2022/11/20 ノット×東響 オペラ「サロメ」 ― 2022年11月20日 19:23
東京交響楽団 特別演奏会
R.シュトラウス/オペラ「サロメ」
(演奏会形式、全1幕)
日時:2022年11月20日(日) 14:00
会場:サントリーホール 大ホール
指揮:ジョナサン・ノット
演出監修:サー・トーマス・アレン
出演:サロメ/アスミク・グリゴリアン
ヘロディアス/
ターニャ・アリアーネ・バウムガルトナー
ヘロデ/ミカエル・ヴェイニウス
ヨカナーン/トマス・トマソン
ナラボート/岸浪愛学
ヘロディアスの小姓/杉山由紀
兵士1/大川博
兵士2/狩野賢一
ナザレ人1/大川博
ナザレ人2/岸浪愛学
カッパドキア人/髙田智士
ユダヤ人1/升島唯博
ユダヤ人2/吉田連
ユダヤ人3/高柳圭
ユダヤ人4/新津耕平
ユダヤ人5/松井永太郎
奴隷/渡邊仁美
ノット×東響がダ・ポンテ3部作に続いて、R.シュトラウスのオペラを演奏会形式でシリーズ化する、その第一弾。多くの交響詩が書かれたあと、R.シュトラウスが最初に成功をおさめたオペラ「サロメ」。大編成のオーケストラに、当代一のサロメ役といわれるアスミク・グリゴリアンが出演する注目の公演である。
ピットの制約がないため、100人前後のオケのメンバーが舞台いっぱいに並ぶ。指揮台の横に数脚の椅子が置かれ、歌手は立ったり座ったりして歌う。譜面台はなく歌手全員が暗譜、そして、狭いスペースである舞台の前面を移動しながら演技も行う。井戸の中のヨカナーンはP席の上手で歌った。
ノットの指揮する東響の音は強烈かつ緻密、「すべてのことを音楽で表現できる」と言ったR.シュトラウスの音楽を、まさに各場面場面が目に見えるように演奏した。
アスミク・グリゴリアンのサロメは、オケの大音量をものともせず突き抜けるほどの声量と表現力。その美貌とモデルのようなスタイル、演技力にも感嘆した。当代一のサロメというのは誇張でも宣伝文句でもない、まさにその通りの実力と魅力を放つ歌手である。
ヨカナーンのトマス・トマソンも気品のある朗々とした声でホールを満たした。真の預言者が降臨したかのよう。
この二人が頭抜けていたが、ヘロデ王のミカエル・ヴェイニウスの俗物性、ヘロディアス女王のターニャ・アリアーネ・バウムガルトナーの存在感もなかなか。
主役級の海外勢4人は、よくぞ揃って出演してくれたものだ、と感心するほどのレベル。邦人も健闘したけど、海外勢があまりに高水準で、今回はちょっと差が目立ってしまった。
物語のあらすじは、
国王ヘロデが宴会を開いている。後妻ヘロディアスの連れ子である王女サロメは宴会を抜け出して、井戸に幽閉された預言者ヨカナーンの声を聞く。サロメはヨカナーンに恋心を抱き、接吻しようと試みるが、ヨカナーンに拒否される。サロメを呼び戻したヘロデ王は、サロメに踊りを所望する。サロメは、王の「何でも望みを叶える」という言質をとって妖艶な踊りを舞う。踊りのあとサロメが求めたのはヨカナーンの首。サロメは斬首されたヨカナーンへ口づけし、恍惚の表情を浮かべる。これをみたヘロデは恐怖し、サロメの殺害を命じる。
おぞましい話で、退廃的、背徳的ながら、凄い音楽に圧倒された。正直言葉がみつからないほど。R.シュトラウスの器楽、声楽に対する操作にも心底脱帽である。
模範的な家庭人で常識人でもあったであろうR.シュトラウスが、このような淫蕩で悪魔的なオスカー・ワイルドの戯曲に音楽をつけたのは、職人ゆえの関心なのだろうか。生活者としての、芸術家としての、そして、もうひとつナチとのアンビバレンスな対応からして、政治的人間としての、それらを統合した人格のR.シュトラウスに思いを巡らせてしまう。
まずは、今年のベストコンサートの筆頭だろう。