2021/12/5 ノット×東響 ブラームスとルトスワフスキ2021年12月05日 20:36



東京交響楽団 川崎定期演奏会 第84回

日時:2021年12月5日(日) 14:00 開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:ピアノ/ゲルハルト・オピッツ
演目:ブラームス/ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.83
   ルトスワフスキ/管弦楽のための協奏曲

 
 12月に出演予定の海外演奏家のほとんどが来日不能となり、各楽団とも代役を立てるなかで、ノットは事前に入国していてぎりぎりセーフ。ソリストのオピッツも日本ツアーの合間を都合して、体調不良のニコラ・アンゲリッシュに代わってブラームスを弾く。

 今日の東響は、コンマスが小林壱成、ニキティンがアシストに入ってダブルトップ体制。弦は第1ヴァイオリン14だが、チェロ10、コントラバス8で低音を増強した配置。2曲とも弦の編成は同じだったと思う。

 最初はブラームスの「ピアノ協奏曲第2番」。
 超絶技巧のピアノ独奏にオケの伴奏をつける協奏曲ではなく、ピアノと管弦楽を融合させた、いわばピアノ独奏付の交響曲。もちろんブラームスのことだから、高度なピアノ技巧が必要なことに変わりない。2楽章にスケルツォを置き、全4楽章から構成され、なおさら交響曲風。演奏時間も50分を要する。1877年の「交響曲第2番」、1878年の「ヴァイオリン協奏曲」と同時期、油の乗り切った全盛期の作品である。
 第1楽章では、大野さんの吹くホルンの柔らかくゆったりとしたソロに、オピッツの弾くピアノの分散和音が寄り添う序奏からして、ブラームスの世界に引き込まれる。第2楽章は情熱的で勇壮。第3楽章の緩徐楽章では、主要主題をチェロが提示する。ちょうど「ヴァイオリン協奏曲」の第2楽章のオーボエのように。伊藤さんのチェロはやはり美しい。ピアノと吉野さんのクラリネットの弱音での絡み合いも絶美。今回はこの第3楽章がクライマックス、溜息がでるほどだった。第4楽章は軽快で明るいロンド。オピッツのピアノは重厚でバリバリ弾くのと違い、少し軽めで端正なたたずまい。とくに4楽章においては、それがよく似合っていた。

 後半は、ルトスワフスキの「管弦楽のための協奏曲」。
 「管弦楽のための協奏曲」といえばバルトークがあまりにも有名だが、ルトスワフスキのオケコンも演奏機会が増えていいはず。この曲、音盤を持っていない。初聴きなので、事前にYouTubeで予習したが、もうひとつ捉えどころのないまま実演を迎えてしまった。しかし、曲の凄みは生で聴くとよく分かる。いや、生でしかその真価は分からないのかも知れない。
 序奏、間奏曲、終曲の全3楽章。主題はポーランド民謡が素材として用いられているから耳には馴染みやすい。ところが、素材は変形され、不協和的な和声が施され、原型をとどめないほど加工されている。音響的には極めて斬新、意表を突かれる。実際に聴いてみると、作曲家の並々ならぬ強い意志を感じる。持てる技法や知識をつぎ込んでいて、熱量を抱え込んでいる。
 こういった曲を振るときのノットは、沸点がさらに上昇し、熱気がほとばしる。ノットは暗譜、いや暗譜でなければこれほど変幻自在なコントロールは難しかろう。もちろんオケコンだから東響の名手たちの妙技もとうぜん堪能した。あっと言う間の30分だった。

 ルトスワフスキは、国は違えどもショスタコーヴィチと同様、生涯の大半を共産主義の時代に過ごし、作曲活動そのものが圧政下にあった。大変不幸なことだが、その不自由な環境がかえって新たな創作力を産み出したのだろう。その結実が「管弦楽のための協奏曲」、ルトスワフスキの出世作であって、その後の創作活動の礎となった傑作である。

 今回の演奏もニコニコ動画で無料配信された。タイムシフト視聴も可能。

 https://live.nicovideo.jp/watch/lv334559166

 なお、ノットは、このまま引き続き日本に滞在し、28日、29日の「第九2021」に出演する。ヨーロッパでのスケジュール調整に手間取ったが、滞在を延長し予定通り出演することが決定した、と3日にアナウンスされている。

 迷惑なウイルスによって、音楽の世界ばかりか人の世の様々な活動が正常に戻らない。ワクチンを接種しても変異株が発生するから、いつまでたっても完全に阻止できない。ヨーロッパなどではまたまたロックダウンである。ワクチンとウイルスの追っかけっこでキリがない。経口の治療薬で完治できるようになるまでは我慢が続く。鬱陶しい時代である。

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