃い組だった。
なお、2014/15シーズンより監督に就任したノットは、12年を経て2025/26シーズンを最後に退任する、と先日発表があった。残りあと2年である。
庭木の花 ― 2024年05月15日 12:17
3月に沈丁花の花が咲き、姫空木の白い花が続き、4月には花海棠と満天星がほぼ同時に開花した。いま5月は芍薬の大きな花と匂蕃茉莉の中くらいの花、定家葛や西洋柊の小さな花々がきそっている。この先、梅雨に向けては梔子が盛りとなる。花の季節である。
冬の終わりに挿し木した20本の五色南天はすべて発芽した。多くの葉が伸びてたくましく育っている。素人の好い加減な仕事だったが成功率100%には驚いた。このまま順調に育ってくれれば、来年には地植えできそうだ。
2024/5/19 大井剛史×プロースト響 マーラー「復活」 ― 2024年05月19日 17:52
プロースト交響楽団 第39回 定期演奏会
日時:2024年5月19日(日) 13:30開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:大井 剛史
共演:ソプラノ/盛田 麻央
メゾソプラノ/加納 悦子
合唱/日本フィルハーモニー協会合唱団
演目:山田 耕筰/交響詩「曼荼羅の華」
マーラー/交響曲第2番 ハ短調「復活」
アマオケの完売公演に初めて遭遇した。プロースト響は設立して20年、130名の団員を抱えるという。特定の母体はないようだが、この集客力は凄い。数多くの招待客を含んでいるとしても2000席の会場をほぼ埋め尽くすとは大したものだ。プログラム、指揮者、ソリストの魅力が与っているのだろうか。
前半は山田耕筰の「曼荼羅の華」。留学先のベルリンで書いた単一楽章10分ほどの交響詩。大規模な管弦楽曲でリヒャルト・シュトラウスを範としているのだろう。ほの暗いロマンチシズムが濃厚にただよい「死と変容」の影響を感じる楽曲。日本人による大正時代の作品というには斬新で立派な音楽に吃驚した。
後半はマーラーの「復活」。アンサンブルの精度にちょっと難があり、大井剛史の指揮もときに弛緩が感じられ、余り演奏に集中できなかったが、間奏曲風の第2楽章と第3楽章はまずまず楽しめた。加納悦子の「原光」は大昔に何度か聴いている。貫禄の歌声だけどかなりお年を召された。盛田麻央のマーラーはN響との「交響曲4番」(室内楽版)を覚えている。
楽器編成は巨大で、弦5部にピッコロ持ち替えのフルート4、イングリッシュホルン持ち替えのオーボエ4、Esクラリネットを含めたクラリネット5(さらに一部バスクラリネット持ち替え)、コントラファゴット持ち替えのファゴット4、ホルンが舞台上6+舞台外4、トランペットが舞台上6+舞台外4(終盤、別動隊の8人は舞台に登場。ホルンとトランペット各10人が並ぶ)、トロンボーン4、テューバ、ティンパニ2組(奏者は3人必要)、大太鼓、シンバル、大小のタムタム、トライアングル、小太鼓、グロッケンシュピール、鐘、むち、ハープ2、オルガン、加えて舞台外にティンパニ1組、大太鼓、シンバル、トライアングル、以上が管弦楽。そして、ソプラノ、アルト独唱と混声合唱。
ふぅ~、新しい交響曲の誕生である。