稲荷神社の柴犬2022年01月02日 14:11



 稲荷神社がある。線路沿いの細い道から十数段ほど石段を登ると、もう鳥居である。普段、鳥居のふもとには柴犬が繋がれている。今日は社務所の前に移されていた。
 境内は初詣の人で賑わっていて、社殿は開け放たれ灯がともされ、神主が正装で御幣を手にしていた。社殿の手前には一対の小ぶりの石のお狐様が鎮座している。今まで、ちゃんと境内を見渡すことがなかったせいか、柴犬に気をとられていたせいか、目に入らなかった。稲荷神社だからお狐様が居て当たり前だ。

 社務所前の柴犬はというと、参拝客の子供やご婦人方から頭や首を撫でられ目を細め愛嬌を振りまいている。
 いつもは柴犬に手を出しても寄って来ない。一瞥され尻を向けられるのがオチだ。だいたいが石段の天辺か中途で、寝てるか座り込んで起き上がりもしない。このあたりの犬や猫は、なんて愛想なしが多いのか、と思っていた。
 ところが今日である。神社としては書き入れ時だろう。ふつうは閑散としている境内にも初詣のお客さんが溢れている。神社の柴犬は、うんともすんとも言わないものの、ちゃんと自分の役割をわきまえ奉仕している。

 鳥居の下が定位置であるはずの柴犬が、朝夕いないときがある。
 ある日の夕方、神社のそばで宮司の奥さんらしき女性に連れられて歩いているのを見たから、朝夕は散歩に出ている。また小雨が降っているときにも姿が見えなかった。きっと社務所のなかで雨宿りしているのだろう。
 けっして放置されているのではない。それどころか大事に育てられている。だからといって、今日のような振る舞いをしてみせる、というわけではもちろんないだろうけど。頭のいい犬だ。