「マトリックス」その42022年01月06日 17:08



『マトリックス レザレクションズ』
原題:THE MATRIX RESURRECTIONS
製作:2021年 アメリカ
監督:ラナ・ウォシャウスキー
脚本:ラナ・ウォシャウスキー、デビッド・ミッチェル、
   アレクサンダル・ヘモン
出演:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、
   ジェシカ・ヘンウィック


 正月映画に選んだのは「マトリックス」その4、つまり『マトリックス レザレクションズ』。
 ほぼ20年前の「マトリックス」3部作は、綺麗に完結している。ウォシャウスキー兄弟――いや今は姉妹――も、当時は続編を製作することなど想定していなかっただろう。それが興行上の要請なのかどうなのか、さらに「マトリックス」を作ることになった。
 神話のごとく完成し閉じてしまい、そして、あれだけの話題を提供した作品群の後継となれば、物語的にも映像的にも困難を極めることを承知のうえで。
 その回答が『マトリックス レザレクションズ』であるのなら、これは真っ先に観なければならない。 
 なお、「マトリックス」その4には、ラナの妹のリリーは参加していないという。ラナ・ウォシャウスキー単独での作品となった。

 物語は神話から60年後の世界。3部作をメタ構造に内包させ、仮想現実ではゲームとして、現実世界では聖書として扱うという意表をつく展開ではじまる。こういう手があったかと、思わず膝を打った。映画の冒頭数十分、仮想現実のなかで3部作の後継ゲームをどうするかというやり取りが笑わせる。自己言及的な視点が「マトリックス」の続きであるような、続きでないような気分を誘う。その後は3部作を引用しながら、旧作と同様、虚実の間を行き来する。世界観は特に変わらず、必然的に3部作を復習するような具合となる。
 映像面は3部作ほどの斬新さに欠ける分、より現実味が増している。戦闘シーンもメインキャラクターたちは、相応に歳を重ね動きが鈍くなってるはずなのに、カメラワークと編集カットとを駆使し、スピード感豊かに撮られている。さすが旧作のようなあっと言わせる新奇なシーンは少ないものの、現代的で熟成した安定感のある映像が次々と現れる。
 キアヌ・リーブス(ネオ&アンダーソン)やキャリー=アン・モス(トリニティー&ティファニー)は、仮想現実に対するぼんやりとした違和感を翳りをもって演じている。それは一段と陰影を深め、SF映画ながらリアリティを高めることに貢献している。ネオとトリニティーの愛も健在だ。一方、新しいキャラクターでは、ジェシカ・ヘンウィック演じるバッグスが活動的で魅力的、生身の人間が縦横無尽に飛び跳ね、新時代の女性を象徴しているよう。ことに守旧派になってしまった年老いたナイオビ(旧作と同じジェイダ・ピンケット・スミスが演じている。因みに彼女はウイル・スミスの奥様)を対極に置き、懐かしさとともに時代の移り変わりを鮮やかに描いている。

 『マトリックス レザレクションズ』は、3部作を知っていればもちろん、この一作だけでも完結された作品として楽しめる。
 もっとも、「マトリックス」その4が終わってみると、3部作をもう一度観てみたいと思う。本作においてゲーム的にも聖書的にも扱われた世界を再確認したいと。
 実際、当時は3部作の世界観に惹き付けられたというよりは、ビジュアル側の面白味のほうに魅了されていた。
 SF映画――SF小説やSF漫画もそう――は、往々にして近未来を予知してしまうことがある。今、3部作を改めて鑑賞すれば、台詞の一つひとつが鮮度を保ったまま、新たな意味を付け加えてくれそうな、そんな気がするのだ。