2023/4/12 周防亮介×Jpo弦楽五重奏 パガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番2023年04月12日 20:21



みなとみらいランチタイムコンサート
周防亮介×日本フィルハーモニー交響楽団メンバー

日時:2023年4月12日(水) 15:00開演
場所:横浜みなとみらいホール 小ホール
出演:ヴァイオリン/周防 亮介
   日フィルメンバーによる弦楽五重奏
    ヴァイオリン/田野倉 雅秋、末廣 紗弓
    ヴィオラ/小中澤 基道
    チェロ/大澤 哲弥
    コントラバス/宮坂 典幸
演目:シューベルト:弦楽五重奏曲 ハ長調
          Op.163より 第1楽章
   パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ニ長調
          Op.6(ヴァイオリンと弦楽五重奏)


 以前、「18区コンサート」において、“オケをバックに演奏される協奏曲を、弦楽五重奏用に編曲された伴奏で聴く”というシリーズが企画された。今回は「みなとみらいホールランチタイムコンサート」のなかで、同じコンセプトでもってパガニーニを取り上げることになった。
 パガニーニの「ヴァイオリン協奏曲第1番」は、オペラチックで素敵な曲なのに聴く機会を逃している。後にも先にもサルヴァトーレ・アッカルドの演奏一度のみ。
 伴奏は基本ズンチャ・ズンチャで複雑なことはやっていない。室内楽編曲のバックであれば超絶技巧の独奏ヴァイオリンが一層楽しめるだろう、との目論見でチケットを手配した。

 いまでこそクラシック音楽は、超絶技巧などといって一寸取り澄ましている。が、娯楽の少ない時代には、そんな綺麗ごとではなくて見世物や曲芸に人が集まるのと同じで、オペラにおけるカストラートや、器楽における特殊技法がもてはやされたのは物珍しさのためだった。カストラ―トのファリネッリや幼少のモーツァルト、ヴァイオリニストのパガニーニやピアニストのリストなどの人気も、今でいうアイドルを見聞きしたいという群衆心理の類だろう。現在だってそういった興味がまったく消え失せたわけではない。
 パガニーニはその典型で、熱狂した観客は涙を流しながら喚き、集団ヒステリーを起こした女性たちの失神騒ぎは度々だった。このあたりの話は映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』にも描かれている。筋書きはありきたりで、映像も目新しいところがなかったけど、パガニーニを演じた実際のヴァイオリニストであるデビッド・ギャレットの演奏ぶりはさすが。音楽が流れる場面はなかなか迫力があった。

 横道にそれた。今日の演奏会である。
 先ずはJpoメンバーで構成された弦楽五重奏によるシューベルトのハ長調、彼の最期の年に書かれた格別な曲。この五重奏曲はSQにヴィオラを追加するのではなくチェロを追加してチェロが2という特殊なもの。今回はチェロを追加する代わりにコントラバスという編成。全曲となると1時間近くが必要となる。
 オケメンバーで編成する四重奏や五重奏は、無難にまとまってしまう傾向にあるが、コンマスの求心力のせいか、普段からオケのなかで聴き合っているせいか、各楽器のバランスが良好で感心する。この第1楽章は、ミステリアスでありながら清澄、独特の浮遊感を感じる。adagio、scherzo、allegrettoと第2楽章以降も実演で聴いてみたくなる。

 田野倉さんのお喋りを挟んでから、メインのパガニーニ。
 周防亮介は初めて聴く。ここの小ホールの響きは素晴らしいし、楽器の1678年製ニコロ・アマティも名器だろう。でも、周防亮介の音がなにより魅力的。まさしくソリストの音、一聴して音色、音量が抜きん出ていることがわかる。高音は空気に吸い込まれ、低音は芯が太い。E線からG線までどこをとっても非常に滑らか。甘美な音に酔うほどだが、音離れがいいのか決してベタベタしない。
 開始楽章のフラジオレットの繊細さ安定度にびっくり、重音も濁らない。鮮やかすぎるカデンツァに唖然とする。中間楽章はヴァイオリンの音で身体がとろけそうな錯覚に陥った。最終楽章のスピッカートも活き活きとしている。跳弓とはいうが何種類あるのだろう。ダブル・ハーモニクスも軽々と難なくこなしていく。ヴァイオリンは魔性の楽器だ。とにかく美しい。
 目論見通り超絶技巧に圧倒されただけでなく、出来のいいオペラを楽しむかのように音楽を堪能した。

 そういえば、シューベルトも家具を売って金を工面し、パガニーニを聴いている。しかし、シューベルトはパガニーニの超絶技巧に影響はされなかったようだ。自らの感情表現にはほど遠いと感じたのだろう。では、パガニーニは技巧だけの刹那の音楽なのか。いや、超絶した技巧そのものにパガニーニの情念が乗り移っている。だからこそ、数百年後まで生き延び、こうやって聴く者に快感だけではない、言い知れぬ感情を呼び起こす。

 周防亮介のアンコールは、シュニトケの「ア・パガニーニ」、現代音楽というより未来から来た音楽のよう。これがまた端倪すべからざるもの、この先、周防亮介から目が離せない。
 ランチタイムコンサートといいながら15時開演、実は先に11時半開演の同一プログラムがあった。本来のランチタイムコンサートは大ホールで11時半に開催される。今日だけ会場が小ホールのため、2回開催となった由。

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