2021/7/18 ノット×東響 ドン・キホーテ ― 2021年07月18日 18:57
東京交響楽団 川崎定期演奏会 第81回
日時:2021年7月18日(日)14:00
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
指揮:ジョナサン・ノット
共演:チェロ/伊藤 文嗣
ヴィオラ/青木 篤子
演目:R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」 op.35
シベリウス:交響曲第5番 変ホ長調 op.82
ノットは早々と6月29日に来日し、この7月公演に備えて待機していた。その滞在中のホテルで『ぶらあぼ』のインタビューに応えている。準備万端ということだろう。
https://ebravo.jp/archives/93775
前半は「ドン・キホーテ」。
大暴れするかと予想したが外れ。ドン・キホーテの狂気よりは悲しみにスポットを当てた繊細な演奏。
オケも前回5月の特別演奏会のときは、久しぶりの監督との手合わせで張り切り過ぎた感じだったが、今回は落ち着いた対応。
ドン・キホーテのチェロとサンチョ・パンサのヴィオラは当然ソロが目立つが、曲の構造上は変奏曲で普通の協奏曲とは違う。チェロ、ヴィオラだけでなく、コンマスのヴァイオリン、管楽器のそれぞれもソロを担う。
そういう意味では、チェロ、ヴィオラがオケの前に位置するよりは、今回のようにオケの中に入って、つまり、通常の定位置で演奏するほうが自然かも知れない。それに初めて気づいたが、チェロがソロを弾くときも他のチェロは沈黙しているわけではない。チェロ隊全体がソロを背後で支えていることが多く、R.シュトラウスの書法に感心しきり。
もちろん、気品あるドンキホーテの伊藤さん、サンチョ・パンサの青木さんは見事な演奏だったけど、東響の首席たちの腕前もプロとはいえ皆たいしたものだ。
ところで、『ドン・キホーテ』なる小説を知らない人はいないだろう。『聖書』の次に読まれているくらいだから。でも、日本で実際に読んだ人はそんなにいるのだろうか。
昔、気まぐれに読んでみようと思ったことがあった。しかし、文庫本で前後編合わせて6冊、総ページ数2500頁を越えるボリュームを前にして、踏破する自信が失せた。
で、安直なことを考えた。抄訳はないかと。あったあった。名訳の誉れ高い牛島信明が少年文庫のために編訳したものが。全体の6分の1程度400頁足らず。これが面白かった。1日で読み切った。
牛島さんはこう言っている。「おそらくは、この編集作業に翻訳と同じほどの、あるいはそれ以上の時間が費やされたのではないかと思う」と。この労作のお蔭で「ドン・キホーテとサンチョ・パンサの世界」の一端を味わうことができた(岩波少年文庫 セルバンテス作『ドン・キホーテ』牛島信明編訳)。
これをきっかけにして、本編へ挑戦すればよかったのだけど、恥ずかしながら未だに実現できていない。
さて、後半はシベリウスの「交響曲第5番」。
どういうわけか英国の指揮者は、バルビローリやマルコム・サージェント、コリン・デイヴィス、ラトルなどシベリウスを得意としている。ノットはどうか。
ノットのシベリウスは初めて聴いた。バルビローリのように感情過多な粘着系ではなく、荒涼たる景色が浮かぶようでもなく、暖かく端正で、それでいてじっくりと歌い上げる風だった。
今日は2曲ともノットの意外な面をみせてもらった。